第241話 予備待機
「待機ですか」
ヒヒノさんと交代だと思っていたのでムーンラビットさんから聞かされたときにちょっと素っ頓狂な感じの声をあげてしまった。
「アングロサンがこっちの事情を理解してか要請以上に人材派遣してくれてな。あちらの意図としては特に要求がなかった……っていうか未だ人工あざたんから世界を守ってくれたって認識で恩返しをするためにあちらとの異世界ゲートを月詠嬢ちゃんの持ってるひもろぎシステムの応用で安定させてまで宇宙と多元世界の同居人として対等関係を維持してくれるらしくってなぁ」
「甘える形で一気に余裕ができたと」
「端的に言えばそうなるな。もっと言えばアングロサンとイネ嬢ちゃんが暮らしてた方の地球の技術、それに月詠嬢ちゃんの世界の技術が流入したことでヌーリエ教会的に重要な一次産業と食品関係の加工分野以外で機械化できるところはして、食品加工に関しても酒造や調味料加工は地球式を導入したことでヌーリエ教会の人員の配置を効率化することができたってのが大きいな。今回の手合いはアングロサンに頼るよりも自前で人員を捻出したほうが最適解だったんで導入を渋ってた連中も渋々ながら導入したのがな」
「むしろ加工部分、やってなかったんですね」
「そのへんはイネ嬢ちゃんの影響も少なくないな。あの子、ヌーリエ様の力を純然と使い寄り代にもなれる勇者の力が科学分野を全肯定しているようなものだったのが古臭い考えをしてた連中には1番効いたってことよ」
「あー確かにイネちゃんの力の使い方って人類科学方面の応用で超自然的な要素が殆ど見えない形だから」
「そういうことよ。少なくとも勇者がその応用を許されている時点でヌーリエ様は否定しないって証明されてるようなものだしな。最もイネ嬢ちゃんの利用範疇は基本周辺被害を極力抑える前提だからってのが1番大きいようで、アングロサンの核融合炉はそのままだと効率悪くなってたな。ひもろぎシステム制御でのトカマク型なら100%稼働できたらしいからちゃんと線引きはあるんよ」
「超科学も超自然も否定しないラインってことですか……普通だと絶対気づけないラインですね」
「ヌーリエ様のさじ加減ってところよな。あの子もあの子でバランス取るのを頑張ってるってことよ」
「まぁイネちゃんの感覚的には大きい現状変更をしない、余儀なくされてる場合でもできるだけ人を含めた自然に大きく影響しないようにっていうラインを感じてますからね。戦闘のときの拡散防止はイネちゃんの意図的な制御以外にも力場が働いてますし実感はあります」
「ま、そんな感じにうまい具合に機械自動化できたところで人員整理の目処が立ってその第一陣を編成できたんよ」
今まで大きく制約を受けていたのはヌーリエ教会の人員不足が最大要因だったからなぁ、それが少しばかりとはいえ解消されつつあるとなれば現場からすればバックアップがしっかりするし増員も見込める形になるからかなりの安心感を得ることが出来るし、その分補給も充実する流れもできるから士気もかなり維持しやすくなる。
どんな状況でも対応すべきっていう意識で望んでるイネちゃんとロロさんは問題なかったけれど、調味料が無いってリリアは不満出してたしヒロ君も旅先特有の不安感をずっと感じてたっぽいしね。
ヨシュアさんもヒロ君の不安を取り除くためにあれこれ気を遣ってて披露が見え隠れしてたことを考えるとやっぱり少数精鋭がすぎて疲労負荷が重かったよね。
「それでまぁ待機はいいですけど……それはそれで退屈に殺されないか心配なんですが」
「イネ嬢ちゃんはちゃんと休むことを学びな?」
「適当に訓練してダラダラとリリアのお菓子を食べながらゲームするくらいしか思いつかないですって……」
「まぁそれでもええが、たまに完全休養日作るっていうのも賢い大人ってところよ」
「そういうものですかね」
