Ep.
病室の中は、まるで世界から切り離されたように静かだった。
あの日、ネット上に挙げられた二本の動画によって、私たちの学校は一時休校を余儀なくされた。
一つは、ミヒロによって撮られた、私たちの逢瀬。
もう一つは、ユウナが隠し持っていた、あの子の事件の決定的な証拠。
……ご丁寧にも、ミヒロの存在だけを抜き出した音声ファイル。
あるだろう、と思っていた。それこそが私の復讐のゴールになるだろうと。きっと、ユウナはもっと賢い使い方を考えていたのだろうけれど。
けれど、こんな終わり方こそ私たちにはふさわしい。何も残らない、狂気の果ての破滅。それこそが、私の愛した少女たちには相応しい。
どこまでも白い病室の中で、不意にあの子が身じろぎをする。静かに目を開く親友の姿に、しかし私の心は意外なほどに静かだった。
「アカリ、人払いをお願い。」
こくり、と、そばに控えていた傀儡が頷く。彼女の足音が、病室の外へと消えていくことを確認して、私は彼女に声をかけた。
「おはよう」
どこかぼんやりと、彼女の瞳が私をとらえる。かすかに唇を動かした彼女の、その喉の奥から、かすれた声がかすかに響く。少しして、彼女の瞳から流れ落ちる涙を、私は指でそっとぬぐうと。
静かに彼女に口づける。決して逃がさぬように、甘い毒を漂わせながら。
ああ、魔道の味はなんと甘美。もはや狂気のない世界など。私に愛せはしない。
だからお願い。ともに狂いましょう。あなたの為に堕ちていった私を、どうか愛してください。
ねぇ、世界の誰より美しい、あなた。
不和の果実は微笑まない 加湿器 @the_TFM-siva
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます