第10話 銃器無しの戦い
「ファランクスを崩すな!崩せば一気に持っていかれるぞ!」
「女の子1人に完全武装の男が集団でそんな軍隊相手みたいなこと言って……」
「女童と言うには凶暴な以上、対魔軍と思わせてもらうだけだ」
魔軍っていうのがどういうのかを知らないイネちゃんにとってはなんとも納得いかない感じはするけれど……銃器も爆発物も使えない状態でファランクスを相手ってのは面倒この上ない感じで膠着状態になってしまっている。
こちとらお守りでP90とファイブセブンはもって入るけれど、この世界に来る時には使わないって約束してるものだし、爆発物である手榴弾に関してもこの世界に爆発系の魔法が実在した場合のみ使用可能って制約がついているからね、実質武装はロロさんから受け取ったお古の盾と、いつも持ってるサバイバルナイフ、お父さんたちに貰ったソードブレイカーに買うだけ買って殆ど使っていなかったショートソードとハンドアックスだけだからね、ナイフを投げて一箇所潰したり、斬首作戦的に指揮官を狙ったところで投擲物の速度を考えれば防がれる可能性の方が高すぎて使えないし、近接しようものならファランクス陣形の死角になる盾の影まで最速で向かわなければならないわけで……。
しかもこっちが攻撃手を考えるのに必死な状態であちらもこっちを攻撃してこないから厄介なんだよなぁ、ファランクス陣形の時点で迎撃特化なんだからそりゃ当然なんだけど。
問題はイネちゃんが習熟している戦い方は、既にファランクスがCIWS、つまり迎撃用の防衛火器になっている時代の戦い方であって、白兵戦に関しても銃器への対処法が中心であり古代から中世まで大活躍してたファランクス陣形への対処は訓練していないってことである。
正直、さっき考えた盾の死角になる位置に移動するってのも思いつきで、脳内シミュレートしてみたら思いっきり盾の隙間から剣が伸びてきてグサッってなるイメージができたくらいだし……まぁ勇者の力による身体強化は許可されてるから問題ではないのだけれど、剣を勢いよく刺されてノーダメージって時点で人外判定されそうなのも問題の1つなわけで……。
「3人程射撃に移行、膠着状態を解除しろ」
先に動いたのはあちらで、弓が2人、スリングショットが1人……回避はできなくはないけれど大きく避けたら一斉突撃とかされて聖地に入り込まれる流れが見えるので、盾のギミックを1つ使うことにする。
小さい体で広範囲を防御することまで想定していたロロさんのお古だからね、ちゃーんとイネちゃん、どんな機能があってどういう操作が必要かとか聞いてあるんだ。
森の民には悪いけれど、聖地の入口まで後退してから盾のギミックを起動させて、円形盾でバックラー程度の大きさだった盾が展開して接地盾くらいの大きさにまで広がって地面に突き立てる。
いやぁロロさんの盾って標準モードの表面積はバックラーなのに、厚さがかなり分厚かったけどこんなとんでも盾だったんだねぇ。
普通こんなギミックを仕込むと耐久に大きな問題が出るものだけれど、どうやら骨格部分が大陸でも最も硬いと言われる聖獣ヌーカベの骨製で作られている上に実際攻撃を受ける部分はイネちゃんがあれこれやって軽い架空金属板にしてあるものだからこの世界の文明レベルの武装なら貫かれる心配は恐らくはない。
「見掛け倒しなぞ気にするな、攻撃を続けろ」
うん、逆の立場だったらイネちゃんもそういう判断してると思う。
しかしまぁ見事なまでにやらかしちゃったなぁ、銃器使わないってだけでイネちゃんこれだけ攻撃能力が下がるとか自分でもちょっと笑えない。
実際のところ突撃してみれば案外簡単に行けたかもしれないけれど、それはダメだった時のリスクが高すぎて選択肢に入らなかったのは確かだけれど、現状を考えるとどっちが良かったとかわからない。
「……
詠術?この世界の魔法とか魔術とか、そんな感じのものだろうか。
なんて考えていたら幾つかの火球が飛んできてイネちゃんの真上で爆発した。
「アツッ!」
爆発して降ってきた火の粉は熱くはあったものの、こちらに致命的なダメージを与えるものではなく髪の毛がちょっとふわってなる程度だったんだけど……そうか、爆発は標準であるのか。
「重ねろ、多少の破損で使えなくなるような遺跡ではないだろうからな」
遺跡を使うって……まぁそのへんは戦闘後に、ちゃんと会話可能な状態だったら聞けばいいか、既に無力化している3人じゃ下っ端すぎて情報を持ってないかもしれないし。
とりあえずあちらさんが爆発を使ってくれたのはイネちゃんにとっては朗報でしかないので、早速フラググレネードを持ち出してあちらの隊形を確認する……あ、この確認は鏡を使ってるよ、迂闊に遮蔽から顔を出すとか鏡面にできるものを何も持っていない時の最終手段だしね、イネちゃんだって女の子なんだしちゃんと手鏡は持ってるんだよ?
