第243話 現状変更と戦争の空気

「それでは調査団の全日程が終わったんですね」

「はい、それで特に危ないと思われる日米代表を護衛する形で日本に同行して欲しいとのことです」

「となるとシューティングスター出せってことかな……」

「ミサイル攻撃前提なので、そのようですね。シューティングスターというのはイネさん専用のアグリメイトアームでしょうか?」

「いえ、自前で作ったロマンの塊です」

 そんなやり取りがあったのが今日の午前中、皆で朝食を食べていたタイミングだった。

 領事館の人たちはアグリメイトアームの単語を知っていた程度にはアングロサンの知名度がじわじわと広がってきている証明だけど、明らかに目立つ護衛を付けることを決定したってことは何かしらの襲撃があるって予見できるということでもある。

 イネちゃんたちはムーンラビットさんと合流してから調査団の人たちと合流し、各国のチャーター機にそれぞれが乗り込んでいる中、日米両代表とイネちゃんを除く大陸の面々が同じ飛行機に乗り込んでいることもちょっと気になる点。

「こうした方が色々と都合が良くなる」

 というのがムーンラビットさんの発言で、その言葉に両国代表も頷いていたことを考えると政治的に何かしら利用出来ることが発生することがほぼ確定ということで、そのゲイ的対処のためにイネちゃんだけ外で巨大人型ロボットっていう目立ちまくる機体を使っての護衛っていう手段まで指定してきたのはそういうことだよね、うん。

<<イネ嬢ちゃんはこっちのランディングと同時に移動を開始で頼んだんよ>>

「それはいいですけど、少し上空気味にならないとシールドビットの展開は難しいですからね」

<<そっちは逐次増やす形で展開してくれればええよ。流石に空港滑走路を破壊する形での襲撃はこの国が許可を出さないだろうからな>>

「その予測が外れる可能性、どのくらいあります?」

<<かなり多く見積もれば30%程度やな>>

 結構大きいな……一応シューティングスターを生成出現させるタイミングで滑走路全体の状態を確認して地雷とかがないことは確認しているし、シューティングスター生成と同時に飛行機の鋼板に軽くアングロサンで使われる補修用の粒子金属をまぶしておいたので少なくとも狙撃銃で撃ち抜くのは極めて難しくなっているし、対物銃で狙撃されてもそれはそれでイネちゃんが対応出来る範疇のため気にしなくてもいい。

「とりあえず今出来る範囲で、飛行に問題ない範疇での補強はしておきましたけど」

<<こっちでも中からある程度防護してるからそれで十分よ。スタッフも厳選はしたが万が一のために中で大立ち回りの可能性も否定できんしな>>

「せめてそっちは否定して欲しかったです……」

<<迎撃出来るなら襲撃された方が都合がいい連中が結構いるんよ>>

「なんか最近それに振り回されてる気しかしない」

<<現場に負担をかけてるのはこの人らも認識してるからな。イネ嬢ちゃんたちは力が特別なだけでその精神性とかは特別ではないって何度も言ってやってるから戻るまでは頑張ってな>>

「イネちゃん限定で戻った後また来ることになりそうですが」

<<そこはまぁ単独になって組織としてはヌーリエ教会のみが影響する形なんで終わったあとに話そうな>>

「そういうことにしておきます」

 とりあえずいつもの流れということなので今は護衛に集中する。

 みんなを乗せた飛行機がランディングを始めたものの、空港内からの視線はイネちゃんの乗るシューティングスターに注がれているのでこれはこれでいいとして……流石に50m級の人型ロボが突然現れたらヘイトは集まるのも当然なのでこれはいい。

 むしろこの状況でも飛行機に対して視線を持って行っている奴がいれば疑うべきだし、そうでないにしても視線をどこか別のところを見ているのも注意すべき対象。

 まぁ空港施設内にいる連中はイネちゃんが同行できる状況ではないので射線だけ注意してシューティングスターを垂直浮遊させつつ短い距離で展開出来る分のシールドビットを飛行機のコックピット付近に待機させる。

