第14話 召喚勇者との会話内容

「おう、外も撃退終わったぜ」

「怪我人は……この世界の方だけでしょうか」

 外の対応をしていたトーリスさんとウェルミスさんが遺跡に入ってきたところで、まだ諦めていなかった拘束されていない3人は色々と諦めたようにして武装の解除を始めた。

「こっちの負けだ……だからロイの命は助けてくれ」

「期待すんなヒロ。そいつは人を殺すってことになんにも思わねぇタイプの人種だ」

 失礼な、イネちゃんだって必要じゃない殺人なんてこれっぽっちもしたいとは思わないよ、必要なら感情を動かさずにサクッとやる訓練を受けているだけだし。

 ただまぁこんなことを1番好戦的だった剣士が言うってことは人類同士のドンパチは、少なくとも表向きには殆ど存在していないってことだろうね、あっても野盗とか強盗とか、そんな感じなのが考えられる。

「私のせいで……ごめんなさい……」

「ロイのせいじゃない、俺たちのレベル不足が招いたことだ」

「レベルレベルなんて言ってるけど、そんな不確かな数値データに頼り切ってるからこうなったってのは間違いないね」

「レベルが不確か……?スクラミアス様の作られたこの世界の絶対的な定めをして何を持って不確かと言うのですか」

 スクラミアス様?今イネちゃんがホールドアップしてるロイと呼ばれているシスター?の子が信じられないって感じに聞いてきたってことは、この世界で最もポピュラーな神様ってことなのかな。

「そもそもスクラミアスって存在を知らないからね」

「どういうことだ……このキハグレイスでスクラミアス様のことを知らないってのは流石に魔軍でもありえねぇぞ、嘘言ってんじゃねぇ!」

 なる程、ちゃんと世界に名前があってキハグレイスって名前ね、勝手に喋ってくれるのは楽でいいなぁ。

「嘘かどうかはすぐにわかります。今は戦う手を止めてこちらについてきてください」

「捕虜に人権なんてねぇ、もう好きにしやがれ」

「ふぅん、了解したよ。あぁバリスさん、遺跡の深部……って言っていいのかな、地下の方にも結構入り込んでるみたいだけどどうするの?」

「……いえ、遺跡の中は森の民に伝わる内容では許可無き者は世界の意思による罰を受けると聞かされています。万が一ということも否定はできませんが、それをするのも我々森の民で行います」

「うん、こっちがその許可があるとは思えないしそれでいいよ」

「そして皆殺しってわけだ」

 うん、そろそろこいつ黙らせたほうがいいかな。

「いい加減挑発をやめないと、挑発に乗っちゃうぞ♪」

「やめるんだスレイ!」

「チッ、わかったよ」

 ナイフを少し強めに首に押し当てて女の子が少しではあるけれど苦痛に耐える声を出したことでようやく止まった。

「なんというか……似合いすぎじゃね?」

「まぁ、一応訓練過程にあった内容だし?」

「それでは1度皆さんの施設に向かいましょう。私も1度戻り族長へと報告をした後で聖地に入った人間を遺跡から排除しますので」

 うん、方針が決まれば次は行動。

「外は今どんな感じ?」

「俺が適当に撫でて、こいつが雷撃かましたら8割逃げていったな。死にたがりはぶったたいておいたから大丈夫だと思うぞ」

「念のためにロロさん先頭でお願いしていい?男2人はトーリスさんお願い、イネちゃんはその弓使いを、ウェルミスさんはこの子お願い」

「では私は後方警戒致しましょう」

「お願いします」

「しっかし拘束ってこんなんで大丈夫なのかね」

「手首を縛るよりも効率いいよ、親指同士を完全拘束しちゃえば人間の人体構造的に動かせなくなるから。それにほら、手首だと袖に仕込んだナイフとかあったら切られるけど、親指だと難しいでしょ?」

「…………なる程、確かにやりにくそうだ」

「その拘束を解くための専門技術もあるにはあるけど、この人たちは多分その技術はないだろうからね」

 ちなみにイネちゃんはしっかり叩き込まれているんだよね、だから親指拘束がどれだけ厄介で解除しにくいものかってのも頭と経験の両方から理解している。

 親指拘束だけだと不安ならそこに手首と足首を加えてやれば基本不可能になるしね、まぁ……イネちゃんの知っている範囲ではササヤさんとかタタラさんくらいのフィジカルがあれば魔法的な拘束でもない限りは引きちぎられて終わるだろうけど、そのレベルだとむしろ拘束が現実的じゃないから気にしなくていい。

「……特殊部隊?」

「ヒロ、それは一体……」

「いやまさかそんなことは……ごめん」

 召喚勇者君はイネちゃんのやり方で何やら察したような感じだけど、よもやRPGみたいなファンタジー世界に近代軍で使われるような内容の行動されればそりゃ困惑もするってものか。