確認できた相手の陣形は、ファランクス陣形の半分を攻撃に回しているようで詠術とかいう魔法らしきものを手を突き出す形で何やらブツブツ呟いて使用している感じ……さて、どのタイミングでグレネードを投げ込むかだけど、相手の砲撃が隙ができないように撃ってきていることもあってタイミングを計りかねる状態になってしまっている。
「畳み掛けろ、張り付けにするのだ」
……張り付けってことは急がないとかな、人員を1人2人割いて他に入口がないか探されたら実質こっちの負けだし、強引に相手の生死問わずでやらないとダメか。
「Fire in the hole」
味方はいないけど安全確認大事、訓練しなおすまでは対ゴブリンってこともあってやってなかったけれど、地球に居た半年の間にお父さんたちに凄く怒られたから最近はむしろ言わないと落ち着かない感じになってしまった……ちなみに今投げたフラググレネードはそんなことを考えている間に爆発してあちらが混乱状態になっているよ。
「馬鹿な!単独でこれほどの爆炎を使うなど!」
爆炎……ではあるのか、最もイネちゃん詠術どころか大陸の魔法だって簡単な付与魔法しかできないし、今使ったのは地球製の一般的なフラググレネードだから使おうと思えば誰でも使える爆炎魔法……いや爆炎詠術になるね。
「被害報告急げ!」
混乱してるかな……とりあえず鏡で確認しては見るもののグレネードの爆発で発生した土煙やらなんやらで流石に視覚による確認ができない。
一応は勇者の力による接地感知はできているからいいのだけれど……それだとあちらが攻撃体勢を取っているかとかはわからないからね、そこにいることは分かっても詳細な接地圧とかを判別できるわけじゃないから戦闘では本当ちょっとしたレーダー程度にしか役に立たないのでこういう時は本当に困る。
「イーア、どうしようか……」
『今の爆発音でロロさんが来てくれるのを期待してもいいけど……って通信、月詠さんに頼んでみればいいじゃない』
あぁその手があった。
それでは早速通信機のスイッチをONにして……。
「月詠さーん、ちょっと膠着状態で大変なんだけどどうしようか」
<<別に躍り出て暴れればいいんじゃない?>>
「いや防衛目標に入られたら実質負けだからね?」
<<大陸出身の数人、既にそっちに行ってるロロさんとティラーには侵入者の監視をヨシュア君と交代させて向かわせてるから、合わせなさい>>
「いや合わせろって……」
<<いいから準備。10、9、8……>>
「え、ちょっと!?」
唐突に始まったカウントダウンに慌てて装備を確認し、結局ショートソードとカウントダウンに合わせて盾を解除する形にすることにしたけれど……。
<<3、2、1、今>>
「もうちょっと抑揚って奴をですねっ!」
文句を言いながらも飛び出すと、指揮官の後ろの方からティラーさんが、最初にイネちゃんがここに来たルートからロロさんが大きな叫び声を出しながら突撃していた。
<<3方向からの包囲、うち1つは不意打ち。身体能力の差を考えればこれで詰み>>
月詠さんの言葉通り、そもそもの身体能力の基礎値が違いすぎてこの後めちゃくちゃ無双することになった。
というかもうこれ武器いらないんじゃないかなってレベルだったのは、流石にこれ何かおかしいのではないかって感じになったよね。
<<指揮官がやられたことをどうやってかは知らないけれど森の民と戦闘していた連中にも伝わったらしいわね、とりあえずそいつらを拘束しつつ森の民と合流すれば今回の騒動は一旦終わりね>>
「一旦……あぁそうだよなぁ、この後尋問やらなんやらやらないといけないんだ」
イネちゃんはバリスさんたちと合流し、拘束した人たちを連れて施設まで戻り……イネちゃんだけ休む間もなく施設の上と下に色々と拡張したのだった。
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