第6話 この世界の基礎情報
「と、いうわけなのでちょっとあれこれ聞かせてもらってもいいですかね」
「私にはキサマらを監視するという任務がある」
「いやそれなら中でもできないかな、外に出ないんだし族長さんが外にいるのなら大丈夫だと思わない?」
「行ってこいバリス、彼らにこの世界のことを教えて差し上げるのだ」
「しかし!」
「命令だ。それにこれはお前にとっても必要なことなのだぞ」
「何を持って必要だというのですか!」
「相手を知るということを知ることが必要なのだ。全てが力で解決できるわけではない」
族長さんがそこまで言ってようやくバリスさんは下唇を噛むくらいに納得できていないようだけど、命令を聞く気にはなってくれたようだ。
建物の入口に立っていた2人にこの世界のことを聞こうとお願いするだけでこの反応はちょっとどころじゃなく時間がかかりそうできっついなぁ、族長さんが質問に答えてくれるのなら協力的だし早いとは思うけど、バリスさんだとお世辞にも協力的とは言えないのは言動と今もイネちゃんに向けてきている敵意でひしひしと感じてるからね……。
「私はまだ信用したわけではないからな!」
「うん、別にそれでいいから……じゃあまずは今こうしてお互い会話できているわけだけど、この世界の人類や魔軍って言語は同じなのかな」
凄んだ相手が特にどうすることもなく、すぐに本来の目的である質問を始めたことで眉が凄くピクピク動いたけれど、イネちゃんは気にせず返答を待つことにした。
いやだってここで何か反応したところでバリスさんを怒らせるだけでしょ?
「……少なくとも、人間とは言葉は通じる。私は戦士ではあるが、会話能力のある魔軍とは1度も戦ったことがないから知らん」
「幹部は喋る。だが言語としてはあちらがこちらに合わせていると言ったところだ」
「なる程、となると言語に関しては問題なさそうかな。それでは文字についてなんですけど……まず森の民の人たちは文字文化はどんな感じなんですかね」
「そんなもの必要ない、同胞とは分かり合えるからな」
「となると森の民の人たちはテレパシー……思考だけで会話も可能ってことですね」
「……微量ながらマナを消耗する」
「あぁはい、ですから普段は口頭言語による会話で済ませると……こっちを囲んでいたときにも思考による連携だったってことですね」
「だとしたらどうだと言う」
「いえ、見事な包囲だったので」
「皮肉か!」
「素直な感想ですよ。こちらとしても人質作戦か殲滅かのどちらかを考える状態でしたから」
「やはり人は……!」
それだけ綺麗な包囲で隙がなかったってことだったんだけど……皮肉みたいになっちゃったか、反省。
「逆に聞かせてもらうが、キサマらはなんの目的で世界を渡ろうなどと考えた」
「単純に調査目的だよ、イネちゃんたちの世界では結構な頻度で異世界と繋がるから公的なお仕事として調査して、危険ならゲート付近を封鎖、もしくは封印するためにね」
「侵略、略奪が目的ではないとあくまでシラを切るつもりか」
「シラもなにも大陸は他の世界に資源を求める必要が皆無だからね」
あ、これ嘘だと思われてる、バリスさんの表情がもう疑いしかないって感じに眉間にシワが寄りまくってるもん。
「それにゲートが安定しちゃってずっと繋がるようであるのなら、その世界の組織と平和的に会合とかする必要も出てきちゃうでしょ?そういう時に備えての調査だよ」
「理解できんな」
「まぁ……そもそも根底の考え方からして違うのは、世界が違うのだから当然のものと思うしそう言われるのも仕方ないよ」
ここでイネちゃんがすんなり理解されないことを受け入れたのがそんなに不思議なのか、バリスさんは本当に理解できないって感じの表情を向けてくるけれど、それは今までの敵意ではなくなっていた。
会話が途切れて少し沈黙したこのタイミングで、建物の扉を開いて技術屋さんが室内から呼びかけてきた。
「一ノ瀬さん。設備の設置は終わりましたんで稼働テストに移ります。それと外じゃなく中で話せばいいんじゃないですかね、一ノ瀬さんが休憩室作っているんですし、既にアングロサンと地球のユーティリティも搬入を終えて稼働してますから、お茶やコーヒーくらい出すことができますよ」
「あ、お疲れ様です。それじゃあ稼働テストも続けてお願いしますね」
「分かってます」
「設備?設置?キサマらは何を言っている……」
「んーじゃあ見てみます?」
「作業の邪魔だけはせんでくださいよ」
技術屋さんがそれだけ言って戻って行ったけれど、バリスさんは中に入るのは抵抗があるのか考え込む感じに口を真一文字にする勢いで強く歯を噛み締めてる・
「見に行くとよい。彼女らの文明のレベルを計るには直接見た方が早いだろうからな……」
「族長……あなたがそう仰られるのであれば。ですが族長を狂わせたものを確かめるだけです」
「それで構わん」
