二十二話 事件解決


 ボクは全員を――右助、美華、ボク、歩美、そして狐面を被った人間を、先ほどボクたちがいた『休憩の間』に集めた。


「それで、裏切り者が分かったというのは本当なのかい?」


 右助は何食わぬ顔で、そう言った。まったく、白々しい。


「はい、わかりました。ですから、この『休憩の間』に集めたんです」


「そうか、では左助と涼を殺した犯人を教えてくれないか?」


「その前に質問です――右助さん。

 『試験』――まだ続いているんですよね? その確認だけはしときたいんです。

 まだ『試験』が続いているのかだけ、教えてください」


 これだけは確認しなければ、すべてが的外れになりかねない。だからそれだけは、先に確認する。


「――そうですよ。確認を取らずとも『試験』は何が起きようとも、誰が死のうとも、この島から脱出しない限り――『試験』に『合格』しない限り、終わらない。だから『試験』は続いている」


 島から脱出しない限り、『試験』は続く。それを聞き、安堵する。


「そうですよね。それを聞いて安心しました。では、これから裏切り者――というよりも、二人を殺した犯人・・と言ったほうがよさそうですね。

 これから、犯人が誰か、そして『試験』の解答の一例をだと思えるもの――これらについて話したいと思います」


「そうかそうか回帰さん。この場で犯人が誰か、さらに『試験』の答えまで言おうとしているのか。

 しかしよく考えてほしい。僕は弟の左助がいなくなった。だからボクにとって『試験』は、できれば後回しにしたい」


「後回しにしなくて問題ないでしょう? 今回の犯人捜しと『試験』の解答は同じでしょうから。

 そうでしょう、今回の犯人――右助さん?」


「……中々ユニークなことを言いますね、回帰さん。まあ、このような状況に陥ってしまえば、わからなくもないですよ――僕を犯人にしたいのは。ですが、死んでいるんですよ――僕の弟が、有原左助が。これをどう説明するんですか? まさか、僕は弟に対して、非道になれるとでも? 僕の愛おしい弟を僕がこの手で殺すとでも? 僕の可愛い弟を僕がこの手で殺すとでも? 僕の優しい弟を僕がこの手で殺すとでも? そんな世迷言を言うんですか?」


「安心していいですよ右助さん。そんな世迷言はいいませんよ。

 なぜなら、左助は生きている。そう考えれば、とても簡単なんです。そう考えれば、犯人はあなたに絞られるんですよ、右助さん」


「……中々突拍子な発言ですね。分かりました、左助はいるとしましょう。それで、左助は今どこにいると? まさか天国いるなんて馬鹿なことを――」


「お前の横にいるだろ」ボクは視点を右助から少しずらす。「なあ、セバスチャンの代わりをしている有原左助」


 左腕のない右助は笑う。ゲラゲラと。ゲラゲラと。


「いや、いやいやいやいや、セバスチャンが左助なわけがないじゃないですか。彼は五体満足ですよ。僕の弟――左助は右腕がまるまるないんですよ。それはどう説明するんですか?」


「――義手で補えますよね。右腕丸ごと機械の腕――外見上は普通の腕とそっくりですけど、義手、そうですよね?」ボクは続け様に言葉を紡ぐ。「この島はあり得ないことが起きる。そのように脳に刷り込まれていたんだ。だからこそ、なんでもアリ――とボクは思っていたけど、ここは現実なのだから、そんなのあり得ない。だから、最新の技術を『有原財団』が独り占めしている――ひた隠しにしている――そう考えれば、辻褄は合います。義手だって今は、本当の手とほとんど変わり映えのない手だと思えるほどの、性能が出来上がりつつあります。それは既に義手を本物の手だと思えるほどに完成している義手が『有原財団』にあるからでしょう」これは飽くまで憶測だ。しかし今回の推理においては、ある程度妄言だろうが問題ない…………はずだ。真実に近ければ――大筋があっていれば問題ない。「今回の殺人事件――半身と半身に分けた理由は、セバスチャン――いやセバスチャンは『奴隷』かもしれないですが、セバスチャンを殺し、涼を殺し、セバスチャンは右半身・・・のみ残し、残りは捨てた。それはあたかも死んだのが左助だと誤認させるため、そうでしょう?」


 右助にボクの憶測推理が右助に正しいか、確認をとった。


「つまり、今回のトリックはそのように――死体が左助だと思わせるために、セバスチャンの左半身を捨てたと、そう考えていると。なるほど、確かに面白いロジックです。そうすれば、ここにいるセバスチャンは左助だと思うこともできる――なるほど。

