第239話 報告と今後の予定

「というのがゲートを通ったときの状況でした。あちらの情報に関してはリリアが頭の中読んだので直接聞いてくれれば」

「なる程なぁ、あちらさんは戦争以外にも闘争で色々と発展してきた文化の可能性はあるな」

「ただイネちゃんたちと対話してきたおじいちゃんは状況として戦うことになったことは否定できないですね、あくまで会話したときの認識でしかないですけど」

「そっちは狸か狐の可能性は高いからイネ嬢ちゃんどころかリリアでも誤魔化される可能性はあるから今はどうでもええよ。しっかしその手の相手となるとやっぱ人選を変えるのが1番良くなってきたな……」

「やっぱりヒヒノさんがベストです?」

「せやね、ヒヒノの弱点は実質イネ嬢ちゃんとココロレベルの加護なだけで基本弱点はないからな」

「でも、来れます?」

「来れなくはない。正直アングロサンにちょっと負担をかけることになるがな」

 ちょっとで済むのかは疑問だけれど、必要な人材を必要なポイントに的確に投入できる環境を作るという意味では他の世界に対して借りを作ってでもやっておきたい状況になっているということだろう。

「とにかく現時点ではイネ嬢ちゃんではあしらわれる可能性が極めて高いってのがわかっただけでも収穫よ。これに関してはすぐにでも人員補強したいところやね」

「経験不足で申し訳ないです」

「いや、今回はイネ嬢ちゃんの経験不足よりも相手さんの年季が深かっただけやね。むしろイネ嬢ちゃんの胆力のおかげで足がかりを付けることができたんで大助かりよ」

「初動が大失敗とかにならなかったのはよかったです」

「さて、それじゃあリリアからも報告を聞かないとな。イネ嬢ちゃんは異世界に突入する可能性もある以上は今は体を休めておいてくれな。あちらからしても攻城兵器を使ってまでの釣瓶打ちがまるで通用しないとなると対抗できる人員が限られるってことになってかなり慎重にはなってくれるだろうからな」

「数日は様子見に徹してくれると思います?」

「イネ嬢ちゃんの話を聞く限りはあちらとしても警戒の方を優先するだろうしな。戦い慣れをしているというのであれば相手の情報っていうのは必要以上に重視しようとするし、情報がわからない相手と戦うという動きをするのであれば余計にそういう動きをするやろ?」

「威力偵察してきませんかね、戦闘能力の調査なら犠牲出してでもやりそうなんですけど」

「イネ嬢ちゃんと対話した老人ならまだしも、有象無象で手の内ポロポロ出すことはないやろ」

「まぁ、そうですけど。あの老人が司令官、指揮官、総大将……どれにしても軍を率いていたのは確実ですからね、ただ魔法が得意、先駆者というだけであの地位になるには成功がすぎる感があるので魔法っていうものが特別感のある存在なのは間違いないでしょうから」

「そうやね、だからこそ誰でも消耗品として使うことができるマジックアイテムや通常兵器が文明を支えるポジションに居座れているわけやからな」

「なのであの老人は魔法の重鎮で陛下と読んでた人間の教育係とかも兼任してたんじゃないですかね」

「憶測ではあるが、まぁ遠くはないだろうな。そこを実際に確かめるのはヒヒノにやらせたいところだが……できればスーもひっつけたいところよ」

「やっぱ腹の探り合いだと夢魔の力必須ですか」

「ヒヒノなら多少の腹の探り合いならこなすが、イネ嬢ちゃんたちが出会った老人は更にその上を行く狸の化け物と考えていいからな。そうなるとそういう腹芸も慣れた夢魔がいたほうが色々と安定するようになるんよ」

「そこまでですか」

「そんくらいに見積もっておいたほうがいいんよ。正直肩透かしの方が準備が足りなかったときより失うものが安く済むからな」

「あー……確かに」

「んじゃイネ嬢ちゃんはしっかり休むんよ。なんだったら技術研究で対マジックアイテムを科学技術でできるように考えてくれるとありがたいが」

「色々試しては見ます」

「無理なら無理でええしな、頼むんよ」

 そう言ってムーンラビットさんはリリアのいる台所へと向かっていった。

 正直ムーンラビットさんのこのスタイルは現場の人間としてはすごく助かっているからね、多少は頑張って準備の部分を万全と言えるところから更に進んだ場所に持っていきたくなる。

