第4話

 君があたしに興味を持った。


「なんでネコ被ってるの?」

 だって……


 彼は全く覚えてないんだ。

 まぁ、そのためにあたしはうざったい髪を伸ばして読んだこともなかった本を読み始めた。


 君の記憶から欠片も残らないように……



 だけど、どんなに容姿が変わっても、あたしが彼に刻んだ傷は治りきらないだろう。

 彼が今も他人に興味を持たないことがその証拠だ。



 それでも……彼が少しずつ変わってきていること、それが私の知らない女の子によるものであることは、直接関わったこの数日間で理解できた。

 というかわかっていた。




 ひと月前、彼の目に光が灯った。

 その事に気づいたのは、この学校であたしだけだろう。


 放課後になると同時に教室から飛び出す彼の姿に心がざわついた。

 放課後に何をしているのか知りたくて知りたくてたまらなかった。だけど同時に、あたしには知る権利なんてあるはずが無いことも理解していた。


 そんなある日、急に彼は学校に来なくなった。


 胸が張り裂けるなんてあり得ないと思っていたけど、その表現はスッと心に落とし込めるものだった。

 不安で不安で潰れそうな心を騙し続ける日々。その一方で、純粋に会いたいという気持ちが膨れ上がっていった。

 1週間の休みを経て彼は登校を再開した。


 久しぶりに見た彼は少しスッキリしたような表情を浮かべていた。

 1週間も休んでいたというのに、彼に声をかけに行くクラスメイトはあまりいなかった。


 たまに垣間見える憂いのような何かを含む陰りが、彼を大人っぽく見せた。

 彼の横顔を盗み見る回数が増えていく日々。そんなある日、彼と急接近するチャンスが到来した。



 図書館での千載一遇のチャンスを逃さないよう私は彼を隣に座らせ、無理やり勉強会の約束をさせた。


 彼は私を「恐い」と言った。


 その瞬間、あたしの心は一瞬で折れてしまった。

 それでも次の瞬間にはあたしはなんとか笑顔を貼り付けることができた。

 もしかしたら一瞬の陰りが彼にバレているかもしれない。その可能性は極めて低いけどね。

 彼は鈍いから……


 だからあたしは今も悩んでいる。


 彼に打ち明けるか、騙し続けるかを……

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