第4話 密林作業と原住民
リリアと技術屋さんと一緒に装備を確認してゲートをくぐったイネちゃんは、あらかじめ聞いていたとおりの密林にへと降り立った。
<<ビーコンのシグナルは確認>>
「通信も良好、とりあえずゲート周辺なら問題ないってことかなオーバー」
<<うし、じゃあゲートを囲う感じで設置予定の設備が全部ぶち込める建物を頼む>>
「了解、ちゃちゃっとやっちゃう、アウト」
うん、オーバーとアウトは別にいらないかもしれない。
今日はたまたまトーリスさんだったからって可能性もあるけれど、少なくともそれをやらなくても問題ない……っていうかそのへんの共通認識が全くないからやってもやらなくても同じって感じ。
そんなことを思いつつも勇者の力で地面の組成とかを把握して、アングロサンと地球の設備の大きさを思い浮かべて設備基地の大まかな基礎の範囲を花崗岩での囲いを作ってから、植物を根っこから持ち上げる形で建物を生やして扉と防衛設備を幾つか勇者の力で制御する状態で生やしておく。
「うし、とりあえずこれだけやっておけば今のところは大丈夫かな……」
『うん、でも結構派手にやったからか囲まれてる』
流石に周囲の確認もせずにいきなり建造物を生やしたのだから、野生動物はともかく近隣住人にしてみれば敵対行動と取られても不思議ではない……とは言ってもそれを確認する作業のための作業が今やったことなのだから、このトラブルは必要経費として受け取っておくことにするにしても、どうにも遠巻きにこっちを包囲警戒しているだけで動く気配がない。
しかしながらこちらから先制攻撃するという選択肢が、ヌーリエ教会主導でのお仕事なため存在しない以上イネちゃんがとれる行動は声かけをするか、おびき出すために今作った建物の中に入るかのどちらかなのだけど……一応ベースキャンプ側に状況を知らせるためにも建物の中に入って警戒しつつ通信がベターか。
「動くな、既に包囲は完了している」
おっと、どうやら木の上を移動していたのがいたようで声をかけられてしまった。
イネちゃんの勇者の力だと地面に立っている相手じゃないと索敵できないってのはやっぱり結構な弱点だよなぁ、この流れなら今把握できている数の倍は待機していると考えていいかな。
「人間のように見えるが今の力はどう考えても魔軍の幹部かそれ以上に思える。そのような存在が何故我らが聖地の近くで拠を構えようとしている」
「答える義務は?」
「無いが、その場合は命は保証できない」
うん、普通ならそれは選択肢はないって意味で使われるわけだけど、正直地面に接地しているイネちゃんの場合建物を生やすだけで全力警戒してくれちゃう相手には負ける要素はあまり感じない……まぁ万が一ってことがあるから一応正確な情報と合わせて聞きたい情報を聞いてみることにしよう。
「ここが聖地の近くってことはここにあったものも把握しているんじゃないの?」
「質問はこちらがしている」
「その質問に答えるのに必要な手順すら省こうとするのは虐殺主義の種族かな?」
「貴様!?」
交渉役だっただろう男の声とは別の女性の怒りが混じった声が聞こえてきたけれど、すぐに制止されたようで。
「この世界の理から外れた魔力の塊があったことは承知している」
「その向こう、別の世界からこちらを調査するために来た人間。更に言えばこいつはこっちの知的生命体が……私の世界に行ってしまわないようにするための処置」
「嘘を……」
「今話しているのは私だ、静かにしろ。それを証明するものは何かあるか」
「何を持ってそっちが信じてくれるかがわからない以上、証明する何かっていうのも提示できない」
「……いいだろう、だが我々の聖地が近いということは真実だ。不要に踏み荒らされるわけにはいかない」
「こちらとしても殺し合いに来たわけじゃない以上、その聖地の範囲を教えてもらえると大変ありがたいんだけど」
ここで今まで以上の会話の間ができる。
あちらとしても聖地の詳しい場所を教えることになる以上慎重になるだろうし、この状況であるのならその判断をするには個人意思ではなく上なり横にお伺いを立てないといけなくなっているはずだから、一旦落ち着く流れになってくれればイネちゃんとしてはありがたいのだけれど……。
<<全く動いていないがどうした、トラブルか>>
イネちゃんの様子を監視しているトーリスさんが流石に不審に思ったようで通信を入れてくるけれど、この状態で通信機の電源をONにしていいものか……相手の技術レベルとかが一切わからない状態だと破壊される可能性ってのも考慮しておかないとだし……。
「ねぇ、仲間に連絡したいのだけど」
「ダメだ」
ですよねー、あちらとしては聖地を踏み荒らされたくないわけだし、こればっかりは後手後手か。
「長時間連絡がないってことでどういう判断するのかって、少し想像してみない?」
「その場合全員追い払うだけだ」
殺すじゃなく追い払うなのか。
「じゃあ……私も追い払うだけってことはないのかね」
「魔軍の可能性が高い以上それはできない。最も、人であっても同じだが」
とりあえずこの人たち以外にはさっきから出てる魔軍ってのと、人間もいる世界ってことでいいのかな。
