二話 天才、金持ち、凡人
ボクら四人は豪華客船を降り、ついに有原小島の地に足をつけた。
有原小島――いくらか広い無人島に、人間という最悪な存在が介入し、建築工事という災厄を振り撒いた。結果として、ビルやドーム、城のようなものが立ち並んだ。少なくともこの景観において、ボクはそのようにしか判断できない。
やはり人間は知恵という名の最悪なものを撒き散らす最低人種だと思う。
まあ。どうでもいいけど。
「大丈夫、ひーちゃん? また考え事しているの?」
柔らかな声を発してボクに話しかけてきたのは、ボクと同じ凡人――
ボクが未来を見ることを諦めて、過去に執着してしまった因子があるならば、それは歩美の影響だ。ボクがなんとなく行動した結果、最悪最低な結果を残してしまった……そして出来上がったのは歩美
そして……今の歩美は恐らく未来も過去も見ていない。過去も未来も感がることのない人間なんてのは、もはや人間とは言えない。でもそれは、ボクが彼女の性格を完璧に変えてしまったからだ。その結果、歩美という存在はボクにとってどうでもよくならない存在に昇華した。もちろん先だって断っておくが、どうでもよくない存在とは彼女などという関係ではない――彼女が好きという意味ではない。歩美の存在が、ボクを縛る――束縛する存在になってしまったから――ボクは彼女のことが無視できない。
「考え事はしてないよ」とボクは言いながら、眼前に現れてきた有原小島に住んでいるであろうと
「ご来島ありがとうございます。僕はこの有原小島の管轄長兼有原財団の息子の一人――
有原右助……。確か、有原財団の長の息子の一人……だったけか? 事前情報で、年齢は不明だったが見たところ二十代前半だろうか?
ボクがこの島に来る前、『有原』という存在は知らなかったが、先日の
有原財団。
多くの企業から頭一つを飛び抜けた
この場合の『表』とは、世界で報道される存在。『裏』とは世界では絶対報道されない存在で、秘密裏に動く組織や団体が多いらしい。『裏』は主に麻薬取り引きから始まり、闇賭博、暗殺依頼などもあるらしいけど、有原財団はそれらを統括している可能性があるとも聞いた。
だから有原財団は『表』と『裏』をひっくり返しても、どちらにも所属可能な財団。もっとも、『裏』の部分を知っているのは極僅か。ではなぜボクが知っているのかと言えば、ボクの周りにネット以外にもアナログチックな方法で様々な情報を収集する『
そして、その情報通の人間が言うには、有原財団の息子らはこの島――有原小島にいる。(因みに有原小島はネットにさえ名前が載っていない)
もしも有原財団の息子らがいるならば、有原右助、有原
そして今、彼は有原右助だと名乗った。ならば、残りの二人――左助と両助も恐らくいるのだろう。
三つ子……もしくは双子の有原兄弟に出会うのだろう。
眼前の有原右助は、奇妙で不思議で違和感だらけの人間だった――常人とは全く違う部分が、有原右助にはあった。
それは有原右助は障害者だということだ。それが一目で分かった。
彼の服装は黒のスーツを着ているのだが、片方の袖――左腕を通す袖がないことが、ボクの位置からでも分かる。そして、服装のスーツは当たり前かもしれないが、ダボダボではなくフィットする黒スーツ。
だからこそ、完全に
身長や体重も特に突出しているものはなく、黒髪黒目。そして、超が付くほどのイケメンだろう。
「右助君。いきなりで申し訳ないんだが、君は左腕がないのかい?」
一切の相手の考えなしに話し始める『ハイスクールの天才』――紅涼。いきなり地雷と思われそうな部分に足を突っ込む。
「いきなり突っかかってくるのですか……。しかも、左腕のことをいきなり……。
まあ、いいでしょう。そうです。僕は左腕がありません。証拠を見せましょうか?
セバスチャン。すみませんが、僕のスーツだけを脱がしてください」
そう言いながら、右助の右後ろ辺りにいたセバスチャン……セバスチャンだから、執事かな?
その人にスーツを脱ぐことを頼んだ。……というか、このセバスチャンという人は『
黒髪で、
執事のような扱いを受けていて、どうして狐面をつけているのか不思議だが、多分右助、もしくは左助や両助から、その格好になれと命じられたのだろうと、勝手に憶測する。
セバスチャンと言っていた執事のような人に、右助はスーツのみを脱がされて、ワイシャツ姿になる。
ワイシャツは、スーツと違って両袖がしっかりと見える作りだった。そして左袖の奥の部分をボクたち四人に向けて見せた。
「ほら、僕の左腕――無いでしょう?」
確かにない。
少しだけ、左肩から数センチメートル程度伸びている腕(肩と言ったほうが正確かもしれない)のようなものは確かにあったが、左腕はない。完全に左腕がないことをボクの目でも確認できた。
「疑ってすいませんでした」
素直に涼は陳謝。それを黄金の瞳で見ていた
「はっ! 『ハイスクールの天才』はいつも早とちりするのですわね!」
美華も天才の一人――『天才プログラマー』だったはずだ。半分、外国の血が流れており、それ故かそれ故ではないか判然としないけど、金髪でグラマーな身体の持ち主。
彼女もかつて幼馴染だったが、そのときはプログラム関係のことは何も知らなかったはずだ。あれから十年も経たずに、天才プログラマーと言われるほどの人間になるなんて。人間何があるのか本当に分からない。ちなみに、この傲慢さ加減は昔から変わらない。
「いいだろ、そのくらいのミス。あまり責めるのはよくない。うん、とてもよくないな。君だってプログラマーなんだから一つや二つのミスくらいするだろ?」
「そりゃあいきなり高難度なプログラムを組める人間なんて存在しませんわね。
でーすーがっ! プログラムと今の出来事を比べるのはお門違い甚だしいですわ」
この二人。相も変わらず仲が悪いようだ。それなのに今回の有原小島に行く理由は、二人の意見が合致したからだと、遠回しに涼から聞いていたが、何故こうもいがみ合うのだろう……。本当に不思議だ。天才は天才同士、考えの差異に許容できるキャパシティが少ないのか? いや、どちらかと言えば、譲ることをあまり知らないのだろう、天才という存在は。
「それよりも」という声によってボクら四人の視線はそいつ――右助に向かされ、
「まだ正式に紹介をしてないですね。僕の隣にいるのが執事のセバスチャンです。
喋れないので不便に思われるかもしれなませんが、寛容な心で許してほしいです」
そして、執事であるセバスチャンは深くお辞儀をする。
……喋れない。……喋れないのか……。じゃあやはり……一種の障害をもっているのだろうか? ……自力でどうにもならないものを持っている。まるで……ボクや歩美のようだ。
「これから君たちをある場所に案内します。分かりやすく言えば、僕らの根城――『城』。その場所に案内します。
僕のあとに続いて来てください」
有原右助は軸足を半回転。そして歩く。
ボクらは言われるがまま、右助の行動に流れに流れて流されて、『城』という場所へ歩き出した。
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