第237話 異世界の門
グワールから通信を受けてから1時間程後、イネちゃんたちは1つの廃ビルの前に立っていた。
「イネ、このビルから……なんかおかしな魔力の感じがする」
「おかしなってことは今まで認識したものではないってことでOK?」
「うん、少なくとも私は知らない感じ」
となればここが今のところ最有力のポイントってことになるか。
こんな街中……というにはいささか寂れてたり裏路地に入りまくって治安はかなり悪いっていうのが観光客どころか調査団も入ってこないだろう場所だっていう点では盲点だし、犯罪組織が隠れ蓑になってくれる上に金を握らせればそれで公的な守護人になるだろうからこの国の政府にしてみれば都合のいいものだっていうのがよくわかる。
そして自国内に異世界ゲートがあるのであればより御し易そうな側をと思うのが科学文明、戦力として上位である為政者なら考えることだろうし対等ないしそれに近い合意が度々イネちゃんたちを襲撃してきている連中とされていることは憶測ながら想像しやすい。
「それで、どうするんだ?」
「ムーンラビットさんと日本の本部に連絡を入れてからビルに入るかな。どこにゲートがあるか分かっていないし、襲撃された場合を考えて全員一緒に行動するからリリアはロロさんとヒロ君に付与、ヨシュアさんは出来るだけ自力でお願いできる?」
「付与魔法は……キャリーから少し教わってる程度だから自信はないけど、やってみるよ」
「無理そうならすぐにリリアを頼ること、いいね」
「わかってる。ここで無理をすればイネの負担が激増するからね」
ヨシュアさんは本当に察しがいいから楽ができる……いやまぁ今まで楽してきたツケがヒロ君の対応で溢れてきてるって思わなくはないんだけどね、うん。
まぁゲートの場所がわからないとは言ったものの、リリアが大まかな場所の把握はできてるからある程度の位置は認識できているので警戒が全領域対応状態なだけではある。
最も、その警戒が全領域……最悪自分の今立っている場所まで警戒ポイントっていうのが1番怖いところ。
「電話しているとそこを狙われるかもしれないからメールで連絡。リリアはムーンラビットさんにお願いで、ヨシュアさんの方もキャリーさんたちに現状と次の行動をメールで飛ばしてもらっていいかな」
「傍受されない?」
「それ前提でこっちはロロさんがグワールに、イネちゃんが世界の壁突破してココロさんたちとお父さんたちに一斉送信して絶対誰かに情報が届いておくようにする」
「イネのお父さんたちにも?」
「流石に世界を複数跨ぐ状態ならってのと、お父さんたちなら大陸にすぐ入れるからね。それに必要ないことは絶対しないしイネちゃんのことを信用してくれるから確実性が高くなるんだよ」
「止められる前提かよ」
「届けばOK、届かなくてもちゃんと保険をかけておくっていうのは別に悪いことじゃないでしょう?」
「そりゃそうだけどよ、最初から保険部分だけじゃダメなのか?」
「むしろこの国の情報部にも知らせられるのならそれはそれでプラスに動かせるからこそだよ。動いてくれるのなら異世界と繋がりが確定するし、そうでないのなら異世界側がこの国への不信感を抱くことになる。どっちに転んでもイネちゃんたちにしてみれば嬉しい展開だってことね」
「不信感を抱かなかったらどうするんだよ」
「それは異世界側に直接確かめればいいだけ。妨害がないのならゲートを通って調査するっていう目的を実行するだけだから」
「なる程、そっちのほうがわかりやすい展開っぽくて好きだな」
「まぁあちらの世界がどうなっているか次第ではあるけど、今よりはシンプルになってくれるのは間違いないね。何せ異世界の立ち位置とか色々探れるようになるし」
「人である保障はあるのか?」
「あるよ。まず1つはこの国がまともに交渉したこと、2つ目はマジックアイテムが人が運用する前提の構造をしていたから人型の生物であることは間違いないよ。何せ異世界の人たちがわざわざ自分たちの使いにくい構造の道具を作る理由がないから」
「そのへんは人体工学と生物学だね」
「イネちゃんの場合は大陸の異世界学だけどね。人型であるのなら道具は人型に合わせた形である可能性が90%超であるってのが大陸での累積データだったよ」
「なる程……確かに大陸なら異世界学っていうのがあっても不思議じゃないか」
「その他学問もほかの世界と繋がるたびに増えてるからね、相容れないようなものでも普通に共存してるから大陸の学者以外は混乱するからやめてくれって思ってるらしいけど」
「例えば?」
「時間の可逆証明。大陸だと基本的に影響は限定的だけど時間魔法とかは存在できてるんだよ」
まぁ実際のところ大陸ではヌーリエ様の影響でまず間違いなく時間を戻したり強制的に加速させたりとかはできないのだけれど、時間を戻す形での治療とかは受け入れたりするので共存できている。
ヌーリエ様の加護があるイネちゃんたちはもし無限加速で世界を滅ぼすような魔法とかを受けてもその影響外になるか、そもそもそれの発動が阻害されるだろう。
「時間関係の魔法とかはイネちゃんとリリア、ロロさんは確定で効かないけれど……ヨシュアさんとヒロ君がちょっと問題がある。ここでムーンラビットさんたちと合流を選んでもいいんだよ?」
「冗談。この世界は俺の暮らす世界だっての」
「あちらが男性社会だった場合、僕たちの役割は大きくなるはずだよ」
「了解、それじゃあ……行こうか」
「その前に1つ確認していいかな。このタイミングで時間関係のことを言い出したってことは、イネの中では何か確信に近いものがあるってことだよね」
「まぁ……でないとこっちの感知とかを全部ぶち抜いて転移ってのは考えにくいから。ただこっちの感覚を一瞬認識回避するとかイネちゃんたちに対して影響を与えるようなものじゃなく純粋に位置指定の転移の可能性も否定できないから確信というよりは警戒強めかな」
「わかった。僕の方でも対策は考えてみる」
「お願い、イネちゃんだと魔法的な対策は無理だから助かる」
ヨシュアさんの察しの良さに甘えつつも、イネちゃんたちは異世界ゲートがあると思われる廃ビルへと入っていった。
このタイミングでこの国の、イネちゃんたちを監視していた連中が介入してこなかったということは現時点で異世界との繋がりを証明するわけには行かないということなんだろう。
とりあえずこのままイネちゃんたちは廃ビルの中を調べ、異世界側の襲撃もなく案外あっさりと異世界のゲートとなっているだろう魔法陣を発見することになった。
最低限イネちゃんの勇者の力とリリアの知識で魔法陣を調査した後、魔法陣を起動させてイネちゃんを先頭として異世界へと突入したのだった。
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