二十三話 有原両助


 ボクと右助と左助は『城』の中を移動。ある扉を開く。その先は『休憩の間』。

 と言っても初めて入る『休憩の間』だけど。

 そして、ここに来たということは。


「カラクリがまたある」


 と、独り言。和室のような部屋になったり、あるいは地下室になる部屋が『休憩の間』。それは、理論的には全然可能の範疇のもの――つまり、カラクリ部屋。それが『休憩の間』の実態。休憩の合間に変わる部屋。全然休憩のできない部屋だ。


「そうだぜ人折。この先は――最高の部屋だぜ!」


 最高の部屋。左助がそういうと、どう考えても最悪な部屋としか考えられなくなってしまう。


「僕はですね回帰さん――いえ、もう回帰などという言葉で呼ぶのはやめましょうか。

 『縛絞終ロックロックエンド』さん。あなたほどに人間を壊せる人が、なぜ凡人ぶっているのか、些か不思議なんです。

 どうして才能を隠すんですか? 隠さなければ、殺したい人を勝手に殺せるはずでしょう?」


 『縛絞終ロックロックエンド』という言葉に多少いらついてしまう。

 ボクは右助の疑問に答えるのは癪なので、かわりにひねくれてみる。


「それでも『最悪な人間ホワイトデビル』は殺せない」


「いや、『最悪な人間ホワイトデビル』は論外ですよ、この場合。あれは誰でも殺せない存在でしょう。唯一命が果てるのは、寿命だけで、殺すことは不可能でしょう」


「ですよね。ボクもそう思います。でもまあ、あいつがいなかったら、ボクはあなたがたを殺していたのかもしれません」


「面白いことを言いますね、『縛絞終ロックロックエンド』さん。『最悪な人間ホワイトデビル』がいなければ、僕たちを殺していたなら、『最悪な人間ホワイトデビル』はその時点で最悪な人間じゃないことになる」


 『最悪な人間ホワイトデビル』は――最悪。そのことに変わりはない。でも別に、人が思うほど――他人が思うほどに最悪ではない。


「『最悪な人間ホワイトデビル』は、皆さんが思うほど、人殺しが好きじゃないですよ。むしろ、人殺しが嫌いという可能性まである」


「へえ、そうなんですか。では、『最悪な人間ホワイトデビル』は人殺しが好きじゃないなら、一万人以上が『最悪な人間ホワイトデビル』の手によって亡くなったあの事件――どう説明をつけるんですか?」


「あれは、仕方なかったからと本人は言ってました。真偽は分かりませんけど」


「なるほどな。っと、ちょっと待ってください」


 話しているうちに、『休憩の間』の奥にあるスイッチの場所に来たらしい。右助の指の先を見ると、確かにスイッチがあった。

 右助はそれを押す。

 すると、足場がなくなった――否、そう感じているだけ。

 背景が、宇宙のようになっていた。星々が綺麗で、煌めいていて、ボクはその宇宙に投げっぱなしにされている感覚を受ける。錯覚を利用したとは言っても、これほどまでに異様だと、本当に錯覚なのかどうかも怪しいほどだ。


「ついてきてください」


 と右助は言う。


 歩き歩き歩くと、背景がいつの間にか変わっていた。

 壁はグレー色を基調とする部屋。研究室の部屋を彷彿させるような、機械の数々。

 眼前に見えるのは、巨大なガラス管。ガラス管は妙な液体で満遍なく入っている。

 そして驚いたのが、そのガラス管の中に入っているもの。

 ガラス管の中に――脳が入っていた。

 皮膚などなく、脳のみそのまま、取り出しガラス管に入れたとしか思えない。


「改めて紹介したほうが良さそうですね。これは僕の兄――有原両助です」

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