二十五話 真相


 暗く、陰鬱さを醸し出すような部屋。

 巨大なガラス管に異様な物――人の脳が入っていることに、初めは誰もが驚くだろう。その場所に、ボクは連れてこられ、右助は今回の『試験』のネタバラシをし始めた。


「まず、君たち四人を全員集め、『城』までついてきてもらう。そして、『天才プログラマー』と『ハイスクールの天才』を僕の方に、能登さんと『縛絞終ロックロックエンド』さんには左助が相手をしてもらった。

 二人――この場合は『天才プログラマー』たちのほうですね。彼らにはあらかじめ、有原財団で可能な範囲ならば、願いを一つだけ叶えるということを話していました。その代わり、見返りとしてこの島で『遊び』をするということを、話していた。そして、『縛絞終ロックロックエンド』さんとは違う『休憩の間』で話し合ったとき、『試験』のことを伝えた。あと、『試験』が長期化することを考えて、一人一人の部屋を提供しましたが、結局それは関係ありませんでしたね。

 ここまでで知りたいこととか、詳しく知りたいこととかありますか、『縛絞終ロックロックエンド』さん?」


「いや、ないですよ」


「では続きを話しますね。このあと、僕たちとあなた方は別々に移動しました。そのあと、時間が多少経ち、お昼時となったので、四人を呼び出しました。そして来てくれました。ああ、どうでもいいかもしれないんですが、あのときの料理は全部機械がイチから作っているんですよ。それでも結構おいしいので、現代の発展は目覚ましいですよね、『縛絞終ロックロックエンド』さん?」


「……そうですね」


 どれだけ戯言を並べるのだろう。こちらは涼が殺されたというのに。向こうはまるで反省している色もない。まあ、今までの行動を考えればそれは当たり前、か。


「……ああ、すみません。こういう話は嫌いなほうですか。まあそういう人もいますよね。

 話を戻しましょう。

 昼食を終えた後、あなた方四人は紆余曲折は多少ありましたが、メインコンピュータのあるビルまで来た。

 これが、両助兄さんの考えていた幾通りのプランの中で、すべてすり抜けたものだった。いや、正確にはメインコンピュータの場所には来る可能性は考慮していましたが、まさかそこに行って『試験』の内容を知ろうなどということは両助兄さんも考えていなかった――」


「右助さん?」ボクは言う。「『試験』の――『事件』のシナリオを考えていたのって、両助さんなんですか?」


 ボクはそこに疑問を感じていた。

 確かに、両助が考えたことを右助に話せるならば、両助が『試験』を――事件を起こすプランを考えていてもおかしくはない。けれど、偏見が入ってしまう。それは、両助が脳しかないから。考える脳もない、ではなく、考える脳しかない。それは、言ってみれば、酷い存在だ。障がい者どころの話ではない。脳だけの存在など、人として見てもらえるのか、ボクは判断しかねる。脳なんて、人間以外にも、動物ならほとんど例外なくあるだろう。だから、脳だけの存在を人間と呼べるのか――


「両助兄さんは全ての『事件』のシナリオを考えている。そして『縛絞終ロックロックエンド』さん、あなたの考えていることに首を突っ込むのなら、両助は人間だ。というか、もともと五体満足の人間だ」


 考えていることを読まれるのは、なんだか気持ちが悪い。

 それはそれとして、両助はもともと五体満足だった? ということは、悲劇な事故でも起きて、命が助からないから脳しか取り出さなかったのか? それで今も生かされているのか?


「両助兄さんはですね、五体満足で産まれてきたんですよ。でも五歳になったときに、異常な才能を発揮したことを感知して、父さんの命令によって脳だけにされた」


「……は?」


「脳だけにされた理由は簡単ですよ。両助兄さんは相手の魂を読めるんです。だから父さんはそれが気味悪くて、だから父さんは両助兄さんの手足を消し、胴体を消し、首をを消し、皮膚を消して、脳のみの存在とした。気味悪いと思っているのに、両助兄さんを生かしてくれた父さんは素敵ですね。そして、両助兄さんは脳のみの存在として、今も遠くから父さんは両助兄さんを利用しているんだ。両助兄さんは人間という存在として死んでもなお、脳として生きている。死にながらにして、人の魂を読むことが可能。故に、付いた『忌み名』が『死魂ソウルデッド』。

