第238話 盛大な歓迎

 ゲートを出ると同時に、先頭だったイネちゃんに対してクロスボウや攻城兵器に該当するはずのアーバレスト、魔力による釣瓶打ちが集中してきたので急いで後続の皆に被害が出ないように勇者の力で周辺地形を掌握した上で対魔力コーティングを施したいつものアングロサンで使われる宇宙艦艇の装甲板で周囲を覆いつつも灯りを用意して状況確認をしやすくする。

「うげ……」

「転移酔いは慣れてないと辛いだろうからそのまま……と言ってもちょっと状況がそれを許してくれないけど」

「いやこれは大陸の使っている転移陣と比べると……ごめん僕もちょっと」

「うん、いっそ胃の中身そのへんに吐いて。そっちのほうがちょっと治癒かけてすぐ動けるようになるからオススメ」

「勇者、状況」

「待ち伏せ釣瓶打ち」

「了解」

 ロロさんだとこれだけで理解してくれるレベルなのが本当にもう楽すぎる。

 状況を聞いたロロさんはイネちゃんが作った今回の相手用のレーザーシールドを、まだレーザーを出さずに展開して戦闘に備えてくれる。

「何か言ってきたりとかは?」

「何もなし。号令すらなく射撃してきたことから考えると情報としては全部垂れ流されてたってところだろうね」

「けほ……ということはあの国と連携が取れているっていうのは確定でいいのかな」

 ヨシュアさんが少し吐いたのか持っていた水で軽く口をゆすぎながら聞いてくる。

「いや、確定ではないかな。ただ繋がり濃厚ってのは言っていいけど」

「でもこの周辺の奴ってなんだよ」

「イネちゃんが撃たれた直後に作った。対物対魔法対現象でやっておいたし自己修復に学習する形で性能変化させるようにしたから座標指定しての空間爆撃とかじゃなきゃ突破はされないよ」

 さらっと簡単に作った感じではあるけれど、イネちゃんが今まで経験してきた内容を全部防御できるように結構頑張った……まぁこれを作れないと今後大変になっていくかもしれないかなって密かにイーアと連携していつでも作れる形にしておいたのが良かった。

 街中での接触は相手の戦力調査も含めた手加減だったものの、1度戦力評価ができたのであればこちらが手加減をする理由はどこにもないからね、昨晩の戦闘のときにロロさんの装備を作るついでに考えておいて良かった。

「それで、この状態でどうするんだよ」

「相手の矢弾が尽きるのを待つのが1番安全かな。リリアとヨシュアさんは魔力の流れだけ注意しておいて、ロロさんはイネちゃんと一緒に作っておいた外との通路に対して警戒。ヒロ君とヨシュアさんの体調が整い次第イネちゃん先頭、ロロさん殿で外の様子を見に行く」

「来る必要はない。なる程、このようなものを無から生み出せるような手合いであるのなら全軍をもってしても無意味ではあるな」

 唐突に聞こえてきた声にイネちゃんたちは視線を集中させる。

「気づかなんだか。まぁそうじゃろそうじゃろ、この魔法はそこがじゃからな。それで……何しに来おった」

「名乗りとかをしないということは興味ないってことじゃないのかな」

「そんなことはないがな、名乗ったところで意味はあるのかの」

「こっちは被害者側だしね、反撃というわけではないけど真意を確かめに来てみればこんな盛大な歓迎をされてさ、名前くらい聞きたくもなるじゃない?」

 ヒロ君は何か言いたそうにしていたけれど、吐き気があるのとヨシュアさんが制止してくれたので構わずイネちゃんが会話を続ける。

 同時にリリアに思考を読んでもらっておきながら話を進めようとするものの、どうにも相手さんのこちらの事前情報が悪漢侵略者系で固定されてるんじゃないかってくらいにいろんな気配を向けられてきているのは気になる。

「さて、それを決める権利はそちらにはないと思うが」

「まぁそれは事実だけど、生殺与奪の権利までそっちが持っているっていうのは流石に勘違いだから意識を正したほうがいいよ」

「それも事実じゃな。少なくともお主相手となると儂ではどうしようもなさそうじゃ」

「それで、人質取っていうことを聞けっていうチンピラ悪役みたいなことをやるつもりかな」

「そんなことするように見えるのか?」

「見えるよ、今のところあなたの印象と情報でそれ以外の判断ができる余地がなさすぎる」

「これは無知というわけではなく、このような状況に幾度も立たされたことのある経験者の意見じゃな」

「少なくとも、ここにいる5人はそちらに加害を加えたことはないよ。迎撃はしたけどね」

「今、儂の頭の中身を見ているのにか?」

「情報収集くらい、あなたもするでしょう?」

「それもそうじゃな」

 会話はここで一旦区切られる。

 正直この状況、あちらが生かしておけぬとか言い出して突撃してくれた方が圧倒的に状況が楽なんだけどなぁ。

 敵意を消さずに会話に応じて、情報を開示せずに意図を読もうとしてくる辺り、さっきのこちらが被害者とかそのへんの言葉も信じていないだろうことはリリアの思考読みでなくてもわかる程で、このおじいさんがどういう立場なのかっていうのは現時点ではこちらを待ち伏せ攻撃してきた連中の指揮官ないしエース的な立場なんだろうという推測しかできない。

