撮影
彼女はすごい美人というわけではないけれど、鼻と口元が綺麗だ。
そのせいか横顔が美しい人だと、つくづく俺は思う。
瞼が広く伏し目がちな目は印象が控えめだけど、優しく微笑む表情はいつも柔らかかった。
作業の時は汚れてもよいように、オーバーサイズの黒パーカーを羽織っているとのこと。そういえば彼女の私服姿を見たことがないなと思ったが、真剣に絵筆を動かしている横顔を眺めていると、この姿の彼女がとてもしっくりとくる。
「そうね・・・撮ってもらおうかな」
彼女がこちらを見てそう言った。
「見に来てくれてるもんね、差し入れ付きで」
「やった!」
「私もね、客観的に見るために時々絵の写真を撮るの」
「出来上がっていく経過を見るのも楽しみだね」
彼女は目を伏せて、同調した。
俺はスマホを取り出し、どの角度がよいか彼女に聞いた。
「佐藤くんがいい、っていう写真を撮って」
「うし、じゃあ俺頑張る」
パシャッ。
彼女の作品が俺のスマホに保存された。
我ながら良いアングルだと思う。そして宝物を手に入れたような気持ちで一杯になり、俺はテンションが上がってしまった。
彼女がゆっくりと椅子に座ろうとした時、思わずスマホを向けていた。
「それはダメー」
「なんで?作者だよ、こんな綺麗な絵を描く・・・」
綺麗と言った時、自然と彼女の横顔が浮かんだ。
「恥ずかしいよ、しかも汚いパーカー姿で」
「筆持ってさ、ダメ?」
「うーん、じゃあ佐藤くんも一緒に」
「マジ?いいね!」
絵を挟んで右側俺、左側に彼女。
彼女は太い絵筆を手に持ち一度だけ、撮らせてくれた。
あほみたいに口を開けている俺と、鮮やかな桃色のシクラメン、画家の彼女のスリーショット。
「やー、私変!」
彼女はちょっと口を尖らせたが、そんな口元も可愛らしかった。
「次、撮るのが楽しみ〜」
「あ、次はもう私は写らないからね!」
そして彼女はパレットで絵の具の調整を始めた。
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