第5話 ようやく始まる設備整備

「……矛を収めよ」

「族長!?攻撃を一旦止めろ!」

 戻ってきて一緒に建物の外に出ると、この人……森の民と名乗る人の族長さんが包囲して攻撃し続けていた人たちに指示を出してくれた。

 連れ去られたはずの族長が五体満足な上に拘束すらされずに出てきたことに驚きつつも、なんか密林のあちこちで魔法陣のように見える光が点々と存在しているから未だ警戒を解いてはいないってことなんだろうけどさ。

「我々が戦っても勝てない相手だ……更に言えば、幾つか威圧的なこともあったが極めて穏便な形で歓迎された……」

「貴様!族長に何をした!」

「何って、お茶とお菓子を振舞って色々と説明しただけだよ」

「嘘をつけ!族長は人間の軍や魔軍を相手に一歩も引かぬ森の民最強の戦士だぞ!」

 その最強の戦士を何もさせずに拘束したってことなのか……トーリスさんに言われたように初手を間違えてしまったのを感じてきてしまった。

「静かにしろ、お前のその言葉ならまず最初に私を拘束した手並みでこの方の方が強いと証明したことになる」

「族長……クソ、きさまぁぁぁぁ」

 今度は激高状態で族長さんに制止されまくってた女の人が襲いかかってきた。

 周囲も一緒に襲ってくると思いもしたけれど、流石に族長さんと今襲ってきている女の人もちょっと特別っぽいから躊躇ってるようで、これなら格闘戦で対処できそうと思い、構える。

「私は誇り高き森の戦士バリス!族長を惑わせた罪は命で購ってもらう!」

 そう言いながらも直線的な動きで走って来てるし、手に持った剣も大きく頭上に持ち上げてるし、それをフェイントにしているのかと逆の手を見てみると走るために振ってるしで……これが戦士?と思いつつ、相手の走りに合わせてイネちゃんの体を潜り込ませ、相手の勢いをそのまま利用して剣の柄に手を添えてから投げる。

 剣を持ったまま投げられると自傷しちゃうかもしれないからね、この投げ方なら剣を奪う形で投げられるってムツキお父さんに教えてもらったんだよなぁ。

「グァ」

 情けない感じの声が投げた先から聞こえてきたけれど、とりあえず建物の壁にぶつかる角度のはずなので大丈夫、きっと、多分。

「ひと呼吸だけで武器を奪いつつ投げ飛ばすか……」

 族長さんは族長さんでなんか今のイネちゃんの動きに関心しちゃってるし……今のは単純に既存の武術に存在する列記とした技術に過ぎないから、知識と修練さえ積めば誰でも可能なことなんだけど、関心されると何とも言えない気持ちになる。

「ゲホッ……まだ、負けたわけでは!」

「今の立ち会いで実力差を把握できないお前は未熟すぎる」

「クッ……」

「えっと……今のってただの技術でしかないんですけど。とりあえず聖地に関して侵略とかそういうのを考えていないのは族長さんに伝えましたし、こちらの作業員にもこの施設からでないようお約束しましたし、作業に関しても族長さんが監視することで決着しているので、戦いはやめません?」

「人間がそんな都合のいいことなぞ言うものか!」

 なる程、族長さんから少しばかり話を聞いた際にもちょろっと感じたけれど、森の民を名乗る人たちは何かしらの迫害か、搾取を受けていたってことで間違いなさそうかな。

 ただ問題はそんな森の民の人たちの情報だと多分に偏見っていうノイズがぶち込まれてしまうので参考情報程度にしかならないってことなんだけど……まぁそういう差別やらをする人が権力者に存在しているっていう事前情報が得られているのは一歩前進と言っていいか。

「ここは聞き分けろ。バリス、お前も私と共に監視役として任命する、彼女らがどういう者かを知るために監視するのだ」

「しかし族長!」

「なんだったら隣に住みます?どうせなら監視役が聖地側に住んでくれるとこちらとしても大変侵入禁止エリアを把握しやすいので助かるんですけど」

「そちらの言葉に従おう。バリスも今の提案であるのなら、彼女らに不審な動きあれば即座に動けるだろう?」

「……納得はしておりません」

「今はそれでいい。それではこちらも監視するための準備がありますので、作業は初めていただいても構いませぬ」

「はい、作業員には既に設定してある敷地内から出ないように言い聞かせますので」

 ちなみにアングロサンと地球の作業員である技術屋の皆さんは、面倒事はごめんということで最初から敷地の外から出るつもりなんて毛頭存在していない。

 そもそも防疫の観点からも、大陸みたいな万能抗体を持っているわけじゃない以上新種の細菌やウイルスに警戒しているし、自分たちがこちらの世界に持ち込んでしまうことも警戒しているので、イネちゃんが勇者の力で生成したヌーリエ様の加護での除菌がなされている範囲から出ようともしないからね、更に言えば計画では常駐すらせず、防疫を徹底しながらメンテナンス作業以外での行き来はしない予定だったのでこちらとしては譲歩なんてしていないことになる。

