八話 因果の巡り合わせできっと全てが可能になる


 あのあと。

 四人で話し合って様々なことを決めたあと。


 遊ばないと殺されるという条件を提示されていることから、「そろそろ遊ばない?」という歩美の提案のもと。各自、自分の部屋に行って身支度をした後に、『城』の玄関エントランスに集まるという旨を話して、一旦は解散した。

 そしてボクは今、その部屋――有原小島で過ごす限り、永遠とボクの部屋となってしまったその部屋の中に入った。


「うわっ……広っ……」


 思わずそう言ってしまった。

 金持ちでも客人用なのだから、十畳くらいかと思っていたのだけど、どうやらそれ以上は間違いなくある。

 『休憩の間』のような広さではないけど、それでも一人で住むには、あまりに広すぎる部屋。

 洋風な部屋で、当然のように高級そうなものがあちらこちらに置かれている。冷蔵庫、キッチンなどの日常用品のすべてが揃っている。何より。


「助かった……ってことでいいのかな?」


 着ている服しか持ってきてなかったボクだったけど、豪奢なタンスの引き出しを引くと、様々な服があった。着たくないと思える衣服もあったけど、それは着なければいい。……これで衣食住には困らない……かな。


 そう言えば、夕飯は時間厳守で集まって食べるのだそうだ。天才二人は、右助からそう聞いていた。

 朝や昼はどうでもいいらしいけど、夕飯は絶対に集まらないと駄目なのだと、右助が言っていたのだそうだ。ただ、あらかじめ行かないと伝えていれば問題無いらしい。そして、たとえ伝えてなくて、夕飯に行かなくとも殺されることはない・・・・・・・・・と天才二人は話していた。

 つまり、強制力はあまりない。できれば来て欲しいと、そのように言い換えても特段問題はない。

 そう言えば、お腹が減ったな。朝早くに船に乗って、右往左往してしまうようなことが多々あったから、お腹の心配が皆無だった。

 まだ確か、昼前、十二時前――時計の針がてっぺんを迎える前。

 ふと、『城』全体に響き渡る声。


「皆さん。昼食のご用意ができました。お食事をしたい方は、是非」


 ぷつん。と、マイクの音は切れた。

 有原右助の声だった。

 正直。ボクは遊ぶよりもお昼ご飯にしてしまいたい。

 腹が減っては遊べないし、ストレスも溜まる。特にお腹が減ったときの飯テロとか、ボクは許せないので、万が一遊んだあとの休憩で、家から持ってきた弁当を広げるなんて行為を見ればボクはどうにかなってしまう。

 ともかく。この部屋もいくらか見たことだし、『城』のエントランスに戻るか。別に身支度は男子には必要ないだろうし。

 年頃である十六、十七歳女子――女子高生は時間がかかるから、もしかしたらもう少し遅めに行った方がいいと思ったが、もしも全員いたら困るしさっさとエントランスに行こう。






*****







「おっそいですの!!」


 いや、マジ……? 確かに全員いたら困るとは思ったけど、なんで三人とももう来てんの? 早すぎない? そのうち二人女子だろ? なんか身支度とかそういうのなかったの? ボクは部屋見渡したり、タンスの中確認したぐらいなんだけど。どうして皆もういるの?

 他にも言いたいことは、疑問として頭の中には様々な考えが浮かんでいるけども、……まあ。遅れたんだから、謝るか。


「ごめん。ちょっと部屋見渡してたら遅くなった」


「まあいいですの、凡愚。別にわたくしたちが早くに集まるように促したのもいけなかったですので、許して差し上げますわ!」


「速く集まるように促した? ボクは早く集まるということを聞いていないんだけど」


「そりゃあ凡愚は早くに集まることを伝えていませんから。凡愚は力不足、役立たずですから別に伝える気は殊更なかったんですの」


 うわ。ひでぇ。

 あれ? でも、ボクを置いてどこに行こうとしていたのだろうか?


「なあ美華。これからどこへ行くんだ?」


「そりゃあ決まっているじゃありませんか、凡愚。先ほどの放送の内容――それに興味があるのでそこへ赴こうとしているんですの。まあ、興味と言っても最重要項は有原兄弟に詰問しようと考えていたところですけど」


 招待された側なのに詰問とか……さすがに冗談だよな?

 でもまあ、美華の主張は分かった、理解は……できた。

 つまり、この三人は全員昼食の会場に行こうとしているのか。それなら、


「じゃあ、ボクもその場所に行くよ」








 *****







 ボクら四人は昼食会場へと行った。

 『城』の中。地図で食事会場と示されている場所――そこが朝、昼、夜の食事場所だろう。


 しかしまあ、相変わらず『城』の中は豪勢だなと思わざるを得ない。

 金ピカ金ピカ。金金金。

 金持ち以外にこんなことをする人間が入るのだろうか、というそんな疑問が浮かぶ。そしてその答えはYesだ。金持ちでなければ、これほどの環境を用意することはできない。


 すべてが豪勢だ。部屋も、扉も、料理も、何もかも。

 豪華で豪奢で豪勢で、そのような存在がこの空間には溢れすぎている。

 巨大で絢爛な円テーブルに椅子が十二個あった。椅子も王族の人間が座るような椅子で、豪華にもほどがある。


 まあ、『城』の相変わらずの豪華絢爛さはさておき。

 なんで右助はもう食べてんだ? 新手の飯テロか? 許さないよ?


