第11話 異世界人類と異文明会話

「何も喋らんぞ」

「うんまぁ、ここ3日くらいずっとそれ聞いてるからいいんだけどさ、流石に場所が場所だしずっと独房の中になるよ?」

 そしてその3日くらいずっと続けている食事運搬に合わせてこれを続けているわけである。

 一応ベースキャンプに夢魔、しかもイネちゃんとある程度一緒に行動したことがあるスーさんが派遣される予定にはなっているので、ここでイネちゃんが焦る必要はこれっぽっちも存在していないし、独房のシステムも地球とアングロサンによるSF技術の塊で、壁に関してはヌーリエ教会御用達の魔法やらが使えなくなる力場というか結界というか……万が一使用できてもイネちゃんの作った部屋に関してはヌーリエ様の加護が満載になっているようで、ヒヒノさんのような概念自体を焼失させるような攻撃でも何度か耐えることができるとかなんとか。

 なのでイネちゃんたちにしてみれば現状捕虜を抱えるというデメリットしか発生しない……はずなのだけれど、これに関しても大陸の一次産業の生産力やアングロサンによるSF的な医療技術も相まって体調面やらには殆ど問題を与えることはないし、監視カメラも起動しているため常時監視状態だからね、それもベースキャンプ側が今までの2交代制から3交代制にしてくれたおかげで24時間体勢なので万全……まぁこういう時の万全ってのは何か起きるってのが相場だってのも月詠さんが冗談で言ったので皆ちょっと不安になったのか、気を緩めることもしないっていうあちらさんにしてみれば脱獄不可の謎の建造物に拘束されているだけっていうね。

「もうすぐだ、もうすぐでお前らは後悔することになる」

「あぁそう……それならそれで別にいいけど、ご飯のおかず1品減らしていい?従順に喋ってくれる人に回すから」

「勝手にするがいい……」

 うーん、この。

 まぁ……多分だけどこの人たちを拘束したあの森の民の聖地の戦いの時に本隊だとか散々言ってたはずのバリスさんたちと戦闘していた部隊に何かしらの手段で撤退指示出したんだろうし、テレパシー系の何かを使えるって前提では考えているけれど……まぁこの際バレたらバレたでいっそイネちゃんが楽できるって思えばそれもそれでいいかなって。

「おい、こいつらを何故生かしている」

「情報聞けるし。森の民が結構被害を出したのは知っているけれど、それならそれでこいつらがなんで聖地を狙ったのか、聞き出さないといけないでしょ?」

「それは……そうだが、だが報復も何も無しでは戦士たちに示しがつかないのだ」

「今自由無しで拘束中なんでそれが報復には?」

「ならん。我らは人類がやってきたことを教えるために奴らのやり方で捕虜は基本殺すと決めているのだから」

 あーなる程……となるとフィールドワーク的に聖地に入った人もアレかなぁ。

「殺しあってたら魔軍の1人勝ちじゃない?」

 とりあえず正論を言ってみたらバリスさんは黙ってしまった。

「すぐに変われないのは理解できるし、こちらとしても強制するつもりなんてないから。ただこの人らを拘束したのはこちらなんで、せめてこっちが彼らをこの場で解放とかしちゃうまで待ってもらっていいかな」

 方便ではあるけれど、とりあえずこうは言っておかないとね。

 そう簡単に殺してたらイネちゃんの本来の目的である情報収集なんてこれっぽっちも進まないわけだし、そもそもこの場で解放もする気はないからね、あちらが何かしらテレパシーみたいな交信していた場合の交渉材料なわけだし。

「だが、ここは私たちが古の時代から守り抜いてきた土地なのだ」

「それも承知してるよ、だから殺すのはダメだけどそれ以外の尋問には立ち会ってもらってるでしょ?」

 まぁ言いたいことはそうじゃないのもわかってる。

 森の民なんて族長さんが負傷して今はバリスさんが族長代理しているくらいに被害を受けちゃってるし、聖地である遺跡の一部が捕らえている連中が使った詠術とかいう力で破損してしまったこともあってかなりピリピリしてるんだよね。

 おかげでイネちゃんもなだめながらって形で淡々と尋問することができたんだよね、結局なにもわかってないけど。

「それは族長からの命令だったからだ……だが、今はそれが我々にとっても必要なことであると判断しているからだ。現実としてお前たち異世界人の力が無ければ聖地を守りきることができなかったのだからそこは私も理解はしている」

 でも言いたくなっちゃったってことなのはまぁ、仕方ないか。

 ずっと守っていた聖地がよそ者が揃いも揃ってドンパチしまくってたわけだからね、気持ちは理解できる……まぁいろんな都合が衝突しまくってて、特に問題になるだろうこの世界の人類が何をもって森の民の聖地である遺跡を欲しがった理由を知らなければ今回みたいなことが何度も何度も起きてしまうからね、バリスさんもそこはわかっているからこそ、こちらの言い分を聞いてくれているわけだし。

