第42話 プランA:内訳

「イネ様、仕入れてまいりました」

「おつかれー」

 ドラクさんの館の敷地内に構築した転送陣を使ってスーさんが買い物をして戻ってきた。

 ちなみに転送陣はヌーリエ教会の術式で動かすものなので、それが伝えられている大陸の関係各所ならいざ知らず他の世界の組織が勝手に使い始めることはないのでかなり安全だよ。

「現物が来たということは何をお考えなのかを教えていただけるということですよね」

「はい。じゃあ庭でいいのかな?」

「転送陣の場所から動かしていませんので地下です」

「ということなので、地下に向かいましょうか」

 スーさんに買ってきてもらったものと、それを使ったイネちゃんの考えを説明するためにスーさん先導でドラクさんのお屋敷の地下へと全員で向かう。

 一応、スーさんが特に口を挟まなかったしちゃんと買ってきてくれたのであればこれは問題ないはずだからね、その上で籠城中迎撃戦闘にも役に立つモノになるはずだし、短期間で使い方を習熟とまでは言わないにしても覚えることができるので事態解決の要因にはなるはず……はず。

 地下の転送陣が設置された部屋に入ると、大量の木箱がチタン製のコンテナに入り、フォークリフトがそれを持ち上げていた。

「えっと……スーさん?」

「大量購入が必須でしたので、もはやこれも致し方なしと判断しました」

「あぁうん、人海戦術するにも人が足りないからある意味仕方ないとは思うけどね。でも文明とかそっち側、大丈夫?」

「イネ様の買い付けたものも性能を考えれば似たようなものかと」

「一応こっちでも再現しようと思えばできる奴なんだけどなぁ……信管制御技術って意味では確かに難しいだろうけど」

「えぇと……一体御二方は何の話をしておられるのでしょうか。この鉄の化物はゴーレムの類なのですか」

「ほら、ゴーレムと思ってくれています」

「もうそれでいいよ……とりあえずこの木箱の中身は……うん、ちゃんと間違いないね、武器ですよ」

「武器、ですか。拝見しても?」

「いいですが、弄り回さないようにしてくださいね、扱いを間違えるとここが吹き飛びますので」

 吹き飛ぶという単語でちょっとためらう仕草を見せたものの、ドラクさんはスーさんに買ってきてもらった武器……グレネードを手に取りしっかりと見つめる。

「これが、武器?」

「わかりやすく説明しますと爆発の詠術と同程度の威力をそれ1個で発揮できますよ」

「それは事実なのですか!?」

「森の民の聖地を防衛する際に使いましたので、目撃者を探せば確認が取れるかと。無論1個程度であれば使って見せるのもいいですが……そもそも使用方法を教える時に1個は使わないとだから大丈夫ですから、確認はその時にでも構いませんけど」

「だが、何かしら制約があるんだろう?」

 ドラクさんとの会話にクリムさんが割り込んできた。

「まぁ簡単な使い方を説明すると、それがわかると思いますよ。ここについているのが安全ピンで、外す時にはここを握りこむ形でないと危険です」

「ということは基本はピンを外して投げつけるってことか……結構制約としては大きい、それなら爆発系統の詠術だって言われてもそれなりに納得はできるね」

「大きいです?」

「あんたらの身体能力なら、問題はないんだろうがね。キハグレイスで物理的な遠距離武器が弓とこいつ以外殆ど使われていない理由が利用するだけの身体能力の欠如なんだよ。それにこいつだって対人暗殺用に作られて日が浅いくらいだ」

 そう言って銃を抜いてみせる。

 そういえば確かキハグレイスの身体能力というか、筋組織量は大陸や地球と比べるとかなり低いとか聞いてたっけ……それでも投擲っていうのは結構身体の使い方次第ではあるので、そこは訓練次第ではあるとは思うけど……もしかして腕の長さもちょっと短いとかあるんだろうか。

「とりあえずまぁ、そこは練習用のボールでちょっと確認するとしても、城壁の上からピンを外して落とすってだけでも十分効果はあると思うよ」

「それだと城壁が持たないよ。詠術対策はしてあるがそれは魔力を必要としない魔法の玉なんだろう?」

「詠術用の防護はあるけど物理的なものはそれほど強くないってことか……投石とかにはどの程度持つ?」

「詠術士が都度対処するのが定石だが、今回はそれすら対応できるか怪しいのだ。何より人が足りない」

 攻撃防御共に足りないのか……準男爵が神域の森に向かう際に徴兵していったからパタの軍には街を守るための必要最少人数が残っている程度ってことだもんね、治安に関しても盗賊ギルドと連携を取った上で悪化に傾くレベルなわけだし。

