第2話
翌日。
桜井さんからラインが届いた。
『おはよう!
今日は学校から直接図書館いこうよ!』
考えてみると女子と連絡を取るなんて初めてだ。
[彼女]とは毎日会っていたが、[彼女]はスマホを持っていなかった。病院から出ることのない[彼女]にとってスマホなんて必要ないものだったのだ。
僕は握っていたスマホを操作しながらそんなことを思った。
手短に返信を済ませ僕は自室を出て朝食を取りにリビングへと向かった。
学校に着き、いつもと同じ景色が流れ始める。
教室。教師。時間割。クラスメイト。
僕の興味の外では様々な変化が起きているのだろう。しかしその変化も、認識できなければモノクロの世界にすら思える時がある。
放課後。
変わらぬ景色が色づき始める。
校門を出たところで声をかけられた。
「よっ! アンドゥー」
ニコっと笑いながら手を上げる桜井さんがいた。僕を待っていたのだろう。
「ネコ被んなくていいの? まだ校門だよ?」
彼女は学校では文学少女で通っている。
「いいのいいの。どうせいつか剥がれる仮面だし。そんなことよりアンドゥー、ラインの返信素っ気なさ過ぎでしょ」
素顔がバレることは彼女にとって些末な問題のようだ。
「そう? あまり得意じゃないんだよそういうの。正直ちょっと面倒かも」
ちょっと失礼だったかな。
「おいおいアンドゥー正気かよ?」
ハリウッド映画のワンシーンのように大袈裟に両手を広げて話を始めた。
「こんなかわいい子と連絡できるなんて幸せなんだよ?」
どうやら本気で言っているようだ。
「それ自分で言うかね?」
彼女に習い僕も大袈裟に肩を落としてみせた。
「いいねーアンドゥー♪ ノリノリじゃん」
彼女といるとなんだか自分のリズムが乱されてしまう。僕じゃない僕がチラチラと顔を覗かせる。
「君っておもしろいね」
「そう? そういうアンドゥーはもっと暗くなかった?」
思ったことを口にするサバサバした彼女は、その口調も相まって男友達のように気軽に接することができた。
だけどきっと、昔の僕ではこうはいかなかっただろう。[彼女]との日々が僕を成長させたのだ。
「いや、誤解じゃないと思うよ。少し前に僕は変わったんだ」
「恋か!?」
彼女は目を輝かせ聞いてきた。
追求の手を緩めない彼女を適当にはぐらかしながら僕らは歩みを進めた。
この日から僕らは毎日放課後、一緒に図書館に向かうようになった。
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