「そういうもんよ。ココロはまぁあんな性格だから修行の一環とかササヤが言って休ませてるが、ヒヒノはそういうところうまく立ち回ってるからな、珍しく一緒することになるんやから色々学べばええよ」
ココロさんはなんとなく言われないと休まないだろうって予想してたけど、ヒヒノさんは逆に言われなくてもなんだなぁ……まぁうまい休み方っていうのをイネちゃんはお父さんたちからしか学べてないしここはムーンラビットさんの言うとおりヒヒノさんの仕事っぷりと一緒に休み方を学ばせてもらう思いでいればいいか。
「ところでそのヒヒノさんはどこに?」
「この国の偉いさんに丁寧な挨拶をしてから異世界ゲート通ってイネ嬢ちゃんが対峙した老人にも挨拶しに行くって宣言してたで」
「それもう異世界行ってますよね」
「準備させても良かったが、ヒヒノのやりやすいやり方させた方がポテンシャル引き出せるからな。あの子は指示されるよりも自由にやらしたほうが結果出すタイプなんで私も楽できる算段で考えてるんよ」
「脅しと宣戦布告だったらどうするんです?」
「その時はその時でヒヒノだけで終わるだろうしな。完全に滅ぼすつもりがないのならすぐイネ嬢ちゃんに声がかかるはずよ」
「それ確定でイネちゃんが主力になるってことですよね……」
「そうとも言うな。だがまぁ相手さんのエースやら誰かを見下さないと息ができないような連中は全部ヒヒノが対面するだろうしイネ嬢ちゃんとしても楽できる戦場になるのは確定よ」
「戦争前提なのはちょっとって思っちゃいますけど」
「相手がそういう国家なら戦争も外交手法の1つやからな」
「理解できてるけどやっぱ控えたいんですけど」
「相手がノリノリかどうかの見極めはイネ嬢ちゃんよりもヒヒノの方がうまいし、スーをつけれたから安心するんよ。あの2人ならまず戦争回避から入って相手が戦争したがっているのなら議事録で相手から仕掛けてきているように誘導するくらいやるしな」
「好戦的な相手ってなるとそれ相応の戦争の始め方があるってことですか」
「戦後の歴史調査でこっちが悪い扱いされるのを避けるためにもやっておく必要があることが山ほどあるし、言葉1つ1つ気をつけなきゃならんよ」
「というか1週間の間に異世界の文化的外交ってのも把握できたんです?」
「イネ嬢ちゃんがであった老人は比較的穏健派だったくらいにはわかったんよ。ちゃんと立ち合わせてあれこれの襲撃に関しての内容についても色々と問いただしつつじわじわ追い込んでやったんでな」
その割に1週間威力偵察されてたんだけど……いやまぁ完全に威力偵察というなのなんちゃって襲撃ではあったけどさ。
「外交相手の実力調査ってのが異世界でこっちに干渉してきている国の文化らしいで、それは。相手が悪いってことで老人が形式上やってますよってことを上に報告するためにわざとやってた奴やね」
「その矢面だったと……」
「イネ嬢ちゃんには悪かったが、まぁ他にヘイトが向くリスクを考えればな」
「それはわかるので別にいいですけどね、イネちゃんとしてもリリアのおやつの時間を知らせる時報みたいにここ数日はなってましたし」
迎撃時間3分程度だったしおやつ前の適度な運動認識になってたのが否めないからね、うん。
それにその運動もかなり軽かったからね、おやつを食べた後にリリアと一緒にフィットネスゲームしたりで楽しかった。
「充実してたんやな、なんだかんだ休めてたなら何よりよ」
「まぁ、1人でやるよりは充実してましたよ」
「じゃあ何か動きがあるまでは今までどおりにリリアとキャッキャウフフしててくれれば……」
「キャッキャウフフではないです」
とりあえず、イネちゃんが今まで以上に暇になることが確定したのは間違いなかった。
ただでさえ暇な時間の使い方が下手なイネちゃんにとってかなり大変なことになったのは間違いないね、うん。
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