第12話 善人なをもてなんちゃらと。
次の日、さすがに二日続けて学校についてくるという暴挙を真白がすることはなく、安心して登校することができた。
ただ、真白がいようがいまいが僕が学校で誰にも話しかけられないことに変わりはないわけで、朝の時間もボーっとスマホをいじったり、休み時間は机に突っ伏して寝る、昼休みも自分の席で小さくなりながら真白の作ったお昼を食べる。……今日はお弁当を作ってくれた。あの天使、ほんとハイスペック。
昨日と同様、一度も口を開くことなく迎えた六時間目のホームルーム。この時間は十一月末に迫った修学旅行のグループ分けを行うことになった。大抵高校の秋の修学旅行といえば十月くらいを想像すると思うけど、うちの高校は少し遅めで、この時期になる。場所は北海道の高校とすればオーソドックスな東京・大阪・京都。……大阪、京都については行ったことがないから、行くことそのものについては楽しみなんだけど、いかんせん修学旅行という……。
ぼっちにとって修学旅行は鬼門も鬼門だ。ねずみにとっての猫、猫にとっての水くらいには鬼門だ。正直行かなくていいなら行きたくない。お金が積み立てられなかったとか、そういう経済的な理由があれば参加しなくてもいいのだけれど、その場合修学旅行期間中も学校に登校して自習していないといけないみたいだからそれはそれで嫌だ。六時間も教室で自習はさすがに耐えきれる自信がない。
お金も積み立てているので、無事? 修学旅行に参加することになっている僕は、内心ため息を五秒に一回つきながら担任の先生が話すグループ分けのルールについて説明していた。
十中八九余り者になるんだろうなあとこの後の展開を想像して、最後にもう一度深く息を吐きだす。勿論心のなかでだ。実際にため息なんてつこうものならぼっちなのに教室での注目を一瞬でも集めてしまう。
「はい、じゃあそんな感じでグループ決めてくれー」
担任の一言で教室が少し活気を帯び始める。普通の高校生にとって修学旅行は一大イベントだ。誰と同じグループになるかによってその後の高校生活が変わると言っても過言ではない……んだと思う。
友達同士でグループを作りたい、あの子・あいつとどうにかして同じグループになりたいなどなど、様々な思惑が交差する。
……まあ、何度でも言うけどぼっちの僕にそんな思惑とか大層な狙いなんてものはないので、ただただ席についたまま余り者になるのを待つ。
無駄なあがきはしない。無理に誰かに声をかけてなんか気まずい思いをさせるくらいなら、流れに身を任せていったほうがマシに違いない。親鸞だって、自分から何かをするのではなく、すべてを阿弥陀仏に任せたほうがいいという考えを持ったんだ。……昨日借りた倫理のノートにこの部分があったからというのはここだけの話だ。
とにかく、僕がすべきことは阿弥陀仏を信じること。そうすればきっと無難な結果が訪れるはず。
「……あんな可愛い子とは仲良くできるのに、修学旅行の班決めは無関心なんだね」
席についたまま微動だにしない僕に声をかけた阿弥陀仏は……人は、米里さんだった。
「北郷君は? 決まったの? グループ」
僕の横に立ち、机に手を置くような感じに顔を近づけて話す彼女。
「……いや、余ってからにしようかなあって」
僕の返事を聞いて、さすがに米里さんは表情をしかめる。垂れ目の瞳がどこか細く、そして小さい唇が鋭くとんがっている。
「あれだったら、グループ入る? って言おうと思ったのに」
昨日、人間の真白と会ってからなんとなく僕に対する当たりがきつくないかな……。さして気にもしていないからいいんだけど、それでいて声は掛けてくるから胃にはくる。
「……気を使っているのなら、無理はしなくても」
「そ、そういうわけでもないんだけどなー」
「……米里さんがよくても、他の人はどうなんだろうね」
「ほら、私の周りって結構サバサバした人多いから、そういうの気にしないと思うよ?」
……当たりきつくしたいのか優しくしたいのかはっきりしてもらいたい。心配してくれるのはありがたいけど、ありがたいんだけどね。
「早くしないと本当に余り者になっちゃうよ? 他のグループも決まり始めているし」
どこかのグループに入らないといけないことに変わりはない。あまりグダグダ言葉を並べて彼女の気をこれ以上悪くさせる必要もないだろう。一応、「気を使っている」わけでも、「他のメンバーが気にする」わけでもないことは聞いたからね。
「それなら……じゃあ、お世話になろうかな……」
ぼそっと呟いて、重い腰を上げると、僕の頭と米里さんの腕が当たってしまう。
「いてっ」
「ご、ごめんね、距離近すぎた」
「別にいいよ」
すぐに彼女は不機嫌そうだった顔色をもとの明るい雰囲気に戻し、
「あそこに集まってるから、北郷君もおいでよ」
大げさに言えばスキップに近いような歩調で僕の側から離れていった。
余り者になる前にグループに入ることができ、放課後。
そそくさと教室を出る前に、僕は昨日借りたノートを返しに米里さんのもとへ向かう。
「これ……ノート、ありがとう」
「え? あ、もう終わったの? ゆっくりでもよかったのに」
彼女は何も混ざりこんでいない純粋な笑みを描いて、僕からノートを受け取る。それと引き換えにと言わんばかりに、また別のノートを手渡される。
「はい、じゃあ次は現代文と物理基礎ね」
「……ありがとうございます。では……僕は帰りますので」
「うん、じゃあねー」
もはやノートを当たり前のように見せてくれることには何も言うまい。助かっていることは確かなのだから。
さ、今日は真白もいないし、晩ご飯の買い物をして帰るか。……今晩何にしようかな。
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