第240話 人員交代
ムーンラビットさんに報告をした1週間後、何度か襲撃はあったもののあくまで威力偵察程度の意味を持たない簡単に迎撃できる程度……どころか普通に地球科学範疇で迎撃余裕な内容のものばかりだった。
この1週間の間の襲撃の目的はどうにもイネちゃんの身体能力と物理的な攻撃能力を調査するのが目的だったようだけれど、あちらの常識範疇でそれをやってきたものだから全部銃撃戦するだけの簡単なお仕事でしかなかったっていうね、どうにも魔法や監視する者の運用は限定されたエリートか、高価なマジックアイテムが必須って制限はあるんだろうね。
それで今現在、イネちゃんは何をしているかというと、襲撃してくる相手がイネちゃんに狙いを定めたためにイネちゃんが調査団に混じって動くのもデメリットになるしイネちゃんたちが調べようとしていた内容に関してもこの国と異世界との繋がりの証明だったから実質証明完了してしまってやることがなくなっていたのである。
しかも狙われるのがイネちゃんに集中していたことからヨシュアさんとロロさんに意識してもらう形にしてヒロ君に他の国をゆっくりと見るという形で観光してもらいつつも、イネちゃんが単独で領事館待機なのをあれこれ考えた上で一緒にいてくれてるリリアがいるし、なんだったら毎日新しく覚える現地の料理をアレンジしてイネちゃんたちの口に合う形で楽しく料理してるから寂しくもないんだけど……。
「やっほーイネちゃん」
そんな日々の中、今日もそろそろ領事館に対して襲撃者が来るタイミングかなと思い外に出ると交代予定であったヒヒノさんが姿を現した。
「ヒヒノさん、早かったですね」
「元々引き継ぎ用の書類とかは作り終えてたからね、人が来ればすぐに交代できたからさっさと引き継ぎ終わらせてきたよー」
「となると元々交代予定で事前準備してたってことですかね」
「そゆこと、そもそも私が担当する予定期間を大幅に延長してたんだからむしろ今回の件でようやく動けたって感じだね」
「結構便利に配置されてたんですね……」
「イネちゃんほどじゃないかなー私の力ってそれほど応用できるようなものじゃないからココロおねぇちゃんやイネちゃんみたいに他の人にも真似ができなくはないって領域でもないし」
ヒヒノさんは概念焼きの炎で、相手を殲滅するって意味では間違いなく3人の勇者の中では1番強いし防御される心配もない。
逆に言えば交渉事で相手に対等を示すには向いていないとも言えるけど、今回は相手がイネちゃんを前にしてもしたに見てきていたからそういう意味では向いていると言えば向いている。
「一応私は大陸貴族の一般常識も履修済みだよ。腹芸って意味ではココロおねぇちゃんは練習してないから難しいし、イネちゃんも聞きかじりで本格的にそういう世界の会談とかだと実力不足だから私がってのはいつもの流れだからね、まぁ勇者の力的にイネちゃんのが抑止力として不十分だってムンラビおばあちゃんが判断したのなら最大抑止効果を狙う場合私かササヤおばちゃんしかいなくなるってのも事実だけど」
「最大抑止っていうか、もう抵抗は無意味滅びるぞっていう脅しレベルというか……」
「正直どうあがいても現状変更になるから私やササヤおばちゃんが交渉時点で出て行くのはよほどの人不足か、最初から対話がほぼ不可能かのどっちかだしね。対話できる状況になったら私が初動してあとはムンラビおばあちゃんに引き継ぎが1番の安定路線だし」
「相手、ムーンラビットさんをして狸って言われるような手合いですよ」
「上等かな。だからこそ私が最適解って言ったわけだろうし、むしろここまで信頼されてるってことだから私の個人感情の意味では嬉しいかな」
「ココロさんにですか」
「ココロおねぇちゃんは普通に一緒だからねー。私が認められるとココロおねぇちゃんも認められるのと同じ意味だから嬉しいよ」