 両助兄さんは、人として死んだけど、脳として生き残って、魂を読み取ることができる。ちなみにですね、魂を読み取った内容を僕に送ってくれるのは有原財団のみでしか扱っていない機械で全部やってくれます。これを使えば、僕だけではなく、『縛絞終ロックロックエンド』さん、あなたにも魂を読み取った内容が聞こえてくるんですよ。まあ、父さんに他の人に渡すなと言われているので、渡すことは不可能ですが」


「……質問だ。お前ら三人は三つ子なのか?」


「そうですよ」


「…………」 


 この島が終わっている理由。それはこの兄弟に生命を与えてしまった、父親に問題があるのだと、このとき思った。

 そうじゃなければ、おかしい。兄弟が、同じ五歳のときに、バラバラにされて脳のみの存在にされたということを知っているのに、そしてそれを行ったのが父親にもかかわらず、右助は平然と両助のことを語っている。むしろ、喜々として笑うようにして語っている。なぜなのか? そんなの、環境がおかしかったっからに違いない。そして、一番の影響を与えたのが、有原兄弟の父親なのだろう。

 この島はおかしい。その原因はこの三人兄弟のせい。そしてこの三人兄弟がおかしいのは、父親のせい。

 まさに、人間は災厄だ。悪は悪を作りだす。最悪は最悪を作りだす。どれほど、罪深いのだろう、人間という最低種族は。


「何も質問がないなら、話を戻しますよ。

 メインコンピュータルームのあるビルには、『試験』のシナリオのデータが存在していて、両助兄さんがもしもシナリオの一部を忘れたときの、スペアとして用意していたのですが、まあ、あの場面で『天才プログラマー』がデータを回収すると言われれば、データを破壊するしかありませんでした。だからデータをすべて消去する予定だった。ここまでは両助兄さんのシナリオ通りでした。

 ですが、『天才プログラマー』は言うじゃないですか『データを消しても、データは復元できる』と。だから、両助兄さんに相談したんですよ。そうしたら、ビルを爆破させればいい。確かにその通りだと思い、ビルを爆破した。ここまでで何か質問は?」


「ありますよ。ビルを爆破したと言いましたが、どうしてそんな簡単にビルを破壊できる準備ができたんですか? 猶予はものの数分もない事態だったでしょう? それにもかかわらず、あのとき十秒もかからず爆破されたのは、いくらなんでも無茶苦茶すぎないですか? いくらこの島とはいえ、いきなり爆破物をあのビルに持ってこさせるのは不可能じゃないんですか?」


「確かにそうです。しかし、もともと爆破する可能性はあったんですよね、あの場所は。何せ、あの場所には『奴隷』がいるんですよ。というか、その場所しか『奴隷』はいなかったんですけどね。いや、まあセバスチャンという例外はありますが」


 やはりセバスチャンは『奴隷』だったらしい。だったら、あのような惨殺死体にしたのもうなずける。『有原』と深い関係でなければ、あのようにするのはやはり心が痛まないらしい。


「僕は両助兄さんの指示に従って、ビルを爆破することを実行した。弊害として、『試験』のシナリオのデータは完全になくなってしまいましたが、もともと補助程度の予定だったので、問題はなかった。

 それと同時に、僕たちは思ったわけです。『天才プログラマー』の才能はこの島でも活かせる。そして何より、両助兄さんの考えの上をいった。ならばすぐにでも合格させたいと僕たちは思いました。しかしながら、一人だけ合格させるプランなど、今まで一度も使ってこなかった。それは『試験』というものが『試験』を受けている人間全てに適用され、かつ、全員に才能があると判断できるまでは『試験』が合格になることは誰一人としてあり得ないものだったからです。ですから、そのために、『事件を解決する』イコール『試験の合格』――というルールを追加するんです。このルールは、すべての人を合格するためにあるものですね。ですが、すべての人を合格させるといっても脱落者――犠牲者を出させます。『有原』のチカラを使って願いを叶えさせるのだから、当然の対価でしょう」


「つまり、そのせいで――脱落者を出させるルールで涼は死んだのか?」


「ええ、そうです。他の方――能登さんと回帰さんに至っては、『奴隷』を間接的に――なるがままに無意識的に『縛絞終ロックロックエンド』の才能で殺していたのでしょう。しかしそれが才能かと言えば微妙ですし、それに、二人で『縛絞終ロックロックエンド』だという確証が取れていないですからね」