「イネ様」

「どうしたのスーさん」

「今の情報からイネ様のプランAは破綻するのでは?」

「あーうん、半分しかかってるってところなのは事実だけど破綻はしてないよ。ハンドグレネードに関してもフラグはこっちで使いつつ、フラッシュバンと焼夷グレネードをパタの軍中心に使ってもらえばいいだけだから。後短いながらも訓練はちゃんとするからね」

 訓練の結果次第では破綻するけれど、焼夷グレネードと熱した金属を落とすとか色々やりようはあるからね、それはそれでなんとかできなくはない。

「詠術の種類に関しての知識が不足しているのですから、穴がたっぷりありそうですが……」

「カトゥーンに出てくる穴あきチーズ並じゃなきゃなんとかなるよ。ともかく現時点での皆の練度が知りたいかなぁ、場合によってはミランたちにも表に出てきてもらわないといけないだろうし」

「いや、あいつは別の仕事を用意したいね。あいつはアレでチンピラ連中の顔役だからこその仕事があるんだよ。具体的には人が隠れやすい場所、隠れられる場所を潰すっていうね」

「あぁうん、それは確かに必要だ」

 この手の城塞都市にはもう無いとおかしいって感じに外への脱出路があったりするから、普通に進入路にされて挟撃ないし破壊工作されてって起きるからね、そう考えれば後ろを対処する人間がいるだけでかなり安心することができるし、そこを考えられる人が味方にいるだけでかなり違うからね。

「となると……こちら側も多少は人を増やすことを考慮したほうがいいかもしれませんね」

「本来ならスーさんすら手伝わずなんだろうけど、イネちゃんの技量じゃ皆に頼った方が無難だからね、そうしようか……メンバーはいつもの面々からキュミラさん抜きでいいかな?」

「キュミラさんは確かに来ない方がよろしいでしょうね」

「そのキュミラという方は一体……」

「見れば一発でわかるのだけれど、見たらダメというか……」

「少なくとも今この時点ではないということは確実ですので、お気になさらず」

 ロロさんにティラーさん、それにぬらぬらひょんの面々に……ジャクリーンさん辺りが来れるなら来てくれればいいんだけど、フルール領の方で貴族側の仕事とかもあるからこっちに来れるかわからないんだよなぁ、来たらきたで最低でも1ヶ月くらいはこっちにいてもらうことになるし。

「それでイネ様、プランAの内容をわかりやすく単純に言葉にしてください」

「え、あぁうん。ハンドグレ……魔法の玉による爆撃で迎撃だよ。少なくとも出鼻を確実とまでは言えなくてもくじけるし、そうでなくてもあちらの戦力を相当数削ることができるからね。プランAの内容は武器をアップグレードして正攻法的に迎撃だよ」

「そして現実問題として城壁の耐久が課題となりましたが……」

「スーさん、ココロさんとヒヒノさんって力を表に出すことってどのくらいの頻度なのか知ってる?参考までに聞いておきたい」

「そうですね……ココロ様は頻繁に、ヒヒノ様は殆ど使うことはなかったようです。ココロ様のお力は基本的には強い影響を与えるようなものではありませんからということもありましたが、その身体能力を惜しむことはなかったと報告書にはありましたが……」

「イネちゃんは2人の中間地点って感じだからなぁ……要所でイネちゃんの力で城壁は補強するにしても、とりあえずあちらが動く前に簡単にでも城壁の補強はやっておきたいよね。ドラクさん今衛兵を動かすことはできる?」

「補強に関しては襲撃を日頃から予測はしていましたので、民間委託という形でやってはいましたが……現状南と西が脆い状態のままですね」

「軍と衛兵を動員して南だけでも補強を急いだ方がいいと思います。こちらでも少数ながら人員を呼び寄せていつでも訓練に入れる準備だけは整えておきますので」

 さて……イネちゃんの考えたプランAはかなり課題と問題の多いものになってしまいはしたけれど、効果は確実に上がることからそのままプランAとして存続することは決定したものの……城壁の耐久力の問題がかなり大きそうだから、相手の攻城兵器もあるだろう前提で組むとなるとプランAはかなり貧弱な内容でもあるわけで……プランBで門の内側に殺し間を作って招き入れるとか、プランCでイネちゃんがそのどさくさに紛れて外に進撃し、将軍って呼ばれている人を暗殺する手段ってことにしておいた方がいい気がする。

 それすら失敗した場合のプランDでゴブリン利用……いや本当、ゴブリン利用とかやりたくないなぁ。

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