第15話 情報整理会議
「いやぁ暴れそうになりましたねぇ」
「スーさん、事情は把握してるんでしょうに……」
「そうですけど、まぁ彼は明日改めて私が尋問しておきますから安心してください」
「お願いします、明日も同じこと言われたらリリアが同席してても流石に骨の数本折りに行っちゃうと思いますから」
「でも普段あまり気にしないのに……いやなんとなくわかるけどさ、あの子イネのこと見下す感じと憐れむ感じだったし」
「それを頭の中を見れないイネちゃんですら認識できちゃうレベルだったからね……ちょっと我慢しきれなかった」
えー、今イネちゃんたちは休憩室で今日得られた情報をまとめることをしているのだけれど……開幕思いっきりさっきの出来事を弄られたのである。
「まぁ、それは今明日の方に置いておいて」
「明日でいいんですね。ですがはい、他の3名に関しましてはお孫様の記録と照らし合わせても矛盾はありませんね、彼らは森の民の聖地に対して事前通告されていたという認識でした」
「となると首謀者はやっぱイネちゃんがサクッとやっちゃったあの準男爵って呼ばれてた男かな」
「そうだと思われます。先日捕らえていた者の尋問からも準男爵という単語が思考にありましたので、少なくとも直属という意味では間違いないかと」
「まぁ……封建制度で王か皇帝かは分からないけれど居るみたいだしね、そう考えると出世欲による独断専行なのかはちょっと怪しいところか」
「イネ様には準男爵と呼ばれていた男性を生かしておいて欲しかったですが……状況的には何かしらの手段で排除しなければ撤退させるのは持久戦を強いられたでしょうし、協力者の聖地を防衛するという観点から鑑みれば致し方なかったというべきでしょう」
「前は遺跡に入られてなかったから籠城できたけれど、今回は既に侵入されてたからね。今バリスさんを含めた戦える森の民代表が侵入した連中の排除はしているけれど……」
「そちらに関しては私たちは情報を持ち合わせていませんからね、任せるしかできないでしょう。聖地という都合上私たちが介入するのは最小限に抑えたほうが良いでしょうしね」
「そういえばこの世界の神様の名前って……」
「スクラミアスですね。ロイと呼ばれていた少女は地方教会で聖女と呼ばれていたようで、宗教としての形での把握はできました。一神教で世界を作り出した神として祀られており、イネ様が暮らしていた地球で言うところのコンピューターゲームの数値データにて世界を管理する形を整えたと信じられています」
「事実としてこの世界の人たちは、少なくとも森の民を除いた人類は基本信じていると思って間違いないだろうね」
「そこは実際に戦闘を行ったイネ様が1番実感していることでしょう」
「最初は月詠さんに言われたように筋組織量の差と戦闘技量の差だと思ったんだけどね、それにしてはやたらとあちらさんが自信満々すぎて違和感だったから、有ると思っておいたほうが無難かなっていうのが感想」
「1度ヨシュアさんに確認してもらいましょうか、彼は大陸の人間に対しても数値データを確認することができるようですし……検疫に関しましてはヌーリエ教会にて念を入れて行わさせて頂きます」
「まぁ、検疫に関しては割と手遅れかもしれないからなぁ、こっちの設備整備してくれた人たちは全員ベースキャンプ勤めになってはもらってるとは言え、こっちの世界に対しての影響はありそうだし」
「現時点でアングロサンの人体スキャナー技術と地球の各種検査において確認はされておりませんので、大丈夫だとは思いますが。少なくともここに拘束している方々の健康に関しては常時監視してはいます」
「それは前提だったからね、でもウイルスだとか細菌だとかはそういうのをすり抜ける前提で考えないとだから、万全はないよ」
「はい、ムーンラビット様にも常に最悪を想定せよと厳命されております」
「とりあえず現状では感染症はどちらにも影響を及ぼしていないというのは間違いないにしても……神学の見地も月詠さんからもらってみるといいのかもねぇ」
<<神学の見地で言えば大陸経由なら確定で感染症は発生しないって断言しちゃうわよ?いいの?>>
通信機、ONになってたのか……月詠さんが会議に混ざってきた。
「その心は」
<<ぬりえ……いえ、大陸で神として祀られているヌーリエの力を鑑みれば、分断、排斥を必然的に行わなければならない感染症とかは加護の影響でまず対処されるというのが今までの研究データで言えるもの。地球の感染力が極めて高いインフルエンザウイルスですら大陸に入れば無毒化ないし感染力が無くなるってデータが地球の各種機関で結論づけられていたわよ>>
医学、科学、細菌学とか色んな方面の論文を月詠さんなら読んでそうだし、今嘘をつく理由もないから多分そうなんだろう。
<<こっちにも尋問の会話データを送ってもらいはしたけれど、何と言ったらいいのかしらね……このゲーム感は。わざとらしさを感じるのはそうそう無いわよ>>