「……ボクと歩美二人で『縛絞終ロックロックエンド』になりえるものだって、わかってたんだな?」


「あなた方が――いえ、回帰さんがいつも二人で『縛絞終ロックロックエンド』になると言っているらしいですから、あくまでそう言っているだけですよ。でも、回帰さん、あなたがそれを証明することは不可能です。

 有原のチカラを使っても、あなたの過去をすべて知ることはできませんでした。そしてあなたの因果の外れた才能――能力染みたその力が、能登さんといることでしか発動できないとは思いにくい。だから能登さんがいなくてもあなたの能力は簡単に使えると僕は思うんですよ」


「…………」


 ボクは答えない。だって、ボクにだって、そんなことはなんとなくしかわかっていないから。

 ボクが近くにいると人は死ぬ。ただ、それは歩美のあの過去の事件があったからだ。あれがなければ、ボクと歩美ではない何かの最悪物語は始まることはなかった。そしてボクの最悪な人殺しのようなチカラに似た意味不明な因果を外れるような能力はなかっただろう。だから、これは――『縛絞終ロックロックエンド』というものは、ボクだけのものではなく二人だけのもの。ボクはそう思っているのだけど、これを人に伝えるのには、難しい。

 例えば、二人のみでしかテレパシーの通じない人間と同じように。

 例えば、二人のみにしか見えない幽霊を他者に信じさせるように。

 ボクと歩美何かで一つの因果を外すもの――『縛絞終ロックロックエンド』が存在することを示すことは、難しい。


「――すいません、失礼なことを言いましたね、さっきの発言、忘れてください」


「はい、綺麗さっぱり忘れますよ」


「では……どこまで話しましたっけ? そうそう、ビルを爆破したところでしたね。

 あのあと、僕は強制的に『殺人事件』を起こすために、『命令』した。それは先ほども言った通り、早めに『天才プログラマー』を合格にしたかったからですね。そうすれば、僕ら『有原財団』の一員になると先に言っていたので、今回はそれゆえに、進展を早めました。そしてあなた方がボウリング会場に行ったときに、その場所にセバスチャンを向かわせました。セバスチャンにはあらかじめ暗視ゴーグルとアサルトライフルを渡しておきました。そしてセバスチャン――『奴隷』に、ボウリング場の明かりをすべて撃ち落とせと『命令』しました。『奴隷』は『首輪』によって命令には逆らえません」


「――首輪なんてしてたのか、セバスチャンは?」


 もしかしたら、狐面の印象が見えなくて、首輪なんていう、本来は人間つけるものではない物がつけてあったのだろうか?

 そんな疑問が、頭の中で渦巻く。


「いいえ、首輪はしてませんが、相手の思考能力を落とさず、僕の指示を裏切らないように作ってあるものが、『有原財団』にはあるんです。かなり小型化されていて裸眼では見えないでしょう。顕微鏡などを使えば見えると思いますが。

 まあ、『奴隷』を拘束できるので便宜上、『首輪』と呼んでいるだけですね。閑話休題、ですね。

 僕の指示通りすべての照明を落としてくれたセバスチャンは、さらに僕の指示に従い、『ハイスクールの天才』を追います。そしてアサルトライフルを使って涼を殺します」


「待ってくれ、涼はそれ如きでは死なない。涼の場所が分かっていたとしても、アサルトライフルじゃ涼は殺せないはずだ」


「どういうことです?」


 右助は目を細めた。


「アサルトライフルの連射なら、涼は避けれるはずです。過去、相手がアサルトライフルに対して涼は素手だったそうですが、涼にとってアサルトライフルの連射程度なら、感覚を鋭敏にすればよけきれると言っていたらしいです。だから、アサルトライフルでは殺せないと思います」


 ボクは涼が生きていて、かつ近所同士の関係ではなくなったとき、それでも涼のことを『最悪な人間ホワイトデビル』から聞いていた。そして『最悪な人間ホワイトデビル』は涼がアサルトライフルの連射された銃弾をかわしきっていたことを聞いていた。

 だから、涼はアサルトライフル如きでは死なないはずなのだ。


「もしかして、あれかもしれません」


「あれ、ですか?」


 あれとは一体何なんだ?


