第40話 戦争の流れ
「なる程……となれば既に人類軍はわざわざパタ周辺に軍を割いていると考えるべきでしょうね」
「道理で北部キャラバンだけじゃなく南部からの商隊まで到着が遅れていたわけだねぇ。で、どうするんだいスポンサー」
「迎撃の準備をするしかないでしょう。街の中は貴女に任せます」
「外は旦那がやってくれ。現時点での話し合い程度の段階じゃ他所様に手を煩わせるわけにはいかないしねぇ」
「いや、イネ様には裏で動いていただきます。元々準男爵を排除したことがきっかけであるのでしたら私たちにも関係はありますので」
「そのお言葉は嬉しいが、遅かれ早かれですよ。準男爵の件は確かに口実ではあるでしょうが、その件を受けての作戦行動であれば物流の停滞までの速度が説明できませんからね」
「同時並行だったんだろ、こっちの通信網は生きてはいるが王都キハグレイス付近の組織は丁寧に潰されてるからね。どうしても重要な部分に関しては情報が遅れるように、丁寧にね」
「ということは正確な情報は持ってないってことかな」
イネちゃんの言葉にドラクさんとクリムさんは同じタイミングで首を縦に振った。
「スーさん」
「……確かにこちらの技術を使えば確認は取れるでしょうが、過度な介入になってしまいます」
「それはまぁ、そうだろうけどね。このままだと市街戦になって民間人への略奪と虐殺が起きる可能性が高いっていうのなら、初期情報の確認だけはやっていいんじゃないかな」
「わかりました。ですがイネ様にもしっかり働いてもらいますからね」
「自分で言い出した上に責任者って肩書きついてるんだからそこは心配しなくていいよ」
スーさんがイネちゃんの覚悟を確認してからアングロサンでよく見られる端末の操作を始める。
スーさんの動きを見てもドラクさんとクリムさんが驚く様子がない辺り、既にスーさんはその辺の情報は開示済みってことかな。
「あぁそうだイネ様、小火器なら使用は大丈夫になりました。キハグレイスにも小火器に該当するものが存在していましたので」
「これのことかい?」
スーさんの言葉に合わせてクリムさんがフリントロック式の単発銃を懐から出して見せてきた。
「小火器は小火器だけど……普段使いしてるのだと構造が違いすぎるかなぁ。イネちゃんが使ってるのはオートマだし」
「おや、一人称は自分の名前なのですか」
しまった……今まで気をつけていたのにうっかりしてた。
「イネ様は過去のことで色々ありましたので。そう珍しいことでもありませんよ」
「あなた方の世界も大変だということですか」
「はい」
なんというか……変な納得のされ方をした気がするけれど、ともかく小火器、つまりはハンドガン分類の武器で、連射力の低いものなら大丈夫になったと考えていい……のかな、フリントロック式は単純に大砲の小型化に近いからリボルバー式にしても構造的にはむしろダメってなりそうなんだよなぁ。
いっそ猟銃とかに分類されるライフル系の方がまだ良さそうな感じがする程度には、銃としての構造は単純なはず。
「少し拝見してもいいですか?」
「これより高性能なもの持ってるんだろう?」
「それはそうですけど、あまり目立つわけにはいかないので」
「なる程、こちらに合わせて目立たなくするってことかい。ならいいよ、どうせこれ以上のものを持っている相手なら見せるのを渋る理由もないからね」
クリムさんはそう言いながらイネちゃんにフリントロック式の銃を手渡してきた。
手に持った時の重さはこの手の構造のものにありがちな過剰なまでの砲身の厚さ、質が悪めな鉄で重量の問題はこれが作られた時は先送りにされたのがよくわかる。
火薬を詰める部分は湿気防止処置はされているし、火種となる火打石も摩耗前提で取り替えやすく、むしろ銃身よりも遥かに質の高いものが使われている辺り銃身も取り替えること前提で組み込まれているのかな……全体的に分解がしやすいように作られてはいるよね、威力に関しては致命傷を与えられるかどうかで言えば不意打ちはしやすいだろう程度に収まってるのが残念なところだと思う。
「そっちの銃も見せてくれないかい、無学な私にはわからんかもしれないけど興味はあるからね」
「なる程、道理で気前がいいと……」
既にこっちは見せてもらった以上断るのも申し訳ない……わけではなく、対等な立場の構築という意味ではこの手の軽い交渉に関しても蔑ろにはできないからね。
とりあえずファイブセブンのマガジンを抜いて弾倉内部の弾を抜いてからクリムさんに手渡す。
「誤作動防止に弾は抜かさせてもらったよ」
「今の一連の動作で完全に私の銃とは別物だってのはわかったが……もしかして火薬はそっちの小さい奴に入ってるのかい、こっちは構造的に火薬を詰める場所がないし火花を出すための場所もないからね」
「細かい構造に関しては、イネちゃんが作っているものではないので」
「量産品だってことかい。流石にこれを量産する工業力ってのは考えるだけでも怖くなるね……」
「準男爵がなす術なく命を落とすのも無理はなく、召喚された勇者様も厳しい戦いだったのは容易に想像ができますね」
ヒロ君相手にはもっとえげつないほどの文明品を使って見せたとは言えないな……ビームとか完全にオーパーツとかアーティファクトとか、そんな領域を軽く飛び越えているだろうし、魔法で再現できるにしても連射ができるって時点でそれよりも上位であると認定されても不思議じゃないし。
少なくとも地球基準でもオーパーツやオーバーテクノロジーなんだから、アングロサン基準やそれを上回るものについては見せないほうが無難だってことだけは確かではある。
「しかしあなたも勇者であるのでしたら、特別な、相応しい力もお持ちのはず」
「いやぁ勇者ってのは称号なだけで、何かを成したからそう呼ばれるようになったってこともあるかもですよ」
「例えそうだとしても、あなたは既に何かを成しているということでしょう?」
しまった、スーさんたちがイネちゃんのことを勇者だって呼んでるから確定でそうなるのを失念してた。
「イネ様、撮影した画像なのですが……」
「あ、撮れた?」
「確認してください、これは不介入とするには流石に厳しいかもしれません」
スーさんがイネちゃんの端末にデータを送ってきたので、イネちゃんは自分の端末を起動してアングロサンのドローンで撮影した映像を確認する。
「……コラ画像とかじゃない?」
「そうでしたら凄く良かったと言えるんですが」
映し出された映像はかなり鮮明に、パタ周辺の半径10kmサイズを縮尺した画像が表示されていて、北部にある砦との距離からその範囲がわかりやすい感じになっていた……のだけれど、イネちゃんとスーさんが動揺していた理由はそこではない。
砦からおよそ2kmほど北上した場所と、パタから西に5km程度移動した場所と、南の街道沿いに1km伸びる形に黒く塗りつぶしたような長方形の画像が映し出されていた。
「これ、大体何人くらいだと思う?」
「北部が少ないですが、それでも1万程度かと。南で2万5千、西は5万に登るものかと」
「それで、パタで戦える人間の数は?」
「昨日の会談時点で3000です」
なんというか……協定とか結べないとこれ絶望を通り越してる何かだなと言った流れになってきてるよね、うん。
この映像をドラクさんとクリムさんに見せたら流石に表情が青ざめたところで、イネちゃんたちの参戦要請が予想通り飛んできたのであった。
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