 実際、現場で何度か対峙したイネちゃんからすればいくつかの準備は必須だと感じているし、監視する者と呼ばれたもの以外に対してはある程度地球科学レベルのもので対応できそうなものを作る目処はある程度考えてある。

 転移に関しては相手の動き次第ではあれど、今のところ2回の事案では転移と同時に行動をしてくることはなかったし、重なる形での転移をしてこなかった辺り制限がある可能性は今のところ高いように感じている。

 あのロンバイエという老人ならその限りではないだろうけれど、少なくとも1回限りのマジックアイテムで転移してくるような手合いなら理屈でわかっていても恐怖心が勝ってしまい実行に移すのは実質無理だろうことは想像が簡単。

 そしてロンバイエの立場でイネちゃんに対して威力偵察なんて使い捨ての行動を取るとは思えないし、あちらにしてみれば有象無象に感じているだろう他の人物に対してはもっとありえない。

 もしかしたらリリアにって思いもなくはないけれど、あの短い対話でリリアに危害を加えればイネちゃんが宣戦布告の戦争行為と認識するだろうって想像はできないわけはないので可能性としてはさらに低くなる。

 何せあの老人はイネちゃんに対して戦力評価を間違えることはしない実力者だからね、それにイネちゃんはあの時点で判明しているあの世界の魔法関係を全部無力化するシェルターを作れていたのだから、ロンバイエも刺し違える覚悟で全力を出すことになるっていう焦りもイネちゃんですら感じることができてたからね。

 無論それがブラフだった可能性はなくはないけれど、あの時点でイネちゃんも全力を出したタイミングはなかったからね、レーザーが切り札と認識してたっぽいし殆どリスクのない一撃必殺の、即着弾する攻撃に対して警戒をするのは戦闘慣れしているなら当然なのでロンバイエのあの態度と選択は理論として納得できる。

 となればロンバイエがレーザーに対しての対策を開発するまでの間はマジックアイテムによる奇襲に警戒すればいいし、監視する者は……まぁ現時点ではレーザーを中心とした光学兵器でなんとかするしかない以上対策の取りようがないので、転移対策を中心に考える。

『具体的にどんなのを考えてる』

「単純に全周囲カメラで確認できるシステムの構築と、そことデータリンクして自動迎撃できるシステムの構築かな。しかもこれを無差別じゃない形にしないと使えたものじゃなくなるから何度か自動迎撃に対応できる人で試さないと」

『それ、人選限定されてるよね』

「まぁ、イネちゃんとロロさんくらいだね。ほかだとココロさんとかササヤさんになるから」

『じゃあその装備を使うのはリリアとヒロ君?』

「ヨシュアさんでもいいかな。まぁ装備に関しては誰でもいいからね、今はその組み合わせを考えるかな」

 カメラでの判別と自動迎撃の装備の2つ……カメラはまぁ日本製のもので運用すればいいし、判別に関してもシステム面は地球の技術者に丸なげどころか既存のシステムを流用できる。

 問題は迎撃のほうで……日本での運用も考えると殺傷能力の付与は避けなければならないし、日本以外でも過剰防衛になるようなものは付けられないからなぁ。

「……催涙スプレーを少し薄めたものとスタンガン、どっちがいいかな」

『前者は効果が弱いかもしれないのと、スタンガンは出力ミスると大変なことにならない?』

「だよね。もっと色々と考えてシステム構築していこう」

 イーアとあれでもないこれでもないと相談しながらこのあと丸1日を過ごしてしまい、結局ムーンラビットさんに報告してイネちゃんのところまで夕飯を届けに来たときに相談して。

「自然薯とかじゃダメなの?」

「食べ物だし……」

「じゃあ光でいいじゃない」

 2秒で決まった。

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