双子特有というかココロさんとヒヒノさん限定かはわからないけれど、今までココロさんとヒヒノさんの関係性を見てきたイネちゃんとしてはヒヒノさん本心からの言葉であるのはわかる。
「ところでイネちゃんは私を迎えに出てきたわけじゃないんでしょう」
「あぁはい、この1週間はこのくらいの時間に威力偵察みたいな感じで襲撃してきていたからそろそろかなと思って」
「なる程なる程、じゃあ今日は挨拶ついでに私が対応してみるかな。まだなんだよね?」
「いいんです?」
「どのみちあちらからすれば私は新参、ぽっと出の実力不明の若造、御し易そうな令嬢とかそんな認識される可能性が高いからね、ちょっとは実力示しておかないとまともな交渉テーブルに立つことすらできないよ」
「そういうことなら……でもやりすぎないでくださいね」
「おーけー」
ヒヒノさんのなんとも軽い返事の3分くらい後、いつもよりちょっと襲撃してくる手合いが増えていて、中には監視する者も混じっていた。
どうやらあちらとしても新たに現れたヒヒノさんのことが気になっているようで、そういう意味でもヒヒノさんが相手にしてあげるのはちょうどいいお互いの都合、WINWINの関係になる……はず、多分。
「へぇ、軽く資料に目を通してたけど物理的な攻撃が無効化されるのもいるみたいだね」
「1週間姿を見せていなかったからヒヒノさん目当てじゃないですかね」
「それならしっかり見せてあげないとね。私だって最近乱戦が多くて使い勝手が悪かったから色々と頑張った努力の結果を自分でも実感する機会ってわけだしね」
そう言いながらヒヒノさんは目指できている敵対の意思を見せている無機物と監視する者に対して指を1回鳴らすだけで完全に燃やして見せた。
「良し!うまくいった!」
「集中しないと今の難しいです?」
「無差別なら鳴らす必要もないんだけどね。指を鳴らすのは自分に対しての鍵というかシャッターというか……」
「セーフティーなのは理解しました」
「まぁうん、そんな感じ」
そしてヒヒノさんは再び指を鳴らす。
まだ姿を見せていなかった、イネちゃんの感知なら把握出来ていた襲撃者も今の指パッチンで全滅した。
「とりあえずこんな感じでよかったかな」
「監視する者相手ならイネちゃんより早いですねぇ、やっぱり」
「そこは先輩として……と言いたいけれど、やっぱイネちゃんの方が投降を促すってのはやりやすいからなぁ、これは完全に適材適所の一長一短って奴じゃないかな」
「まぁ、特に迎撃する形で別に投降を促すタイミングじゃなかったらこれでいいですよ」
「じゃあ私がそういうところで困ったらイネちゃんを指名しちゃってもいいかな」
「いいですけど、答えられるかどうかは状況とタイミング次第ですよ」
「要請するだけならタダだしね。それならそれでココロおねぇちゃんに来てもらう形になると思うし」
「あれ、ヒヒノ姉ちゃんもう到着してたんだ」
ヒヒノさんが可愛い感じでちょっと舌を出したところで領事館からおやつを作り終えたのか外に出てきてヒヒノさんの姿を見つけたようである。
「やっほー、それおやつ?」
「うん、今作った奴。いつ来てもいいように毎日ちょっと多めに作ってたからちゃんとヒヒノ姉ちゃんの分のあるよ」
「久しぶりのリリアちゃんのお菓子は楽しみだね。それじゃあムンラビおばあちゃんのところに行く前にお茶で一服しようかな」
こうしてヒヒノさんは到着と同時にいつもよりちょっと強めの襲撃は2回の指パッチンで片付けられたわけだけど……明日からのイネちゃんのやることが完全になくなりそうなので次の展開でのイネちゃんの動きは自分である程度考えておかないとかなぁ。
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