第13話 遺跡上層部での戦闘

「さて、あの会話からして既に内部に侵入されてるだろうから戦闘はまだまだ続くかな」

 準男爵を暗殺?してから遺跡内部に突入したイネちゃんは、外が凄く騒がしくなっているのを気にせず遺跡内部に侵入した。

 本当ならバリスさんに許可を貰う必要があったとは思うけれど、ヒロと呼ばれていた勇者の妨害も相まって連絡する余裕がなくなっちゃったのは誤算だった……適当に身を隠せる場所を見つけたら通信して間接的にでも謝罪しておいてなし崩しで内部殲滅に移らないと。

 遺跡の地上部に当たる場所は幾つかの小部屋と通路、そして中央部分に下層への階段があり、そこから左右に伸びる通路の先には上層へと登るための階段が存在しているみたいで、隠れる場所はたくさんありそうではあるけれど……。

『とりあえず階段をスルーした通路の奥にある小部屋に入ろう、追手の考え方次第ではあるけど多少時間的猶予は作れそうだし』

 イーアの考えに従い、階段をスルーして通路の更に奥にある場所へと突入して小部屋の1つに入ってから勇者の力で壁を1枚形成して壁と壁の間に隠れる。

 普通ならこういう場所は酸素の関係で長期間身を隠すには不便ではあるけれど、今は短期間だけ隠れられればそれでいいし、何よりイネちゃんの勇者の力は大地から呼吸もできるからね、ヌーリエ様の特性がそのままイネちゃんにも適応されるのはこういう時本当に強い。

「リリア、聞こえる?」

<<どうしたの?>>

「指揮官を倒したのはいいんだけど、この世界に召喚された勇者に追われててね、遺跡に入らざるを得なかったんだ。だからバリスさんにごめんって伝えつつ許可をもらってくれないかな」

<<ってことはもう中に入っちゃったってことだよね>>

「うん」

「ゼラ、本当にこっちに気配があるんだね?」

 おっと、ちょっと架空金属粒子でちょっと浮いておこう。

<<もう聖地に向かっちゃったから、どうしよう……>>

「メンバーは?結構な大軍だったから最初に言っておいた面々じゃないと多数戦はきつい気がするんだけど」

 バリスさんを守りながらだし。

「この部屋から気配はあるけど……」

「誰もいない……」

「いやちょっと待て、なんかこの壁変じゃないか。周囲と違ってなんか真新しいというか……」

「本当ですかスレイ?」

 む、ちょいとマズイ。

<<わかった、伝えてはおくけど無茶はしないでね>>

 心配してくれているリリアに返事をすることもできずに架空金属粒子で音が出ないようにゆっくりと上へと登り、勇者の力で構造物と一時的に同化しつつ上層階へと移動する。

 しかし困った、何やら気配を探れるスキル持ちがいるとなると戦闘も覚悟する必要がある。

 こちらとしてはここから手を引いてくれればそれで構わないので、出世欲という野心もりもりの下級貴族をサクッと排除すれば帰ってくれるかなって思ったのだけど、どうやら情報不足な召喚勇者が必要のない正義心を発揮して追ってくるのまで想定外だよ。

 ちなみに大陸の最大派閥であるヌーリエ教会は殺人は禁忌とはしていない、理由無き殺人は重罪ではあるけれど、社会維持とかいろんな理由から必要と認められたら容認されるんだよね、まぁ大抵は殺人をするよりも夢魔の人に引き渡したほうが色々と建設的だし、罰としても重くなるからそっちが使われるけど。

 大抵、殺人容認は異世界での活動、異世界からの侵略者とかに適応されるんだよね、大陸以外の世界では基本的に殺人が極刑だからってことらしいけど。

「気配が移動した?」

 建造物と同化しているものだから階下の会話も丸聞こえ、便利は便利なんだけれど集中したい時には集中力が分散しちゃって色々遅れかねないデメリットが……いやイネちゃんが未熟なだけだけど。

「どこか分かるかい?」

「ちょっと待って……敵味方もわからないから潜ってる人類軍の気配も多くってマナの流れもぐるぐると回ってて……」

 あちらさんは平面に強いけど高低差に弱いタイプなのか。

 となればこのまま気配を消していればとりあえず大丈夫なはずだし、うまいことすれ違う形で外に出て皆と合流できればそれがベストなんだけど。

「しかし撤退指示も並行してやらなきゃいけないんだろ、だったら下に行った方がいいんじゃないか」

「でもあの女の子も放ってはおけない」

「準男爵様を暗殺するなんて……ここに眠るという力が無ければ人類は魔軍に滅ぼされるかもしれないのに」

 かもしれないを回避するために確実に1つの種族の存在意義を完全否定するのか……まぁあの準男爵とかに吹き込まれたりしてる可能性もあるけれど、実行した時点で責任がないわけではないから存分に悩めばいいや。

「いえ、上に行きましょう。調査員が1人なんてことはないですよね?」

 あ、バレたか。

 まぁいいや、移動を繰り返すだけで時間は稼げそうだし合流するにしても入口のある1階にあのPTがいないほうが都合がいいから、上でも下でも移動してくれた方がイネちゃん的にはとても助かる。

「あ、いえちょっと待ってください!人間とは違うマナの流れが入口の方から入ってきました!」

 これは……援軍と鉢合わせかな?

