第5話

 もしかしたらあたしは、アプローチを間違えてしまったのかも知れない。

 あたしはあの日、図書館で彼のことを知らない振りをした。

「安堂だっけ?」なんて白々しく。


 彼と何気ない会話を重ねる度、虚しさが募る。

 彼は、桜井真琴と話している。だけどそれはあたしじゃない。あたしであって、あたしじゃないのだ。



 それが、ただただ……切なかった。

 切なくて、苦しくて、言葉では上手く言い表せない。


 黒く蠢く感情が、あたしの中でぐるぐると巡る。


 けして晴れることのない気持ちが、心と体を蝕み始めていた。

 


 

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