 理性と感情の切り離しがちゃんとできているって点でバリスさんは信用しても大丈夫な人って証明になるからね、事件はあったし、尋問はこれっぽっちも進んでいないけれどバリスさんの人柄が理解できたのはイネちゃんにとっては収穫だったかな。

「まぁ、今はこっちの専門家が来るまではこの形を維持するしかないよ」

「しかし専門家とはなんだ、尋問なら爪を剥ぐなり水責めにするなりで事足りるだろう」

「それ、専用の訓練を受けてれば耐えれるからね。特に痛みって事前に構えることができれば案外耐えれちゃうもんなんだよ」

「それは……戦士としての訓練にも確かにあるが」

「好待遇な捕虜の扱いしているとは言っても自由を一切与えてないからね、食事に関しても食べてなかったら食べるまで懇切丁寧に暖かいものに交換してあげる程度には」

「それは……拷問になるのか?」

「食べないって選択をするのも自由に該当するんだよ。まぁ大陸限定の価値観かもしれないけど」

「いや……だがずっとそれが続くとどうする、食べない自由は行使できるのではないか?」

「まぁ、3日程度ならそれもそうだね。でも水が食事を食べないと出てこないってなればどうなると思う?」

「……生命活動に支障が出ては困ると言ったのはあなたでは」

「ちなみにちゃんと食べてる捕虜には欲しい時に水を与えてるよ。食べない自由を行使したらただただ自分の首を絞めるだけだから食べないのも限界になってくるってこと。ちなみに指揮官以外は既に食べてる」

 まぁこうは言うけど実は寝ている間にエネルギーゼリーを気道を塞がないように流し込んでたり、無理そうなら点滴ぶち込んでたりと手は打ってあるから、本人の意識の問題でしかないんだけどね、色々変な会話になっちゃったけど、最初に言った食べない自由を行使させないっていうのが事実だったりする。

 最も、そんな形をとってるから本人が知るよしもないので食べない自由を行使していると勘違いしたままなんだけど。

「まぁ、それはアレの自由だ、今はどうでもいい。異世界の専門家というのは一体どういう尋問をするのか教えて……」

「教えてもできないと思うよ、まず持って頭の中を覗けないと不可能、物理的な接触を持つのは快楽前提だし」

「かいら……!?」

 あらあら百面相。

「ちなみに房中術とかそういうのじゃなく、そういうのに長けた種族だってだけだよ。こっちに来たときに当人たちに聞けば色々聞かせてくれるだろうから今はどんな認識でも別にかまわないよ」

「なんだか怖いな……」

「怖いついでに1つ、聞いておきたいのだけど……」

「なんだ」

「バリスさんは人類が聖地を襲撃してきた理由、何か分かる?」

「それを知ってどうするつもりだ」

「どうもしないよ。彼らへの対応が少し代わる程度のことだし、最も、それが世界を一撃で消滅させる兵器とかなら話は代わるけどさ」

「……話す話さないは族長が判断すべきことだ」

 一瞬考えたな……もしかしたらバリスさんくらいの地位でも真実を知らないってことなのかもしれない。

 戦闘が終わった後、少しだけ勇者の力で全体像を把握しようとしたけれど、なんだかやたらと範囲が広くて不思議な感覚になる場所とか、調査するにも異常に時間がかかっちゃうような場所まであったからね、ダンジョンとかそんな感じになっていると考えて間違いではないとは思うけれど、逆算的にそんな防備が必要になる何かがそこにあるってことの裏返しだからね。

 ただ神様を祭っていたりとかならここまでの防備は必要がないはずだし、神話的な道具やら魔法……あぁこの世界では詠術か、まぁその詠術での禁術とか封印されていても不思議ではないし、そういうものがあるのであれば森の民が脈々と守人を勤めている説明にもなる。

「まぁ、知ってる知ってないは今はいいか。どのみち彼らを尋問するための専門家を待つしか現状打てる手が実質ないわけだからね」

「あなたの思惑通りに進めばいいがな……」

「本隊逃がしちゃってるから、期待はしてないよ。聖地に関しては次は最初からこっちも防衛手伝わせてもらうよ、万が一が起きかねない……というか次はまず損耗率が上がるだろうって確定しちゃってるくらいに森の民側は消耗しちゃってるんだから」

「それは……族長からも言われたよ、頼れとな」

「本当、まだこの世界に関しては目隠し状態もいいところだし、この世界の現状変更にはあまり関わる気はないからね、そこは信じてもらってもいいよ」

 というか今大きく変わられるとイネちゃんの仕事が洒落にならない程のハードモードになっちゃうから現状変更は断固として阻止させてもらうよ。

 直接関わらなくていい場所で大きな戦争とかが起きる分には情報収集はしやすいんだろうけどねぇ、当事者になると本当に面倒極まりない。

 そしてなにも怒らないということなんて期待はしていなかったのだけれど、実際にそれが起きたのは夢魔の人がこっちの世界に到着するその当日のことだった。

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