シクラメン



 毎日、2枚の写真を見ている。朝目が覚めた時も、通学時も、もちろん寝る前にも。それが日課となっていた。

 あれから二週間が経とうとしている。

 俺はレポートに追われたり、特別講義を受けに行ったり、バイトもシフトを増やされてしまったりしてバタバタしていた。

 時間を見つけてはあの場所へ行くのだが、教室が閉まっていたり、授業をしていたりとなかなか彼女に会うタイミングが取れなかったのだ。

 いよいよイルミネーションの輝やきが増してきた。

 そういえば「シクラメン」って本物、見たことないな・・・。

 スマホで検索すればいくらでも画像は出てくる。でも彼女が描いているそれとは違う。あの綺麗な桃色の花はどうなっているのかな・・・。

 大学の帰り道偶然花屋を見つけ、俺は迷うことなく店に入ってみた。


 「いらっしゃいませー」


 うーん、シクラメンは確か鉢植えだったから・・・

 沢山の花バケツの合間を縫って、キョロキョロしていたら

 「どんなお花、お探しですか?」と店員さんに声をかけられた。

 「あの、シクラメンってありますか?」

 「はい、綺麗に咲いてますよ、あちらです」

 そこには白や濃いピンク、赤などがあった。

 「最近入ってきたんですが珍しい色で、青もあるんですよ」

 「そうなんですか・・・」

 「お母様にプレゼントかしら?」

 「いや、いえ・・・」

 「あら、彼女さん?」

 「いやいやいや、そうじゃなくて」

 俺は赤面し、店員さんはニコニコしている。俺は「また来ます!」とその場を去った。

 とにかく実物をみることはできた。

 彼女はキャンバスに向かう時、「シクラメン」の写真をそばに置いていた。

 見せてもらったことはあるけれど、もっと知りたくなったのだ。

 似たような桃色はあったけれど、あの色じゃない。

 そうしたらどうしようもなく、彼女のシクラメンを見たくなった。

 そしてパレットの上で念入りに絵の具を調整している彼女の横顔に会いたくなった。




 

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