むぅ、なんか納得できないやり取り……いやまぁ族長さんを狂わせたっていうのは見方的、特にバリスさんたち森の民からみれば理解はできるけど納得できないよねぇ、こっちはしっかりとおもてなししたのに……ハイヤーの代わりに全長18mの高天原を使ったり、わざわざアングロサンの主力兵器である15mサイズの人型ロボットであるアグリメイトアームの整備工場を経由したりはしたけど、脅しではない、こちらからという但し書きではあるけど。
「おい、中を見せてくれるのだろう。早くしてくれ」
なんか凄く偉そうなバリスさんに族長さんが頭を抱え気味ではあるけれど、話を聞くのに立ちっぱなしって環境の方が問題だろうからね、気にせず案内しようとするけど……ここでふと気になった。
「族長さんは来ないので?」
「監視屋の指示を出さねばならんからな。気遣いは受け取っておこう」
「そちらが終わったら中に入ってこられてもいいですよ、防御システムは滞在中切っておくつもりですし、なんでしたら休憩室を使われてもいいですしね」
重要箇所とゲート付近のドアをアングロサンでイネちゃんが乗っていたミルキーウェイ(命名イネちゃん)っていう航宙母艦で使われてた隔壁扉を使えばいいだけだしね、なんだったら休憩室をもうちょっと整備して来賓室として兼用できるようにしておくのも悪くないかもしれない。
「じゃ、バリスさん案内しますよ。まだまだ文字のこととか人類や魔軍の文明、文化とか知ってること聞きたいですから」
「早くしろ」
本当偉そうだなぁ、まぁ森の民の中では族長の次くらいに偉いっぽいから実際に偉いんだろうけど。
バリスさんを案内するようにイネちゃんが先導して休憩室まで行くと、数人の技術屋さんがコーヒー片手に談笑していた、余裕あるなぁ。
「いやぁ地球のコーヒーは美味いですね」
「いやいや、これだって量販品ですよ。本当に美味い店は知ってるが……地球になっちまいますからなぁ」
「大陸に輸入されてないか戻ったら聞いてみますか」
「ですな」
がっはっは。
という雑談をしていた……いや本当に余裕だよねこれ。
「……コーヒーとはなんだ?」
「豆を粉末状にしてお湯で出した飲み物。主に匂いを楽しむものだけど栄養もちゃんとあるよ」
それっぽい説明はしたものの、イネちゃんってあまりコーヒーは詳しくないけど今の説明で良かったかな……イネちゃんは主に緑茶を飲んでたから、知識としてはお父さんたちが淹れるのを見ていた程度でしかないんだよね。
「正しくは焙煎した豆のってやつだな。興味があるならそっちに自販機搬入してるからどうぞ」
コーヒーメーカーとペットボトルと缶の自販機まで搬入されてるぅ……というか台所もいつの間にか作られてるし、ちょっと仕事早すぎやしませんかね、水をどこから引いたんですかね。
「焙煎……?」
「まぁそのへんはおいおいってことで。水にお茶にコーヒーにスポーツドリンク……ココアにジュースもあるんだね」
「水以外わからん……」
なる程、少なくとも森の民には水は水なんだね。
単語1つ、仕草1つとっても違ったりするからなぁ、コーイチお父さんのアニメで白旗が徹底抗戦の意味だったりとか見た記憶あるから、本来はこの辺の調査をしてないと怖い。
今までイネちゃんが関わった世界は誰かの調査後とか、あちらの世界からアクセスしてきていたから事前に情報は揃っていたけれど、今回はイネちゃんがその情報を集めないといけないのだから、できればそういう危険は今のうちに把握しておきたい所。
「とりあえず全部コップに移して置いてあげるから、舐める程度に試してみるといいよ。それでさっきの続きなんだけれど……」
外でしていた会話の続きを始めようとすると、バリスさんは1冊の小さいメモ帳を取り出して机の上に置いた。
「これは?」
「以前聖地に侵入しようとした人間が落としたものだ」
「中身を見ても?」
「構わん、私たちにしてみれば価値の無いものだ」
「では失礼して……」
触った感じでは革の装丁に、どうやら植物系の紙……パルプ紙ではないみたいだけれど、紙の発明はされている世界のようで、書かれている文字に関しても鉛筆のような感じではあるけれど、どうやら炭による筆記具だったようでところどころかすれている。
そして今イネちゃんはかすれているとかの問題はどうでもいい些細な問題だと瞬間的に感じていた。
「うん、読めない!」
メモ帳にはアラビア文字のような形ではあるものの、縦読みなのか横読みなのか、そもそもこれがどういう文字形式で書かれたものなのかすらわからない……だってイネちゃんアラビア語なんて知らないもの。
「……人間なのにか」
「だから世界が違うんだって……」
これは……異世界で歩き旅をする前に発覚して助かったパターンだったようだね、うん。
1度ヌーリエ教会側に解読作業を頼まないとだから、もうしばらくはここに滞在することになりそうだね……森の民の人たちからも色々と聞きたいことはまだまだいっぱいあるからある意味では助かったと言える……のかな?
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