十五話 事件


 ボウリング場に来たからにはボウリングをしよう――それが皆の総意だった。

 それは『遊び』をしろという右助の命令には背かないし、何よりも『試験』の内容をある程度知れるかもしれないという考えからきたものだ。


 とりあえず万が一を考え、ボク含め四人はすべての非常口を確認する。だけど、非常口の先がそのまま外に繋がっているわけではない。廊下のように、長い直線の道が続いているばかりだった。もっと先に行けば、何かわかるかもとは思ったが、一人になるのにはリスクがあるので、先に行くことはやめた。

 次に、ボウリングをするための準備をする、ボウリング用の靴、ボウリングボールetc.

 そのときに、涼が話しかけてきた。


「なあ、回帰。もしも、最悪な状況になったら、バラバラに逃げるべきだと俺は思うんだが、そうしてくれるか?」


 その頼みはボクにとって、とても意外なことだ。しかし、最悪な状況になったとしてもバラバラ逃げるなど、ボクはできない。


「分かってるだろ、涼。ボクは歩美の傍にいるよ、そのときは。歩美が死ぬ状況なら、ボクは自身が犠牲になっても助けるし、たとえ歩美が絶対に死ぬとしても、そのときは傍でボクも死ぬ。

 それは変えてはいけない決心だと思っているんだよ」


「その思考を変えろ、と言っているんだ。今回、お前ら二人を呼び出すことには反対していたんだ。だけど美華のやつ、お前ら――回帰と歩美を巻き込んできた。ったく、何を考えているんだか――」


「ちょ――ちょっと待ってくれ!」さすがのボクも、記憶力がないと言ってもそのことは覚えている。「涼、お前が誘ってきたんだろ? ボクをこの人殺しの起こる島に。まさか呼び出してないとでもいうのか?」


 ボクを有原小島に誘ってきたのは涼だ――その記憶に間違いはない。


「何を言っているんだ、回帰? 俺はお前を呼び出してなんかいないぞ。お前が、有原小島に興味があるから行ってみたいと聞いていたんだが?」


「…………」

「…………」


 これほどまでに矛盾が生じているのなら、その原因が誰のせいによって起きているのか、ボクらにとっては簡単に分かる。


「「ホワイトデビル」」


 ホワイトデビル――別称、最悪な人間。

 ホワイトデビル。その名の通り、白の悪魔。人間扱いができない。人間扱いができたとしても、それは最悪な人間。だからアレを人間と呼ぶならば、最悪な人間。

 ホワイトデビルの特技は多種多様。過去、ボクはホワイトデビルの特技をいくらか見たか、その種類は覚えられないほど。

 そして、今回の状況で使いそうな特技は、通信操作。音の偽装工作。変装。そして十八番の――情報収集。


「じゃあアレは――涼が電話に出ていたと思っていたのは、ホワイトデビルの通信操作、および何らかのホワイトデビルの技術によって騙されたのか?」


「そうだろうな。俺はお前に電話した覚えはない。だからこそ、お前に電話をしたのはアイツしか――ホワイトデビルしかいないだろう。それ以外は考えられない。だけど、どうなんだ? それって美華とホワイトデビルが協力したとも考えられるだろ? アイツと美華の関係は相性最悪なのに、そんなこと考えられるか?

 協力関係になれるはずが――」


「――何か言いましたですの、『ハイスクールの天才』?」


 急に話しかけてきた美華。いや、ボウリングの準備もほとんど終わらせたなら、話しかけても無理ないか。


「いや、なんでもない。じゃあ、遊ぶか」


 どうやら涼は、ホワイトデビルと美華の関係には触れたくないらしい。

 まあ、確かにそれは分かる。もしも、美華がホワイトデビルと協定を結んでいた場合、触れるのはタブーだし、タブーでなくともホワイトデビルが何かしらのアクションを起こす可能性だって考えられる。


 そんな考えを巡らせながら、ボクらはボウリングで『遊ぶ』。







*****








「やったーストライクー!」


 ストライクを取り、無邪気にはしゃぐ歩美。それを見て、昔の歩美を思い出すが、それは気のせいのなのだろうか? いや、欠陥品とはいえ、正常な部分が見えているのが今の部分なのだと、ボクは思った。


「次、ひーちゃんの番だよー」


「ああ」


 そして、歩美と入れ替わり、ボウリングボールを投げるが結果は散々なもの(ピン一本しか倒れない)。

 そして、次は美華と入れ替わり。


「なあ、回帰」と、涼は見計らったように話す。「今回、ここに来たのは俺のせいだと思ってんだよな。カタチだけでも謝ろうと思ってさ」


「珍しいな、お前がそう言うなんて。しかも、涼は騙された側だぞ?」


「それでも、だ。お前ら二人は――回帰と歩美だけはここに来てはいけなかった。それはこの異常な島を見れば分かるだろうし、さらに言えば既に脱出不可能にされているし、『試験』にまで強制参加されたんだ。謝るだけ、謝らせてくれ。すまなかった」


「いいさ。別に」


 その言葉言い切ったと、同時に、ピンが一気に倒れた音がする。


「スペアですの。わたくし、ストライクを取りたかったですわ――」


 ――銃声。一発のみの銃声。

 


「「「――――!?」」」



 照明に当たり、電灯が一つ消えた。


 再び銃声。

 今度は――何度も何度も何度も。あまりに異常な数。それらの銃声は今、ボクらの方向には向いていない。電灯を消すためだけに銃弾を放っている。

 そして非常口の電灯も消されていく。


 ヤバい――明かりが消えてどこにいるか把握できない!


 暗闇の中、ボクは歩美を探そうとした。

 だが、思い出す涼の言葉――意固地に歩美を探すなという言葉。

 声を出しても銃声によってかき消される今、歩美に呼びかけることができない。


 諦め――。人生諦めも肝心というが、ここで歩美を見捨てていいのか?

 疑問。もう、好きではなくなった歩美。歩美ちゃんではない何か。ボクを永遠と縛る楔。縛って縛られ、絞りつくされ絞りつくす、終わりがないのが終わりの関係、それが何か歩美とボクの最悪関係。だからこそ、歩美を探していたが――先ほどの涼との会話を思い出す。

 涼はボクを解放しようとしていたのだ。

 さっさと歩美何かと離れ、普通の人生を――誰にも縛られない、雁字搦めにされてない人生を歩め、と彼は言った。ならば、ボクはかつての幼馴染の言葉のもと――解放されよう。



 逃げた。必死に。いつ銃弾に当たるか分からない。銃声のする方向から遠くに走り、壁に当たる。

 壁伝いに逃げる。扉を見つけ、開く。

 逃げて逃げて、長い直線を全力疾走。

 走る。

 走る。

 足掻く。

 足掻く。

 そして――外に出た。


 出た場所は入口とは違う場所だった。



 さらに、やはりというべきか、ボクは――仲間たちとはぐれてしまった。

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