「無駄口はやってていいけど、挑発が過ぎれば後で不利になるだけだからね」

 権利の読み上げを省略するのは、ここが異世界だからである。

 召喚勇者君以外は権利読み上げしたところで理解できないことが確定しちゃってるからね、ジュネーブ条約とかまず知らないし。

 でもまぁ、遺跡から作っておいた独房までは素直に動いてくれたから遺跡から出た後は特に書く事もなく進んだわけで……。

 帰ってきたら帰ってきたでスーさんたちが到着して、既に拘留していた人たちの尋問を終わらせていたっていう。

 そういうわけなのでここからは休憩室で1人1人お話を聞いた内容になるよ。

「えーそれじゃあ1番会話しやすいだろう君を召喚させて貰ったけれど、そちらから何か言いたいことはあるかな?」

「テレビに自販機に……それに君の戦い方は特殊部隊のものだろう?もしかして君も地球から」

 というわけで召喚勇者君ことヒロ君です。

 本名はあるけれど、このキハグレイスという世界ではヒロと名乗っているしその方が都合がよかったからということで尋問もヒロで統一するね。

「それを答えるには君の情報が少なすぎるよ。地球と呼ばれる世界は想像以上に多いからね」

「並行世界……本当にあったなんて」

「それ言ったら異世界だって同じでしょうに。その手の疑問しか出てこないようならこっちの質問に移らせてもらうね。まずは何で人類は警告1つすらせずに森の民っていうコミュニティに侵略行為をしたのか、事情を知っているなら聞かせて」

「ちょっと待ってくれ、警告せず?何かの間違いじゃ!」

「警告有りなら森の民の族長が不意打ちで重症にならないよね、貴重な交渉相手なんだから」

「そんな……そんなこと聞かされていない……」

 なる程、これはヨシュアさん以上に重症というか、平和ボケとヒーロー願望の合わせ技で善意で滅びの道を舗装するタイプだ。

 ヨシュアさんはアレでそういう人の悪意に関してはあるものって認識だったから後ろめたさとかにつけ込まれなければ大丈夫だったけれど、ヒロ君はその単純さ、純粋さにつけ込まれるタイプだね。

「そもそも異世界から勇者を召喚、なんて聞こえはいいけれど、やってることは自国のリソースを最小限にしか使わずに他の世界から暗殺者を呼び出しているだけだからね。例え相手が絶対悪って定義できそうな相手であっても、やることは少数精鋭で敵国の指導者を暗殺するわけだし」

 正直大陸の勇者が特殊なだけであって、他の世界の、ことさらRPGで定義されるような勇者であるのならその役割は斬首作戦を最もリソースを割くことなく実行可能にする体のいい称号でしかないよね、コーイチお父さんにそう聞いたらそうだけど太古のファンタジーなロマンはあるという答えが返ってきたけど。

「そんな言い方!」

「まぁそうだね、文明レベルが古代ローマ時代くらいなら少数精鋭の斬首部隊はエリートな英雄扱いだし、近代認識で比べるのは確かに間違ってたよ、ごめんね。まぁとりあえず君はあの遺跡が森の民の聖地だったと知らなかった……そう主張するわけだね?」

「とりあえずもなにも……事実です」

 ヒロ君がそう言ったタイミングで隣で速記しているリリアに視線だけ送ると、首を縦に振った。

 大規模な戦闘になるってことで心配だったのか、通信をヨシュアさんに任せてリリアが来ちゃってたので、スーさんたちによる他の人の尋問のついでにここで召喚勇者君であるヒロ君の頭の中身を覗いてもらっているわけだけど……やっぱり大陸の尋問って他の世界に対して完全にメタだよなぁって思う瞬間である。

「うん、了解……じゃあ君の知っているこの世界のことを教えてもらっていいかな」

「俺はそんなに詳しくは……」

「だろうね、だからこちらは『君の知っている』とあらかじめ言ったわけなんだけど?」

 ここでヒロ君、沈黙。

 こちらの正体が分からないってのもあるだろうけれど、異邦人である自分がどれだけ喋ってもいいのか分からないっていうのが1番だろうね、リリアの方は速記が進んでいる辺り色々と思考を巡らせているのは理解できちゃうし。

「この世界は、レベルやステータス、それに付随してるスキルで強さが決まる」

「それは言ってたね、残念ながらこちらには適応されなかったようだけど」

「俺たちのパーティーは全員30を超えてたんだ、魔軍領域の奥にでも行かなければ大丈夫なくらいに鍛えていたんだ……」

「それって誰かの命を奪う前提の成長?」

「君だってそうだろう!」

「まぁ、そうだね。ただ誰かの命を奪うのが後か先かの差でしかないし。これでも軍隊式の人殺しの術を他の敵性生物にも対応できる訓練を受けてるからね」

「その敵性の枠だって君の主観だろうに……」

「そもそも敵味方が主観以外で決められないでしょ。敢えて言うとするなら国や組織の違いで個人の意思、感情、人間関係は無関係に決められる程度のものだし……まぁ少なくとも自分を正義だなんて考えたことは殆どないよ」

「……君は、なんでそんなに割り切れるんだ。まだ幼いのに」

 ここでリリアの筆の音が止まり、その違和感を感じ取ったのかヒロ君がリリアの方へと視線を移したタイミングで、イネちゃんはこう言ってやった。

「うん、今君が見てるそっちの子と、イネちゃんは同い年なんだ」

「はぁぁぁぁ?」

「ごめんリリアこいつ殴るわ」

 この後めちゃくちゃリリアに羽交い締めにされた。

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