第3話

 テスト初日。

 今日は副教科はなく国語、数学、英語といったなかなか重たい内容だ。午前中で終わるため給食は出ない。

 今日はラーメンでも食べて家でゆっくり勉強しようかな。



 教室に入るとしっかりと仮面を被った桜井さんが教科書を読んでいた。

 僕らの席は遠いので基本的に会話どころか目も合うことはない。

 チラリと盗み見て自分の席についた。




 最終教科の英語が終わると教室には安堵や後悔のため息が溢れる。

 休憩を挟むとは言っても、数時間も集中して何かをやれば疲れてしまうものだ。なにか甘いものが食べたくなってくる。



 ホームルームを終え、放課後になる。

 今日のテストの出来や明日のテストの話をしているクラスメイトを尻目に僕は1人で教室を出た。



 校門を出てラーメン屋へと向かって歩き始めると、声をかけられた。



「ちょっと待ってよー。あたしを置いてどこ行くのさ?」

 いつから僕らはセットになったのだろうか?

「ラーメン食べて帰ろうと思ってたんだけど……」

「なんでよ! テスト終わるまで付き合ってくれるんじゃないの?」

 声がでかいよ桜井さん。子供じゃないんだから……

「テストまでって言ってたから昨日までかと思ってたよ。わかったからちょっと落ち着いて。でも明日のテストの教科書なんて持ってきてないよ」

 僕の鞄には今日の3教科の教科書しか入っていない。

「大丈夫大丈夫。あたしのあるから。なんならアンドゥーの家まで取り行く? 家で勉強しちゃう?」

 何言ってんだこの人……

「来なくていいから。お昼食べたら図書館に行こっか」

「照れちゃってー。かわいいやつめー」

 横腹を小突いてくるので変な声が漏れてしまった。

「ちょっとやめてよ。なんで女子はそれやるのさ?」

 流行ってんのそれ?

「ちょっとー他の誰にされたのよー? 妬いちゃうなー」

 さらに小突いてくる。やめる気はなさそうだ。

「誰でもいいでしょ。やめなさい! 子供じゃないんだから」

 まったくこの子は……

「まだ私たち子供でしょ。まぁ今日のところはやめてあげよう。ありがたく思え!」

 なんでだよ……

「はいはい。お昼、ラーメンでいいの? 嫌ならどっかで1人で食べてきてね」

 今日はラーメン食べようと朝から決めてたからね。

「アンドゥーなんかあたしに冷たくない? ラーメン好きだからいいけどさー。どこ行く?」

 コロコロと表情が切り替わる彼女。学校では無表情な彼女が僕の前では仮面をはずしている。悔しいけど、それがちょっとだけ嬉しく思えてしまう僕がいる。


「そういえばなんで学校じゃ仮面つけてんの?」

 ふと思ったことを聞いてみた。

「ヒ・ミ・ツ。気になっちゃう? もしかしてあっちのあたしの方がいいの?」

 はぐらかされてしまった。

「いや、今の方が好きかな」

 素直にこぼれた言葉だが、急に恥ずかしくなってしまう。

「へーあたしのこと好きなんだー嬉しいなー照れちゃうなー」

 ニヤニヤとこちらを見てくる。

「人間としてね! 異性としてではないから」

 なんか熱い。顔赤くなってないかな……

「まーあたしはどっちでもいいけどねー」

 彼女の方を見ると意地悪な笑みを浮かべていた。

 この笑顔も初めて見た時からずいぶんと違う印象に変わってきた。それはきっと受け取るこちらの変化なのだろう。


 図書館で偶然会ったあの日とは違うのだ。

 僕は彼女のことを知ってしまった。そして、少しずつ惹かれ始めている。


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