 ですが犯行はその場合、僕と左助の二人だけ。その場合、二人だけで、しかも一時間であれほど悲惨な遺体を作り上げた。その時間があると思っていますか?」


「その時間はあるでしょう」ボクは言う。「この島の『奴隷』、他にもまだまだいるでしょう? 『奴隷』というのがどのようなものかはわかりませんが、十人以上いれば、涼とセバスチャンをあのようにするのは可能でしょう。

 そして極めつけはボクが拾った銃弾」ボクは銃弾を右助に見せた。「銃弾はこのように特殊な潰れ方をしていました。ですが、銃弾を発砲しなければ・・・・・・・、あのように銃弾が潰れることは可能――つまり、あの銃弾は撃ったあとのものではない。それなら、銃弾はヒントとして残した。それは、ボクたちに三人に、犯行ができないことを示していた。銃弾を曲げるようなことをできるのは、有原小島を知り尽くしているあなた方――左助と右助。

 おまけに左助が言ったネタミライセンスというヒント。あれは、ネタと未来、そして技術センスという言葉『遊び』で考えれば、『遊び』をネタにして、未来のような島で、あり得ない技術を行ったトリックをしているということ。このようにすれば、ネタミライセンスという意味合いは、なかなかに今回の事件に当てはまっている。

 これらのことから、犯行を行えたのは、右助と左助しかいない。

 違いますか?」


 ボクの『試験』の解答はこれだった。これ以上のことも考えることはできただろうけど、少なくとも大筋からは外れていないだろう。


 右助たちは――特に左助は、『試験』中、嘘をつくことはなかった。そう本人も言っていたし、涼の証言もボクは聞いていた。

 嘘の問題を用意すれば、解答は絶対に間違える。だから、問題には、『試験』の問題には、嘘がない。同時にヒントも嘘なわけがない。少々ややこしくても、嘘はない。そこから推測・・すれば、『試験』は――事件は、このようになると、ボクは考えた。この事件は『試験』。されど、今回の場合、この事件は証拠をもとに、犯人を問い詰めるのはほぼ不可能。だからこそ、推測的な理論でも『試験』の解答をすれば、問題ないとボクは考えている。

 それに、いざとなれば、狐面のお面を外せば、セバスチャンに成りすましているのはきっと左助だ。歩美のお墨付き。だからこそ、そこに間違いはない。そうして、そのトリックがどうして行われていたか? と問えば、きっと彼らは『試験』のためだというのだろう。

 あくまで推測。しかし、状況証拠、それに左助のくれたヒントから、そこまで逸脱している解答をボクはしていないはずだ。


 右助はしばらく考えていた。手を顎に当て、考えていた。なぜ、考えているのか、わからない。もしかして……不合格、か?

 しばらくして右助は口を開いた。


「『合格』です。ですが、80点。もう少し頑張ってほしかったですね。左助、もうセバスチャンの真似はしなくていいですよ」


 狐面を被った人間は狐面をとる。

 そこにいたのはカラーコンタクトをして、眼帯をしていた左助。


「やっぱ人折なら『合格』してくれると思ったぜ!」


 美華は驚愕していた。


「本当に入れ替わっていたなんて……知りませんでしたわ」


 正直、ボクの『試験』の解答は間違っているんじゃないかと、思ってもいた。しかし、『合格』――つまり、ある程度は合っているということだ。心底安堵した。もしも『試験』の合格の捉え方を事件解決とイコールで結びつけなければ、『合格』することは無理だった。『試験』=『事件』と言ってくれた涼には感謝したい。


「『試験』『合格』おめでとうございます、回帰さん、能登さん、『天才プログラマー』――高原さん。

 『合格』したので、願いを叶えることができます。

 では、あなたたちの願いを、教えて下さい――と言っても、『天才プログラマー』の願いはもう聞いているので、願いを聞くのは残り二人ですけどね」


 ははは、と右助は笑う。


「願いって言われても、私は特にないかなー。というか、もともとこの島に来たのは願いを叶えに来たわけじゃないし。強いていうなら、りょーちゃんを返してほしいんだけど、無理なんでしょ? それなら、私は何も願わない」


 歩美はそう言った、言い切った。ならば、ボクもほとんど変わらない。


「ボクも同じような感じです。ですが、強いて言えば、しっかりとこの島から返してください。これ以上、『試験』は受けたくないので……」


「それはもちろん、そうしますよ。ですが」と右助は言う。「回帰さん。あなたにだけ、事件の真相をお話します。このままでは納得することは難しいでしょう? ですから、僕たちのあとについてきてください」


 ……確かに、今回の事件は謎が多すぎる。

 謎はすべて知りたい――それが人間の欲求。例えそれが、友達を――幼馴染を殺した相手でも、今回の事件をすべて知りたい。


 だからこそ、ボクは右助と左助のあとをついていった。 

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