「まぁ今日の尋問で散々レベルだのステータスだの聞かされたからなぁ」
<<それ以外にも階級制度もおかしいわね。準男爵があるのなら男爵も存在しているのは当然にしても、子爵や騎士爵と言ったものは存在しないし、役職に過ぎないはずの宰相が爵位扱い……しかも公爵位よりも上、伯爵位に該当しそうなのは中帝ってギャグか何か?トップは国王なのに。しかも準男爵の下が卒学って何よこれ、単純に学問を収めた学者位のこと?つまるところ支配のために教育制度を疎かにしている暗黒時代以前のレベルでその下に経長……>>
「経長は各種商人ギルドの長が該当するようですよ」
<<いやあなたたちの書いた報告書を見て言ってるんだから知ってるわよ。正直デタラメもいいところに思えるわね>>
「でもそれで社会が成立している」
<<そうね、故にその異世界……現地ではキハグレイスだったかしら。キハグレイスにおける自然法則は基本他の世界とは違うと考えるべきでしょうね。ただ大陸人がそちらで活動する分には大陸の自然法則が適応されるというのが現時点での推測>>
「なんで社会が成立しているってことが自然法則のお話に?」
<<社会構造ってのは自然法則と同居するためのシステムだもの。今回の場合封建制度がそれに該当してはいるけれど、その制度を支えるには血管となる部分が不足しすぎてる>>
「だからデタラメ」
<<そういうこと。だからキハグレイスでは上位者が下位の者に対して絶対服従なりの命令を出せる法則が存在しているか、大陸以上に平和ボケした市民しかいないかのどちらってのが私ができる現状の見解よ>>
大陸以上の平和ボケは流石に想像できないな……あぁでもイネちゃんが暮らしていた時の日本とか経済とかあれこれ騒がれてたけど概ねボケられるいい平和ではあったか、結局地域の問題と考えれば平均値は大陸が1番平和だってことなんだろうけど。
<<何にせよ確定情報が少なすぎて憶測ですら難しい状態での見解だってことは理解して頂戴>>
「やはり研究を主とする学者でも難しいですか」
<<だからこそ断言なんてできないのよ。まぁ仕事だから曖昧な感じでも見解は述べるけど、本当なら直接調べることができればいいのだけどね>>
「疫病は怖いですからね」
<<絶賛繋がっている地球の歴史でも確認できたけれど、私たちの地球でも歴史的に疫病を持ち込んで虐殺した軍は1つや2つじゃないから、警戒するに越したことはないわ>>
「えっと、それじゃあ結局現状ではわかっているようで分からないって程度しか理解できてないってことでいいのかな」
「世界の名前と世界全体を構築しているシステム、そして森の民の聖地を襲撃した実行犯と利用された人間がはっきりした程度ですね」
スーさんが3行程度にまとめてしまった。
事実なんだけど色々と思ってしまう……あちらからどんどん押し寄せて来て当初の目的を果たせていないイネちゃんが悪いんじゃないかって。
「イネは悪くないと思うよ?」
「リリア……」
「だって今の状況って切り捨てるものを最小限に抑えようとした結果でしょ。そりゃココロ姉ちゃんやヒヒノ姉ちゃんみたいに経験があるっていうなら別だけど、イネは初めてなんだからさ」
<<だからこそのサポート体勢の充実なんだから気にするんじゃないわよ>>
「異世界調査初心者であるイネ様が失敗をすることは最初から折り込み済みですよ」
「スーさん、それ慰めになってないからね?でもまぁ、うん、気は楽になったかな」
気負い過ぎだったってのは自覚できちゃってるから、実際こうやってバックアップが手厚く機能しているのを実感できれば多少なりに気持ちは楽になる。
今までも頼っていなかったわけではないけれど、今までと違って独断専行気味に動いちゃった結果が準男爵の暗殺だったわけだし……本当、ココロさんとヒヒノさんならもっとうまくやったんだろうって思いが強くなるけど。
「当面は既に拘束している方々から情報を引き出しつつ、確認する必要がある部分に関してはイネ様に現地へと赴いてもらう形でいいと思うのですが……」
「それはイネちゃんが同行者選んでも良かったりする?」
「状況次第ですね、大陸で加護が強い勇者が行うのは現地の生態系を破壊しないための疫病対策ですし」
<<そこの調査は進めておくから、大丈夫であることが確実って言えるまで待ちなさいな>>
「まぁ、そこは現地に赴くことが先になるか、同行者が選べるようになるのが先かは戦々恐々としながら楽しみにしておきます」
あまりわかったことがないということがわかった会議ではあったけれど、イネちゃんが無意識に感じていた不安に関しては緩和されたのは会議した意義は大きかったかな、責任感が無くなるとか少なくなったわけではないけど、肩に乗る重さが軽くなったよ。
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