七話 状況整理
あのあと、ボクら四人と有原たち三人は別れた。
なんとなく。自然と。雰囲気的にそうしろと言われていたものがあったし、何よりも"終わっている人間"の傍にいることにボクは耐えられなかった。だから幼馴染たちのあとについて行った。
今、ボクら四人がいるのは『休憩の間』。
とはいえ、先ほどいた和室チックになっていた部屋ではない『休憩の間』。ここは、先ほどの『休憩の間』のスイッチを切り替える前の初期状態――この『城』によくあると思われる豪奢な部屋の一つ。広々していて、四人がここを使うには申し分ないをどれほど重ねていても届かないほどの広さを誇っている。
それにもかかわらず、この部屋は『城』のほんの一部なのだ。一体『城』はどれほど大きいのだろうか。
「にしても、そっちも『試験』のことを聞かれていたとはね。
右助から回帰と歩美は『試験』について何も知らないと言っていたから、少し驚いたよ」
涼の物言いに、「本当はそんなに驚いていないだろ?」などという悪態をつくことが、今現在のコンディション状態からボクはできない。
冗談なく。道化なしで最悪だ。こればかりは断言できる。
『試験』が終わらなければ有原小島から出られないのは最悪の
そして。結局のところ『
しかも、『試験』を合格できなければこの島にずっと滞在しなければならない。それを反芻すれば、さすがのボクでも違和感があって、その正体を掴み取る場所まで届く。たとえ左助の説明全てに嘘がなくても結果は極悪だ。
なぜなら。
ボクらがこの島に永遠と在住するならば問題は無いかもしれないが。もしもこの島からどうしても去りたい人がこの四人のうちに一人でもいれば、"有原小島を支配しなければならない"。謂わば島をボクら四人の独占状態にしなければいけない。つまり、あの三人――有原左助、有原右助、セバスチャンを殺す必要が出てきてしまう。
『試験』は無制限。そして肝心の内容が不明。『試験』に合格すれば願いは叶う。
『試験』の内容が分からず合格なんてできるか? いや無理だ。そうとなれば、どうしてもあの三人を……いや、
「それでどうしますの?」
「どうするってーどういうことー?」
美華が訊いて、歩美が聞き返す。
久しぶりの幼馴染女子二人の会話。懐かしい。
「この四人で島からの脱出を試みるんですの? それとも『試験』の合格を試みるんですの?
わたくしと『ハイスクール野郎』は既にこの島で『試験』をすることで既に合致していましたが、歩美ちゃんはどうしたいんですの?」
ボクのことは無視。まあ、それは歩美と同じ行動を取るのだと――歩美の考えに流されるのだと知っているから、美華はこっちに話しを振らないのだろう。
「……私は皆と一緒に居たい。だから、『試験』を受けるよ」
「決まりましたわね。凡愚も歩美ちゃんの考えと変ずることはありませんわね?」
美華も美華で、どうしてボクにこれほど当たりが強いのか異議を唱えたいが、今はグっと堪えて応えよう。
「ああ、もちろん歩美と同じで変わることのない考えさ。ボクもここに残るよ」
「では決まりですわね。この島で『試験』を合格するまでここにいる。もし、この決まりを変えるとしてもそれは一週間後、もしくは状況が変化し過ぎた場合。そういうことにしませんこと?」
「うん、分かったー」
「異議なしだな」
「…………同じくだ」
一週間。一週間……か。
さすがにそこまで『試験』をしている可能性は低いのだろうが、……低いと思いたいが、もし『試験』が一週間にもなったらどうするんだ? ……そうなってしまったときの場合を先に考えるか。……ボクの悪い癖だよな、ネガティブな未来を先に考えてしまうなんて。最悪を想定したほうがマシだからと言って、先々常に最悪を想定してしまう自分は、やはり過去に縛られた方が幾分か救われる余地は残っているだろう。
「そして二人方には恐らく新情報ですのよ。実は個別に鍵を貰いまして、右助様
そう言って、美華は少し透度高い赤いドレスになぜか存在しているポケットから鍵を四つ分取り出す。
「やっぱりこんな古い鍵を渡すってのは侵入させる気十全でいるだろ? なあ回帰?」
ボクに話を振ってきたのは先ほどまで黙っていた紅涼。
古い鍵、というのに不満を持っているのか? と思ってボクは適当に不満を口にする。
「まあ、確かにこの鍵のことは詳しくないけど、それでも昔の鍵ってことは分かるよ。そして昔の鍵ってはピッキングが簡単だとか聞くからボクでもヤバいと感じるよ」
いやでも、この鍵ってそんなに古いのか? そう思っていたけど、涼はボクの意見に頷きながら、
「そうだろ? 最新を貫き通していそうな『城』があるにも関わらず、鍵はディスクシリンダーだ。
カードキーでもいいレヴェルの建物にまったく似合わないキー。まるで勝手に侵入して、俺たちを殺してもいいと言っているようなものだろ?」
「そう……だな……」
この鍵はディスクシリンダーとそう言うのか。まあ名前なんて関係ないけど。
ピッキングが簡単にできるなら、もしも殺人事件が個室で起きて鍵がかかっていても、密室とは――言えない。その場合、誰が犯人なのか分かりにくい。でもまあ、殺人事件はボクらが有原小島から去ろうとすることにおいてのみ限ることだ。そう慌てることじゃない。
左助の話が嘘でない限り、絶対に密室事件なんて推理小説染みたことは起きないだろうし、大体は杞憂で終わる。
ノンフィクションで密室事件なんて意味不明なことが起きるわけがない。
「二人はまだ聞いていないでしょうから言いますけれど」と『天才プログラマー』の美華はいいながら「これからわたくしたちは……適当に遊ばなくてはならない、ということですわ」
……? ……あぁ。そう言えば、涼に電話口で告げられたのは「一緒に遊ばないか?」だったな。仲が悪いから涼は美華に伝えてなかったのか?
