第8話 初めての異世界人類

「完全に組織だった攻略作戦ってことかなぁ、最初に指揮官を狙う斬首、それに呼応して集団によるローラー作戦か……ドローンの俯瞰だとよくわかるけど、現地なら密林ってことも相まって森の民側がとれるのは各個撃破が最善かな……」

<<どうかしらね、森の民には防衛目標が設定されているおまけにこの映像情報は持ち合わせていないのだから、逆に各個撃破される可能性の方が高いと思うわ>>

 バリスさんが飛び出してからお守りである銃の掃除と整備をしつつモニタを眺めながら戦況を見守っているのだけれど、どうにも森の民側の不利は覆らないって感じに状況が流れてきている。

 ヨシュアさんが放っておけないとか言って皆に取り押さえられる形になったから、ベースキャンプの通信士は月詠さんに変わっているけれど、イネちゃんも月詠さんも現在の戦況は不利という項目では共通していた。

「どのくらい持つと思います?」

<<イネちゃんとの立ち会いは全然参考にならなかったけれど、検疫とかに必要で採取させてもらったのを少し培養して調査してみた分にはあまり期待しない方がいいわね。確実なことを言おうとするのなら実際にいろんなデータを取得させてもらえないと>>

「いや培養って……」

<<ムータリアス出身の錬金術師の人工生命生成技術とアングロサンの培養技術を私なりに解析用として合わせてみただけよ。移植だの兵器だのなんかには利用できないただの細胞分裂の過程や細菌の培養くらいにしか使えないわ>>

「細菌の培養って時点で兵器になるんじゃ」

<<大陸の鉱物で作らせてもらったから自動的に無毒化されるのに?>>

「あぁ……でもなんで培養した細胞で期待しないほうがいいとかわかるんです?」

<<筋肉組織の分裂が鈍い。大陸人から比較すれば10分の1程度、地球人換算しても6分の1程度。そもそもの身体能力が低いということね。現状森の民の分しかできていないから確実とは言えないけれど、少なくとも戦士と名乗ってる人以外は蹂躙対象でしょうね>>

 身体能力分析とか、細胞培養だと無理な気がするけれど……月詠さんって天才だし、ムータリアスの錬金術師ってグワールだよね……となればゴブリンの培養技術にSF技術なアングロサンのものも加えてやればできなくない……のかな?

「援護に出るべきかどうか、判断しかねる状況だなぁ」

 せめて森の民の聖地を狙ってきた軍がこっちにまで来てくれれば、ここを守る流れであれこれ悪さして聖地を守りながら森の民の救出も狙えるけど……。

「月詠さん、森の民の人たちの様子もいいけど、こっち周辺の映像って出せる?」

<<飛ばしてるドローンがアレだけなのよね……アングロサンの地表撮影用衛星でいいなら使うけど、そっちは静止画になるけどいい?>>

「アングロサンのやつなら連続撮影もできるでしょうからお願いします」

<<了解>>

 なんというか……地理確認用に打ち上げておいたやつが色々と役に立っている。

 まぁ地理情報とか地球の有史以前から戦闘の趨勢を決めてきた重大なものな以上、言語解析と並行して進めておいて正解だったってことだね。

<<撮影データをそちらに表示させる、ただ連続撮影機能が貧弱だったからリアルタイムとは言い難いものになるのは承知しておいてね>>

「構いませんよ、お願いします」

 そう言って送られてきた画像は、少し前に見ていた物と変わりなく静かなものだった。

「都合よくこっちにまで襲撃は来てない、か……」

<<ま、襲撃してきた連中からしてみれば森の民の聖地を接収することが目的でしょうからね、人類と魔軍ってのが戦争状態にあると過程すれば包囲するほどの物量はそう投入しないんじゃないかしら>>

「そうですよねぇ、森の民の人たちは中立ではあるけれど、別に不可侵条約とか結んでいるような感じじゃなかったから当然と言えば当然……」

<<いや、ちょっと待って……良かったわねイネちゃん、少数だけどそっちに向かってるみたい>>

「え、どの辺ですか?」

<<カメラ位置が高すぎたのね……すぐに分かるわよ>>

 月詠さんの言葉が終わると同時に施設の鉄扉が強く叩かれる音がした。

「なる程、数はわかります?」

<<カメラに映ったのは3人、施設側にもカメラ、つけて置いた方がいいわね>>

「事後に付けましょう。とりあえずロロさん……それにティラーさんにどうせならキュミラさんもこっちに送り込んでもらっていいですか。迎撃完了と同時にイネちゃんは出ますので」