 やっていることだって武力とかそういうので威圧して有利にことを進めているだけだし褒められたものでもないからなぁ、ココロさんやヒヒノさんならもっとうまくやれるんだろうけれど……いやでも森の民側の初動を考えるとどのみち戦闘にはなっていたかな。

「私とバリス以外の監視役は後に決めるが、今は住居作成に優れたものがここから聖地への方向を塞ぐように監視できる雨露防げる場所を作ること」

 族長さんが指示を出すと、ざわざわした声が少し聞こえてきた後に数人の森の民が出てきて作業に取り掛かり始めた。

 やっぱり他の人も困惑しているようだけど、最強の戦士らしい族長さんと脳筋っぽいバリスって呼ばれた女の人が上級戦士だったみたいだからね、どうやら戦闘回数としては少なく収められたっぽいのは不幸中の幸いというべきか。

<<おーい、もう向かわせて大丈夫かー>>

「あ、ごめんごめん。とりあえずもう大丈夫」

<<うし、それじゃあもう行っていいってよ!>>

 そこは通信切ってもよかったんだよ、トーリスさん……。

「さてと……イネちゃんも技術屋さんにあれこれ説明した上でこの世界の大地の成分やら性質を調べておかないと……あぁ族長さんからこの世界の詳しいことも聞かないとなのか、この世界では唯一大陸のことを承知してもらう必要があった人だし、こちらとしても食料と引換で情報を引き出す……引き出せればいいなぁ」

 個人的に最低限欲しい情報は、森の民には言語が通用したけれど話に出てきていた人類と魔軍にも通用するのか、文字言語があるのか、森の民だって他の種族を嫌っている以上は情報は持っているだろうしこの世界のこと、少しは分かればいいんだけど。

 とりあえずは設備を作ったり襲撃を受けたりでできなかったことをやりつつ技術屋さんの出迎えと説明が最優先か……コンパスを取り出して水平にして見てみると、どうやら機能しているようで建物の出入り口は南向きだったらしい。

 とは言ってもあくまで方角の概念は大陸や地球のものであって、この世界では東西南北ではない可能性もあるけれど、目下自分たちで運用するデータ作成にはこれで問題はないのでいいけれど、何よりも持ち込んだ道具が政情作動するかって調べるのもかなり重要なんだよね、特に戦闘用じゃない装備に関しては。

「あ、一ノ瀬さん。ゲート付近がやたら大きいですがもしかしてアグリメイトアームの運用とかも考慮にいれていますか?」

「と、異世界へようこそ。最悪想定で作っただけなんで、あまり気にしないでいいですよ。地球の重機を持ち込むにしても原住民の森の民の人たちとの関係を考えると、空から森の外に運搬するなりを考えないとですしちょっとだけ拡張して幾つかシャッターも作っておきました。それとまだ森の民の人たちの信頼を勝ち取っていない状態なので、設備の敷地内から外は絶対に出ないでくださいね」

「自分らも面倒は起こしたくありませんからね、承知してます。そのためにアンテナ鉄塔を建てる必要のないアングロサンの惑星間通信システムアンテナを持ってきたわけですからね」

「発電機に関しては防衛用に簡易フォトンジェレネーターを作っちゃったんで、その部屋にお願いします」

「了解です、室内でも重機運用できる設計みたいですし半日程度の完了を目指しますよ」

「お願いします」

「よーし、おめぇらやるぞ!」

 うーん、さすが現場の叩き上げって感じの人たちが集まってるだけあって士気が高い。

 何せ今回のこの仕事が初めてのアングロサンと地球の合同技術連携になるからね、色々と政治的な面倒は起きたらしいけれど、著しく世界の技術体系を破壊しつくしちゃうようなもの以外は技術協力する形になったらしくって、基本大陸でどんな化学反応を起こすか試してからってことで、今回の通信システムに関してもその実験の一環だからテンション高い高い。

 さて、技術者さんたちが頑張るのを横目にイネちゃんは休憩室とイネちゃんの待機部屋を上に生やして、森の民の人たちからこの世界の詳しいことをあれこれ聞かないとね。

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