 ボクら四人に気づいた右助は料理を素早く食べ(客来てるのにまだ食べるのは食い意地あり過ぎだろ……)、ボクらの方を向いた。


「昼食にいらっしゃってくださり有難う御座います。ゆっくりしていって下さい。

 食器などはあちらにありますので、適当に食料を見繕ってここで食べてください。なお、ここは食事会場です。暴れる等の行為はなるべく控えるようお願いします」


 そう言うと、再び席についてもぐもぐと食べ始めた。

 ……。暴れたりすることは控えろって……、分かるけど口にするほどだろうか? 常識だったりしないのか? と、ボクは困惑してしまう。


「少し困ってる表情をしていると見えるぜ」


「うお……」


 急に飛び現れたかのように、右腕の無い左助がスッと現れた。心臓に悪い。


「どうだぜ? 俺様と一緒に話しながら食うっつうのは?」


 ボクは歩美と一緒に食事を楽しむつもりでいたんだけど。近くに歩美がいたから少し聞いてみよう。


「なあ歩美……」


 やべっ、料理を見るのに集中し過ぎている。


「歩美ちゃん歩美ちゃん」


「……ん? どうしたの? ひーちゃん?」


 良かった。戻った。

 ボクは胸を撫で下ろしてから話を続ける。


「昼食はボクと一緒に食べるだろ、歩美?」


「うん!」


「それでさ。左助さんも一緒に食べたいらしいんだけどいいかな?」


「オゥケー。ばっちこいだよー」


 言質も取れた。よし。


「いいですよ、左助さん」


「よっしゃーやったぜ!」


 変わらず変わらないテンション高い左助。

 とまあ。


 そんなこんなで、適当に豪勢な食べ物を取りながら、テーブルに座る。

 ボクの右隣に左助。左隣に歩美。

 天才二人は口喧嘩で争いながら、互いに嫌い合うように真反対に座って、しかしそれは相手の顔を正面から見てしまう位置だった。


「俺様もうちょっと取ってくるぜ」


 そう言って再び、食器を取って料理を盛りつけに行った左助。

 そうか。右腕が無いと、食料を運ぶのは不便なんだよな。と、ボクは思った。

 右腕が無ければ人間は重心がずれる。右腕が無ければ皿を持つときは片手。そして食器を一度置いてから、盛りつける。面倒甚だしい。

 ボクは右腕が無いときなんて、当然無いけれど。だからこそ、自分とは違う状態で、不便だと思うからこそ、可哀想で、心配する。

 人は人を心配する。

 心配するということは、純粋に心配することよりも、他の意味を持つことが多い。

 例えば、哀れみ。可哀想だとか、そんな感情。

 例えば、優越。心配ができる状態というのは自身にゆとりがあるからこそできる行為。だから例えば、ゆとりがあるゆとり教育は心配されず、むしろゆとり教育と罵られる。それでも、ゆとり教育を受け続けた人間は、優越感を心のどこかで感じている。

 例えば、心の底ではどうでもいいと思う人。心配している風な口をききながら、実際のところそんなのはどうでもいいと考えている。まあボクはこれに恐ろしいほどに当てはまる。

 例えば。例えば。例えば。

 要するに、人間が行為として外見上見せている――見せつけている行為には往々にして"裏"が存在する。人間それぞれによって比率は違うが、"裏"が存在しないような態度をとれる人間は、いない。正直者でも、嘘は吐く。嘘つきも嘘を吐く。裏を存在させない行為を取ろうとしても、いつの間にか裏を取っている場合がある。逃げられない。因果から、逃れられない。


 右腕がないという事実からは逃れることはできない。


 終わっている人間を終わっていない人間に変換することは不可能。


 しかし、因果が巡り合えばそれも可能なのだろうか? 因果が巡り合えば、事実を捻じ曲げるほどの出来事を起こせるのだろうか?

 だけど、因果に変化をもたらす存在なんて、宇宙上にいるわけがないとしか、思えない。因果に変化をもたらすのは……宇宙外。世界の外以上で、さらに宇宙の因果も無視する存在。例えば、死んだことをなかったことにできる人物や現象。例えば物理法則を無視する存在。それらの存在がいれば、左助を終わっていない人間に変化させることはできるだろう。


「お待たせしたぜ!」


 テーブルに食器を置きながら、左助は大声でそう言った。


「……それで? どんな『雑談』なんですか?」


「……おっ、よく気が付くなあ、お前。少しばっか見直したぜ」


 左助が、ボクと一緒にいたいだなんて、あり得ないはず。本来なら彼の今までの性格からして、右助と話すか、天才二人に絡むはず。だから、可能性を絞っていけば、たどり着くのはボクに『雑談』すること。『雑談』は、同じレベルの人間とするから、とても心地いいのだ。凡人と金持ちの価値観は違えど、レベルが同じなら、『雑談』は楽しい。

 そしてボクは『雑談』の中で、ある程度の情報を得ようと思っている。

 今回の『試験』の内容全て知るとはいかなくとも、ヒントくらいは聞き出せるはずだ。

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