しかし、事情を忘れていたのか隣にいた歩美は、
「みーちゃん? それってどういうこと?」
「そのままの意味ですわ。わたくしたちは適当に遊ばなければならないんですの。休むことや、ある程度別のことに時間を使ってもいいとは言ってましたけれど、延々と個人の部屋に引きこもりになるのはご法度と右助様が言ってまして……、そうしないとなんでも『試験』のしようもなく殺してしまうと言ったんですの」
遊ぶ。四人で遊ぶ。
それは。
かつてボクらが小学生にしていた出来事で。そして、四人で遊ぶのは小学生までしかしていなかったことだ。
そこから。別々の道に進んで永遠と遊ぶことはないと思っていた。そして会うことさえ、ないと思っていた。
だけど会えた。しかも、再び四人で、かつての幼馴染全員で遊べる。
これほど嬉しいことは無いと言っても間違いではないだろう。
だけど。
そう言えば。何処で遊ぶというのだろうか、という疑問が浮かび、
「この島のどこで遊ぶんだ? そんな場所、『城』にはなさそうだったけど」
「凡愚は相変わらず視点がボケているんですの? 『城』にはなくとも有原小島には存在しますわ。
そして、右助様は鍵を渡したあとにセバスチャン様は有原小島の地図をくれましたわ。
地図を二回渡すのは奇態なことですけれど」
そういいつつボクと歩美に新たな地図を渡してくれた。
地図には有原小島の全体図が書かれていた。『城』も『城』とてかなりの面積を有していたけど、島の三割に満たない。
そしてそれ以外の場所に目を通すと様々なことが書かれている。
ゲームセンター、賭博屋、スポーツ会場、娯楽会場etc.
その地図の中に気になる部分があった。
メインコンピュータ館?
「美華。このメインコンピュータ館ってなんだ?」
「さぁ? 地図を渡されたとき、いの一番に右助様に質問したけれど、秘密としか言ってくれなかったんですの。でーすーがっ! 行ってはいけないとは口にしてはないから、入るのは問題ないはずですわよ。
文面から見る限りはメインコンピュータが設置されている場所でしょうね」
「その場所が『試験』の重要な役割を担ってることは、あり得るのか?」
「あり得るかどうかで問われれば分からないですわ。
この『試験』はすべてにおいて、『試験』の奥底が全く分からないんですもの。『試験』ならば本来クリアするために、何を要求されているか――それを認知させる命題が出題されますし……。ですからこの『試験』を普通の試験と考えると、痛い目に合う可能性が十全にありますわ。何が『試験』なのか分からないということは、最適解を見つけ
「でーすーがっ!」と、美華は言葉を再び紡ぐ。
「最適解は見つけられなくとも、解を見つけることは然程難しくないとわたくしは考えておりますわ。
そもそもこの『試験』とは何か? それを明らかにするには探索する、あるいは彼ら――有原様たちから情報を聞き出すほかありませんわ。ですから、わたくしたちがすべき行動として大切なことは遊びながらも場所を点々と移動しながら何かを見つける。もしくは移動した先で右助様たちの誰かに出会えたら話を聞き出す。あるいは、メインコンピュータ館からこの島を粗方調べる。それしかありえませんわ」
ふーん。なるほど。
解さえ見えず、ましてや問題さえ見つけられないから、まずは問題を探さなくてはならない。
まぁそれが今回の『試験』の目的を見定める因子になる可能性は、十二分にあるよな。
でも違和感がボクには働く。
例えば。
『試験』の内容が最悪なもの故にボクらに『試験』の内容を隠蔽しているのではないのかと?
彼らがボクらに話してしまえば、堪らずボクらでもどうしようもないと判断して、島から逃げるほどの最悪なシチュエーションが待っているのなら……『試験』の内容を明かさないのはアリどころか、完璧すぎる。出来過ぎていて、これほど怪しいことは、排除したくもなるけど。
そして。
恐らくこの程度のことは二人の天才も考えているだろう。涼と美華は天才で、凡人の思考の範疇を簡単に逸脱する程度の考えは
金持ち程度の存在が、天才に勝てるのか?
ボクはそんなどうでもいいことを脳の片隅に朧気に置きながらも、天才たちと凡人たちの会話は、暫く続いた。
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