「さてと、後はムーンラビットさんがこの国からもらっているフライトプランからすると明らかにプランに無い航空機に対してどう対応するかかなぁ」

 地球科学ではステルスでもアングロサン科学ではステルスにならないっていう基本的な問題を考えずにどうにも戦闘機を飛ばしているっぽいんだよなぁ。

 アングロサンの光学センサーで捉えてレーダーに表示しているし、既にデータ補正してコックピットモニタに映像として映し出されている辺り科学力の差っていうのが周知できていないんだなとは思うものの、攻撃行動が無い状態でこちらから手を出す訳にはいかないし、あちらからすれば唐突に50mの人型ロボットが空港に出現したとなればスクランブルくらいかける可能性も否定できない。

 最も、こっちがロボット護衛につけるということはあちらの国家上層部に通達しているので攻撃してきたら迎撃してもいいって許可までもらっているんだけどね、うん。

 とはいえ実際ミサイルを撃たれたときはどうするか決めておかないと色々面倒かなぁ、シューティングスターがこの地球の核兵器叩き込まれても大丈夫だろうってレベルとは言っても周辺被害が甚大になるし、核弾頭かどうかを見極めるための架空金属粒子バラマキも航空機の航行の安全って意味では電波を阻害しない程度にしか散布できない。

 ちなみに言えば架空金属粒子がジェットエンジンに吸い込まれても触れた時点でどうかするようにしてあるし、それ以上に粒子の大きさを可能な限り小さくしてあるのでそれこそ砂塵を巻き込むより安全な感じに制御してあるからそっちは問題にならない。

 問題になるのはやっぱ電波の阻害能力なのであまり散布したくないんだよなぁ。

 なんて考えていると飛行機が上昇し始めるところまで移動していたのでイネちゃんも並走する形で飛行機を追いかける。

 戦闘機に関しては……なんというかもうイネちゃんを攻撃してくる分には無視しておこう、そっちのほうが色々と荒波立たずに済むはずだし。

 そう思いつつ飛び立った飛行機に対して残りのシールドビットを展開させてイネちゃんは少し後ろにつく形で飛ぶ。

 戦闘機もどうやらこちらを偵察監視が目的らしく一定距離を取りながら飛行しているので戦闘にはならないかなーと思っていると隊列を乱してシューティングスターの真後ろに移動してこっちにロックオンしてきた奴が出て来た。

 ロックオン自体戦闘行動だし反撃されても文句は言えない行為……なんだけどいっそ民間人にもわかりやすい形でお前らがやらかしたって認知させるために放置しておくかな、一応ムーンラビットさんにも連絡入れてっと……。

「今この国の戦闘機からロックオンされました、どうしましょうか」

<<連絡入れてる時点で反撃するつもりないよなそれ>>

「だってまだこの国の領空でしょう?」

<<言い訳させないためってことか。でもあまり気にせんでええよ、あまりに気になったら機能不全起こす形で落としてもいいからな>>

「それは脱出できなくなるような……でもまぁ許可が下りたと思っておきますね」

<<それでええよ。というより本格的に弾撃ってきたら迎撃しないほうが悪いとか言われるルートもあるんでそれなら迎撃して捕虜にしたほうが圧倒的に展開が楽になるしな>>

「あちらとしてもその捕虜を切り捨てればいいだけって意味でです?」

<<まぁそういうことやね。とりあえず……こっちも今軽めの戦闘中なんで外からはよろしくな>>

「結局中でも戦闘なんですか!」

 となると今後ろにいるのは中が失敗した場合の保険扱いしてそうだなぁ。

 既に上空なので狙撃は無いにしても逆に目撃者がいないから軍事的に好きに出来るって状態だしね、他の国の代表は既に国境外なわけだし、1番の問題になるだろうヌーリエ教会組を排除できればと考えていても不思議ではないし……いやまぁムーンラビットさんだけならイネちゃん放置するんだけどね、うん。

 とりあえず中の戦闘に関してはロロさんがいるし、なんだったらムーンラビットさんが少し本気になってくれればいいだけの話だからイネちゃんは気にせずにおいて、中が片付いたときのためにいつでも迎撃防衛出来るようにする……だけならよかったんだよなぁ。

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