「僕が渡したアサルトライフル、あれは『有原財団』の作ったアサルトライフルです。あのアサルトライフルの特徴は、狙ったものを逃がさない――つまり、追いかけてくるんですよね、銃弾が。目標ターゲットから視界を外れない限り、銃弾は曲がって曲がって直線で加速して相手を襲うのです。まあ、木とかに当たってしまうこともよくありますが、追尾性能は結構高いです。だから、そのせいでしょう。少しばかり優良なものを『有原財団』は扱っていたので、その差で『ハイスクールの天才』は死んでしまったのでしょう」


 もはや、理論的に可能なことなのかどうかも判然しかねる品物だよ、それは。そう言いたくもなったが、それ以外も大概なので何も突っ込まないと決めた。


「また、本筋から外れましたね。戻します。

 まあ、何はあれど、『ハイスクールの天才』は殺されました。そのあと、僕と左助はその場に行って、まず義手をつけました。そのあと、縄を使って首を絞めてあげました。あのときの『奴隷』の表情は滑稽でしたね。吉川線ができるまで、ゆっくりといたぶってから、気絶させました。そして、気絶したのを確認してから、セバスチャンを射殺しました。とりあえず、死んでいるという感覚をしっかり認識できるまで、銃をぶっ放っときましたね。『ハイスクールの天才』ももしかしたら生きていると思って何度か銃弾を撃ち込みましたね」


 ……それが、あの何度も何度も撃たれた銃弾のあと、か。

 金持ちの感覚、というか、これはこの兄弟三人に限ったことだな。……あまりにも逸脱しすぎているじゃないか。さっきも思っていたけれど、彼らは常識を知らな過ぎている。程度を知らない。その上『有原財団』の子供たち。手に付けられない。

 どうしようもなく、どうにもならない。間違いなく、最悪だ。

 右助は特に悪びれもなく、話を続ける。


「完全に殺し切ったと思われたあと、両助兄さんに言われた通り、その場を去った。そして、『城』に戻――」


「右助さん。肝心な部分が抜けてますよ。

 二人で一つの継ぎ接ぎ死体。あれは、一体どうやって作り上げたんですか?」


 そこが気になっていた。『奴隷』はメインコンピュータのあるビルにいた人とセバスチャンしかいない。ボクは事件解決のために話したのは、継ぎ接ぎ死体を作ったのは多くの『奴隷』がいればできるものだと思っていたけど、右助の話から、それは違う。

 なら、その継ぎ接ぎ死体は一体誰が作り上げたというのだろう。


「機械ですよ」


「機械?」


「継ぎ接ぎ死体を作り上げることのみに特化させた機械を作って、それを死んでいる二人に使えばいい」


 いや、いやいや、


「それだったら、機械が全自動であの死体を作り上げたのか?」


「そうです」


「その機械はどうやって運んだんだ?」


「運んでません。勝手に遺体のそばまで来るようになってます」


「じゃ、じゃあ、残りの遺体はどこに?」


「その機械が勝手に海に捨てましたよ」


「せめて、涼の死体は捨てないでくれよ。たとえ半身と頭だとしても」


「半身は捨てましたが、頭は――脳は取り残してありますよ。あれはいい素材です。今はホルマリン漬けで取っておいているんですが、明日にはホルマリン状態から移行して、両助兄さんと同じ液体と同等のものに入れて、いろいろと脳を調べ上げる予定です。だから『ハイスクールの天才』はまだ生きているんですよね。よかったですね、『縛絞終ロックロックエンド』さん。紅涼さんが実は生きていて」


 ボクは思う。これほどまでに、常識とかけ離れてしまった人間は、環境の問題なのだろうけど、常識とはかけ離れた環境で育ったのだろうけど、それとは別に罰を与えるべきだと思った。罪と罰を、与えるべきだ。水没によって死んでも欲しいし、焼き焦がされて死ぬのもありだろう。こんな人間、死なせたほうがましではないのか。

 久しぶりに恨む、怨む。意識して『縛絞終ロックロックエンド』を解放する。

 こいつらはもう終わっているのだ。因果から外れているのだ。地球という、宇宙という因果から外れているのだ。ならば、ならば、ならば、ボクが因果から完全なる解放をしてやろう。

 この、無意識ながらに異常な行為を繰り返してきた人間を、神の代わりに『縛絞終ロックロックエンド』が裁こうじゃないか。


 久しぶりに、キレたよ、『縛絞終ロックロックエンド』は。

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