「で、このまま帰ってくれんかの」

「それも選択肢としてはありなのが辛いところだね、現場の人間としては」

「現場というと、偵察兵か何かか」

「今の立場としては兵ではないかな、何せ国際情勢で平和を脅かす形での現状変更を行った国に対して派遣された各国調査団の別働隊だから」

「そうは言うがな、完全武装していてその言葉を信じろと?」

「調査団派遣のきっかけとなった事件と、調査団として入った後に何度か襲撃を受けている身としては丸腰の方が平和ボケしすぎていないかな」

「平行線じゃのぉ」

「こっちとしてはそっちがなんで異世界の国家、しかも覇権、帝国主義的な国に協力して異世界に戦争を呼び込もうとしているのかの真意を調べるのも調査団としてのお仕事の内だから、お互いの立場的には仕方ないんじゃないかな。だっておじいさんにはそれを答えていいのかどうかの決定権、ないんじゃない?」

「何故儂が決定権を持っていないと思ったのか聞いても良いか」

「1番の実力者だとしても国家の重鎮、特に政治に深く関わっている人間が国家存亡の危機でもないのに危険に飛び込むリスクを冒す理由がない。もしそれが可能な立場でも1線を引いていて後進に立場を譲っているようなお年に思えるから」

「2つも理由が出てきおったわ」

「推測じゃないのがこの2つ、推測でいいならまだあるけど」

「言いたいことをなんでも言いおる。だがそこまで言えるのであればキサマらの理屈とこちらの理屈が根本から違っているだろうことはわかることではないか?」

「そちらの情報が少なすぎてそこまでは。そもそもそれを知るためにゲートを通って来たのだから世界が違えば思想どころか物理法則、生態系の何もかもが違うのだからそれこそ知らなければわかるわけがないですよ」

「答えを言っておるではないか。世界が違う以上思想も違う。優れた王を持てぬ世界は不幸であるというのが儂らの世界での真理故にな」

「別にそれを否定するわけじゃないけど、他の世界に理屈を押し付けることは否定するよ」

「まぁよい、儂としてもその言葉は耳が痛いことだしな。だが少なくとも監視する者を物理的に排除できるような相手は儂らの世界にとって驚異となるのも事実なんじゃよ」

「あれ、監視する者って名前なんだね。後そこも勘違い、こっちからすればお互い距離を保っていられるなら衝突する必要もないから驚異と思われるのはそっちの心の安寧って理由?」

「今代の陛下は小心者じゃからな、心の安寧は国家存続の危機と同義じゃよ」

「そのために戦争をするっていうのも本末転倒すぎない?」

「またも耳が痛い。そして頑固であるのもこの会話でわかったが……儂の頭の中をそこのお嬢さんは見たのじゃろう?なら情報としてそれで勘弁してくれんかの、まさか戦闘意欲の薄い老体に襲いかかってでもというわけではあるまいに」

「……まぁお互いの妥協点としては無難なところだけど。リリア、どんな感じ?」

「この世界の社会構造とか目的とかは……少なくともこの人は今は悪意や殺気を出しながら攻撃しようって考えはないよ」

「怖いのぉ、この短時間でようも調べる」

「私はまだ未熟ですよロンバイエおじいちゃん」

「……なる程、深層の無意識すら覗き込めるか。儂にしてみても驚異ではあるが……それをできるもの相手に勝てる術を持ち合わせておらぬのも事実じゃ。しかも自身を未熟と下げるものにされるとはな」

「一ノ瀬イネ」

「急になんじゃ」

「そっちの名前がわかったのだから、こっちも名乗るのが礼儀でしょうに。ただ他の面々は勘弁してね、矢面になるのはイネちゃんだけでいいし、そっちのほうが楽だから」

「こちらも情報を1度精査し直さなければならんようだしな。果さてどちらに肩入れしたほうが最大利益になることやら」

「それじゃあ……特にやることはなくなったし、帰るよ。イネちゃんは最初に戦争兵器オンパレードの釣瓶打ちされた気もするけど今は貸しにしておいてあげる」

「全く、高くつきそうじゃの」

 こうしてイネちゃんたちは突入した異世界を30分程度で後にすることになったのだった。

 なんというか……色々と面倒な流れになりそうだけどその面倒なところは政治部門の役割だし気にしないでおこうそうしよう。

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