「なんというか、そっちの要求だけでこっちの言葉、実際信じてないよね」
「決めるのは我々だからな」
うーん、絶対優位という立場がこの状況を固定させちゃってるわけか。
こちらからしてみればこちらで拠点設備を設営する間は銃器の使用も容認されているって条件もあるし、ヌーリエ教会的にもこんな序盤も序盤で躓きたくはないってことだよね、流石に虐殺とかそういうのはなしだとしても何かしらの手段でこちらの力を示しておく必要はあるってことだねぇ、でないとまともに対話すらできないってのは今の状況が証明しちゃってるし。
「とりあえず、さ。そっちが完全武装で包囲しているって環境が上から目線の原因でいいよね」
「何を言っている?」
「いや状況が逆転しても同じ態度とれるのかなって」
口調や語気は一切変えることなく、技術屋さんから受け取った仕込み籠手を早速活用して声が聞こえていた場所に向けてワイヤーを射出する。
「こっちの話を一切信用してくれない以上対話での交渉は不可能だと判断して、拘束させてもらうよ。特にあなたは代表みたいだからちょっとあっちの世界を見せてあげる」
「今のはなんだ!?クッ、離せ!」
案外鈍いんだなぁ、今のワイヤーにすら反応できないってことは遠距離メインの種族とかなのかもしれない。
「族長!」
「攻撃してきてもいいけど、躊躇うことなくこの人を盾にするから、よろしく」
「卑怯な……」
「集団で1人の女の子を囲んだ上で恫喝してくる人たちには卑怯とか言われたくないなぁ」
これで状況は反転。
正直人質は誰でもよかったとは思うけれど、明確な指揮能力を持っている人間を捉えた方が絶対効果的だからね、まぁ下っ端が暴走して攻撃しまくってくる可能性も少なくはなかったけれど、イネちゃんに攻撃的だった女の人ですら静かに指示を出すだけで止めてたから、指揮系統が強固なのか、この人がカリスマたっぷりってことが想像できるのでイネちゃんとしてはどちらに転んでも最悪から悪い程度になるって感じだったので実行に移しただけである。
最も、近くに居たってのが一番の理由だけどね。
「どうするつもりだ……」
「いや指揮官と目される人に直接体験させた方が楽でしょ、この状況なら場の主導権はこちらにあるわけだし、最も手っ取り早い手段を取らせて貰うだけだよ」
とは言っても身長差が結構きっついな……いやまぁお父さんたちにイネちゃんの身長でも問題なくボブお父さんくらいの身長の筋骨隆々の男性でも問題なく拘束しながら移動させる手段は叩き込まれたからそこは問題ではないのだけれど、スピードが必要な状況だから拘束維持が結構大変。
なので仕込み籠手のワイヤーも活用してささっと建物の中に入り、勇者の力で場つなぎ用の発電機を幾つか生成して起動させてから防衛システムへの配線を繋いで常時稼働状態にする。
「なんだこれは……何が起きている!?」
「うーん、それを説明するためにもさっさと歩いてね。それとも運ばれたい?」
「クッ……子供の姿に油断した」
「一応これでも成人してるんだけどなぁ……もう運ぶよ」
当て身して気を失わさせるのもちょっと考えてしまったけれど、後で時間がかかるだけでしかないし、今はケースに収めたままの状態のソードブレイカーを背中に押し付けてゲートまで誘導する。
「これが貴様のやったことだろう」
「自然発生物なんだよなぁ、早く入って」
と、そうだ通信で知らせておかないと大変だ。
通信機のスイッチをONにしたタイミングで外から火の燃える音が聞こえて来る。
<<戦闘か!>>
「いや戦闘と言えば戦闘だけど、とりあえず襲撃してきた連中の指揮官っぽい人を手っ取り早く説明するためにそっちに連れて行くからよろしく」
<<は?いやいやそれっていいのか!?>>
「なんだ……何を言っている……」
「とりあえず出迎えに月詠さんたちかアングロサンの人たちにお願いして、リリアには歓迎の準備しておいてって言っといて」
もうあっちもこっちも混乱状態な気がするけれど、とりあえずもう盛大にこの人を歓迎して簡単な説明だけ済ませてさっさとこっちに戻ってこないと……発電機も動かしはしたけどアングロサンで運用されている簡易フォトンジェネレーターで単独稼働時間はあまり長くないしね、まぁ半日は普通に持つけど。
「はぁ……初日から先行き不安だ」
<<とりあえず向かわせたが……なんというかイネちゃんが判断ミスってるんだと思うぞ?>>
トーリスさんに突っ込まれつつも指揮官を連れ帰り、盛大にリリアの手料理とかで歓迎してやった。
迎えに来た高天原やベースキャンプに待機していたアグリメイトアームにビビリまくっていたこの指揮官っぽい人はメンバーに含まれていなかったはずなのにベースキャンプでお茶を飲んでたキュミラさんに驚いたり、ミミルさんを同族だとか叫んだりで大変だったけど、イネちゃんたちが仲良く一緒に行動しているところを見て色々と察した……というか諦めた、達観したって表現の方がしっくり来るようになってから異世界へと舞い戻ったのだった。
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