Ep.

 病室の中は、まるで世界から切り離されたように静かだった。


 あの日、ネット上に挙げられたの動画によって、私たちの学校は一時休校を余儀なくされた。


 一つは、ミヒロによって撮られた、私たちの逢瀬。


 もう一つは、ユウナが隠し持っていた、の事件の決定的な証拠。

 ……ご丁寧にも、ミヒロの存在だけを抜き出した音声ファイル。


 あるだろう、と思っていた。それこそが私の復讐のゴールになるだろうと。きっと、ユウナはもっと賢い使い方を考えていたのだろうけれど。

 けれど、こんな終わり方こそ私たちにはふさわしい。何も残らない、狂気の果ての破滅。それこそが、私の愛した少女たちには相応しい。


 どこまでも白い病室の中で、不意にあの子が身じろぎをする。静かに目を開く親友の姿に、しかし私の心は意外なほどに静かだった。


「アカリ、人払いをお願い。」


 こくり、と、そばに控えていた傀儡が頷く。彼女の足音が、病室の外へと消えていくことを確認して、私は彼女に声をかけた。


「おはよう」


 どこかぼんやりと、彼女の瞳が私をとらえる。かすかに唇を動かした彼女の、その喉の奥から、かすれた声がかすかに響く。少しして、彼女の瞳から流れ落ちる涙を、私は指でそっとぬぐうと。


 静かに彼女に口づける。決して逃がさぬように、甘い毒を漂わせながら。


 ああ、魔道の味はなんと甘美。もはや狂気のない世界など。私に愛せはしない。

 だからお願い。ともに狂いましょう。あなたの為に堕ちていった私を、どうか愛してください。


 ねぇ、世界の誰より美しい、あなた。

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不和の果実は微笑まない 加湿器 @the_TFM-siva

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