 人間とは違うってことはバリスさんも来ているだろうし、もしかしたらイネちゃんたちだってこの世界の人類とは色々と違うからマナと呼ばれる魔力だって違うかもしれないからロロさんたちのことを言ってるのかもしれない。

 イネちゃんが指定したメンバーなら万が一ってことはないとは思うけれど、バリスさんが万が一の対象なのでこれは潜伏している場合じゃなくなったか。

「我らの同胞を殺し、生きて捕らえた者を辱めるだけでは飽き足らず聖地まで蹂躙するか人間!」

「落ち着い……て、まず……合流」

 おっと、そんなこと考えてる場合じゃなかった。

「魔軍と共謀してる連中が何を言おうが知ったこっちゃねぇよ」

 これはロロさんがいても戦闘確定かな……この挑発的な男を無力化できればまだわからないけど、どうにも消極的に見えた2人以外は無力化を狙わないとちょっとお話も難しいか。

「え……これって……上にも気をつけてください!」

「殺気が漏れてるってことは二流だ、放っておけ!」

 はい、わざと殺気を出して意識を向けさせた二流です。

「とりあえず、無力化……する」

「……承知した、そちらの助力を得るための条件は理解しているからな」

 よかった、バリスさんの心情はともかくこちら側陣営が必要以上の殺しは発生しにくい状態ではあるのが確認できた。

 イネちゃんが指揮官をサクッとやった理由は人類軍を撤退させるためにその必要を感じた結果だし、事実現状撤退する流れができてるみたいだからね。

「ハッ!力量差ってのを見せてやるぜ!」

 うん、ロロさんに見せ付けられるだろうね。

 ロロさんだって大陸ギルドのランカー上位である以上は筋組織量の違いが技術じゃひっくり返せない差になってることは想像できるからね、よく柔よく剛を制すって言葉があるけれど、実のところその逆も存在していることはあまり知られていないよね、剛よく柔を断つって言葉が続くっていう……そしてロロさんは技量も高いからまず負けることはない移動要塞なのだ。

「相手のステータス……森の民の方は問題ないけれど、鎧の子は何……わからない」

「ステータスのない一般人ってことじゃねぇのか?」

「そうだとしたらあんな装備、できると思う?」

 む、どうやらあちら側にも慎重な人間が居たらしく……というよりステータス云々ってことは身体能力よりも数値データで判断される世界ってことかな、イネちゃんたちは問題なく戦えてるってことを考えるとステータスがないっていうのはデメリットでもなさそうだから戦闘では問題ではないけれど、情報収集やら政治的なあれこれではデメリットになりそうだなぁ。

「魔軍だったなら無視してきても不思議じゃねぇ、やってみれば分かるってもんだ!」

 なんという脳筋、ファンタジーとかスーパーヒーローものならなんとかなったりするけど現実ではトラブルメーカーになりやすいよね、実際今戦力分析をステータスっていう数値データのみによる判断で色々と差がひどいだろう相手に突撃かましてるわけだし……。

 まぁロロさんに全部任せるのも悪いし、イネちゃんはタイミングを見計らってホールドアップを狙うため少しづつ階下を肉眼で確認できる場所まで潜っておく。

「真っ直ぐ、すぎ……」

「斬鉄爪!」

「ん……」

「は……ふざけんな!防御無視の斬撃がなんで防がれるんだ!」

 そりゃまぁ世界のあり方の外から来た人間にまでそちらの仕様を押し付けられましてもとしか思えないこと叫んでる……というか技名を大声で叫ぶとか避けられるよね、普通に考えれば。

「ただの、振り下ろし……だし、軽い」

「レベル30超えてる俺がステータス無しになんか……負けるはずがねぇんだよ!」

「本当に、軽い……っよ!」

「スレイ!」

 スレイと呼ばれた剣士は、ロロさんに剣をいなされた直後、体幹崩しくらいのタックルで派手に吹っ飛んだ。

 うん、このタイミングでいいかな、ロロさんたちの方に意識が集中しているタイミングだしここでホールドアップできればチェックメイト。

 構造物との同化を2階から1階へと抜けた直後に解除して重力による自由落下で降りると、反応できたのは弓を持った人だけだったのでとりあえずテンプレートなゲームとかの聖職者ってイメージな服装をしている女の子の首元にナイフを突きつけながらイネちゃんはちょっとした決め顔でこう宣言した。

「チェックメイト、気づいて反応しようとしたのはいいけど、遅かったね」

 戦闘らしい戦闘はロロさんしかしてないけれど、力量差を示すのに十二分だったからね、これで武装解除に応じてくれれば楽でいいんだけど……。

「ロイ!」

「とりあえず武器を収めようか。ペン1本あれば人の命を奪える人間がナイフを持っていて女の子の首に刃をつけてる事実を理解してくれると、助かるよ」

 ひとまず人類軍の最大の少数戦力っぽいPTをあまり褒められた形ではないにしろ無力化できたことで、今後のイネちゃんのこの世界の情報収集の方針はこの人たちとお話をすることでだいぶ楽できそうなのは大きな収穫ではあったと、この時は思っていたんだよなぁ。

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