エピローグFINAL ネタミライセンス
歩美がリビングに来たことで、三人で朝食をとることになった。
そして朝食を食べ終えたあと、ホワイトデビルは小さな口を開いてしゃべる。
「そういや、ネタミライセンスの意味言うの、忘れていたよな?」
「ネタミライセンス?」
小首をかしげる歩美。
「歩美には、まだ言っていなかったよね」いや、言ってたような気もするが、覚えようとしたこと以外はすぐ忘れるのが歩美だ。そのまま話そう。「左助が『試験』中にヒントとして、ネタミライセンスって言ったんだ。ボクはそのことをネタと未来、そして
「へー」と興味なさそうに、してしまった歩美。ま、これはよくあることだ。
「それでホワイトデビル。お前、ネタミライセンスの意味知っているんだよな? あれは複数の解釈があるから、正解なんてないと思っていたけど」
「だから、お前が『
ネタミライセンスは確かに複数の解釈があって、お前の言っていたネタ、未来、センスに分けるやり方は事件解決においては正解だ。右助はそう言っていたな」
「事件解決においては正解?」
「そうだ。事件解決においては正解。だけどな、ネタミライセンスという『試験』は――いや、ネタミライセンスという『事件』は本当はどうでもいいんだ。ネタミライセンスのタイトルは、どうしようもなくどうにもならない理由だ」
「その理由ってなんだ?」
「妬み、
イマイチ理解が及ばないが、気になったのはやはりネタミライセンス――そのライセンスの部分、嘘の技術の意味だ。
「嘘の技術?」
「嘘の技術。つっても、お前が今考えてそうな、嘘の技術という意味ではないな。
まるで嘘のように思える技術ってことだ。今回の事件は」
「事件? 『試験』じゃなく?」
「事件だ、あれは。どうしようもなく、どうしようもならない事件だ。お前らが体験したあの出来事は間違いなく本物だ。
ただ、終わっているんだよ、有原小島ってのは」
「有原小島が終わっている? 確かに、あの場所はいびつで、終わっているようには感じたけど――」
「比喩じゃなく、そのままの意味だ。あの島は、お前らが『試験』をしているときに、"消えた"」
「き、消えた……?」
「そうだ。『試験』中に、消えたという情報を他の人間から得た。これは確かな情報だ。だから、お前らとオレが行った島は有原小島じゃなくて、別の島だ。それは間違いない。
問題はオレらが思っていた有原小島はどの島だったって話だ。
机上論になりかねないが、憶測で言えば、有原小島の近くにある島だろう。これは推理じゃなくて、状況証拠だ。理由を言うなら、有原小島が消えたあと、周辺の島々まで消えた。だから、近くにある島に、オレらは行ったってことになる」
「そう……か。でも、有原小島と別の島だったからと言って、別に問題はなくないか? 有原小島で行われていようが、行われていなかろうが、関係ないんじゃないか?」
「確かに、お前にとっては関係ない。ただし、オレらにとっては関係がある。あいつら、『有原財団』は交渉のテーブルを消したんだ」
「交渉のテーブルを消した……、すると、どうなるんだ?」
「簡単に言えばな、これは全ての『裏』の集団を敵に回したんだよ。『裏』において交渉のテーブルを完全にかき消すのは、相手と敵対宣言するときだけだ」
「なんでそんなことする必要があるんだよ? 敵を作るだけって相当馬鹿だと、凡人のボクは思うけど」
「ようするにな、回帰。『有原財団』は、各国すべてを敵に回しても、勝てるほどの戦力を手に入れちまったんだよ」
「――!?」
「これから世界各国と『有原財団』による戦争が起こる可能性がある。その可能性が十分にあるってことだ。第二次世界大戦での死者の数が、ちっぽけに見えてしまうほど、多くの人間が死ぬ。それほどの戦争が起こせる。だからオレは、これからそれを中断させるために忙しくなるのさ、キャハハ!」
最悪な人間が、戦争を中断。笑えるな。
いや、笑えない。そんな戦争が起こればボクは間違いなく死ぬ。どうにかしないといけない。
「お前さ、一応聞くが、『
「仇をとるより救出だよ。涼は助けなくちゃいけない。脳だけを助けるなんて、馬鹿馬鹿しいけど、ボクは涼をなんとかする。それだけは、絶対だ」
壊れていたとしても、いつか絶対に元通りにさせる。ボクはそれを、歩美を治すときから決めている。それによって例えすべての人間を敵にしても、ボクは歩美の隣にいて、絶対に助ける。涼だって、同じだ。
「意気込み十分だな――その目は。
んじゃ、あとは特にないから退散するかな。アリーヴェデルチだ、回帰……と歩美」
「じゃあね、ホワイトデビル。今日も最悪を振り回せよ」
「バイバイ、ホワイトちゃん。また遊ぼ!」
ホワイトデビルは窓を開けて去っていく。こういうところは律儀だよな(玄関からは出ないが)。まったく、あいつが最悪な人間というのは、本当かどうか怪しくなってしまう。過去に少しばかりやらかしただけで、実のところホワイトデビルは最悪な人間じゃないのかもしれない……とか、思ってしまうが、それはやはり、今、今のホワイトデビルだからだろう。昔の印象は最悪だった。それがマシになったのは、仲がよくなってきたからに他ならないと思う。
正常バイアス――と言えば、いいだろうか。ボクはホワイトデビルが最悪だとは思えなくなってきている。それでも評判は今も最悪な人間で通るのだから、一般的に見れば最悪なのだろう。ま、それは人それぞれだ。
ボクの隣に呑気に椅子に座っている歩美も、人によっては非難される存在かもしれないが、ボクは非難することはないだろう。たとえ、未来が雁字搦めにされていても、それはボクの問題だから、関係ない。
「また、来るかな、ホワイトちゃん」
「来るさ。また、必ずな」
根拠なき自信。それはしかし、特段間違っていないのだろう。ボクは因果から外れかかっている存在だから、その同類に引かれ合う。それは経験則以上の何かだ。
ボクはあの島で、様々な体験をした。異常なこと、異常なこと、異常なこと、どれもこれもが異常で逸脱しているかに見えた技術。そして、終わっている人間。因果から外れているかのような存在。
今回のあの島での出来事はまったく、どうしようもなく、どうにもならない。
ネタミライセンス――妬みの重なり、ネタの一つ一つが異常で、嘘のつかない人間、しかし嘘だらけの技術。
本当に、どうにもならない事件だったことは間違いない。
ネタミライセンス ザ・ディル(The dill) @thedill
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