<<了解、施設の留守番ね>>

 月詠さんだと本当、理解が早くて凄く助かる。

 施設の扉は一部はアングロサンの宇宙船と同レベルの隔壁扉にはしてあるけれど、それはジェネレーター設備とゲートのある格納倉庫、倉庫から繋がる施設のシステム制御室に繋がる場所の3箇所しか整備していなくて、他の場所は鉄扉とは言っても地球製の一般的なものにしてあるから破城槌とか準備されれば簡単に突破されてしまうし、ロックピック技能を持った人間が居れば……。

 カチャリ。

 そうそうこんな風に簡単に開けられちゃうってもう開けられてるぅ……いやまぁ本当に大事な場所は隔壁扉で守ってあるし、入ってきた連中の動きに合わせてイネちゃんが迎撃すればいいだけなんだけど……うっかり動脈とかをやっちゃうとお掃除大変だからなぁ。

「お、おい……ここは聖地じゃねぇんだろ」

「あぁ、だがお宝の匂いがしねぇか?俺はするね」

「だが異常が過ぎる。熱も魔力も感じない灯りなぞ聞いたこともない」

「だからこそだろう?」

 あぁ口頭言語は理解できる……ってかご都合主義的に訛りは凄いものの日本語みたいだね、ご都合主義万歳。

「任務が大事だってんならお前らは先に行きな、俺はお宝をゲットしておく」

「勝手にしろ、報告はしておくからな」

 どうやら別れて単独行動をするやつがいるっぽいね、3人ってことでもうひとりがどっちについていくのかってのはあるけれど、そこはイネちゃんの勇者の力で接地しているかを感知すればいいだけだから扉の死角になる場所に移動しながら今更防衛設備を起動していないことを思い出した。

 まぁ、既に侵入されているわけだし今起動したところで屋内にミンチができるだけだからやらない方が無難なんだけど……こうなるんだったら森の民で出入りする人も味方識別しておいたほうが良かったなぁ、それだけで常時起動しておけるんだし。

 そんなことを考えていると、気配が扉の前で止まった。

 ドアノブが回り、ゆっくりと開く……うち開きにしておいたおかげでイネちゃんは完全にドアの裏に隠れる形で、現在呼吸も止めて気配を消している状態……。

「おらよっと」

 という言葉と同時にナイフがイネちゃんの頭の上を突いてきた。

 気配を消してはいたけど、何かしらの感知をして判断したかな……とりあえずこの腕は軽く折っておくとして……。

「ぐあぁ!?」

 いや本当に簡単に折れなくてもいいんだよ?

 いくらイネちゃんが完全に伸びきった腕の関節をてこの原理しながら逆方向に曲げてあげたからって男で兵士であるのならもうちょっと抵抗があると思ってたんだけど凄く簡単にポッキリいっちゃったよ。

「いや……ちょっと弱すぎない?」

「てめぇ森人もりびとじゃねぇな……なんで人間がこんなところにいやがる……」

「うん、とりあえず状況を考えようね、今どっちが優位で主導権を握っているのかって」

 腕の骨を折ったにも関わらずすぐに質問してくる胆力があるのは遺跡荒らしなり軍なりどちらにしても伊達ではないってことかな。

 とりあえず逆の腕も折っておこう、何か爆発物とか使われたとか笑えないことにならないように先に対処しておかないとだし。

「ってお、おい、何しようとしてるんだ……」

「え、もう片方の腕も折っておこうかなって、何か企まれたら嫌だし」

「そんな軽い気持ちで折るんじゃねぇ!」

「いや折るでしょ、気配消した武装した男が入ってきたら強盗なりなんなりと思うじゃない?こちとら女の子だし怖いの嫌だから対処しないと安心できないもん」

「もんじゃねぇ!軽すぎだろ!」

「だってそっちも軽い気持ちで侵入してきて、真っ先に頭部狙って殺そうとしてきたじゃない。こっちは殺さずに拘束しやすくしているだけなんだから優しいでしょ」

 まぁ頭部狙いが明らかに上だったこともあって軒並み高身長な森の民の人がいると思ったんだろうけど……となると気配感知はイネちゃんと似たようなものだったのかな。

「……いややめてやれよ」

「ここは、代わる……だから……」

「あ、2人とも到着したんだ。これシステムの操作リモコンだけど、いる?」

「いい。とりあえず拘束して、ここに……立てこもる」

「じゃあお願いするね」

 ティラーさんとロロさんが来たことで、この侵入者の拘束と監視は任せられる。

 万が一別れた2人が戻ってきたとしてもロロさんとティラーさんなら任せて全然問題ないくらいの実力みたいだったし、イネちゃんはバリスさんたちの元へと急ぐため施設を出るのだった。

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