第29話
「はぁあー。ああ!! おぉう」
ビジネスバッグで顔面をど突かれた、純潔守は。
会議室のスクリーン横に激突した。
頭が先に飛び。
その後体がしなるように、吹き飛んだのだ。
「社会人嘗めるな。女性用スーツにはポケットが付いてないことも多いのよ。シルエットの都合でね。勉強になったかしら、純潔くん?」
支店長は殴りつけたバッグを振り下ろす。
しぴぴっ、とバックから血が飛び散る。
下げたバッグの角から、血が滴る。
「……プッ!」
純潔守が口の中に溜まった血を吐く。
白いスクリーンに、霧吹き状の血痕が付く。
「これで……鍵は4つってわけだ」
転生者殺しは握りしめた、4つの鍵を示す。
純潔守がバッグで殴られた際に、利き手ではない左手から鍵がこぼれた。
その時、純潔守を殺そうと接近していた転生者殺しが。
偶然、それをキャッチする形となった。
「どうする? 残り4つの鍵は僕に切り刻まれながら、手放してもいい」
ナイフを手に、間合いを詰める転生者殺し。
脅すように、チラつかせる。
「ふ……フグ。フゥふ。……殺せよ。私を殺せよ!!人ゴロシィー!!」
声が裏返る。
殆ど横になったような状態から、跳び上がって。
立ち上がる、純潔守。
「ォ……」
垂直姿勢から倒れるように、前傾になり。
そのまま走り出す。
「ツッ……!」
動き出した、純潔守に合わせるように。
転生者殺しも走り出す。
「イィイッ!」
ドアへの距離は、純潔守の方が近い。
スピードも、純潔守の方が速い。
(!)
純潔守は支店長と目を合わせた。
(これ……!)
先ほどのハッタリは二度は使えない。
真剣勝負では、力の劣る支店長が勝つことはない。
ドア前にいる支店長は退かざるをえない。
「わ……!」
ドアから離れる支店長。
恐怖で足にふらつきがある。
(冷静にここは。スペツナズ・ナイフで……)
追いつけない可能性を悟った、転生者殺しは。
ナイフを純潔守に向けて突き出す。
それは『スペツナズ・ナイフ』。
バネで刀身が飛び出す、ナイフである。
つまり、獲物に接近せずとも喉が引き裂けるのだ。
「シュゥッ……!」
刃先を純潔守目掛けて、発射する転生者殺し。
「私が死ぬかもしれませんでェしたよね!」
「!?」
しかし、刀身は純潔守を外れて、壁に突き刺さった。
何故なら、射出の瞬間に。
転生者殺しを羽交い締めにしたものがいたからである。
「な……なんだ?」
工口たちには、それは大変奇妙に映った。
床が突然、2メートル程盛り上がり。
山のようになった床から、二本の腕が浮き上がり。
転生者殺しにヘッドロックをかましていたからである。
「く……くぷっ」
もがく、転生者殺し。
足をバタバタと揺らす。
首にガッチリと決められている。
「……」
床から盛り上がったそれは、次第にぴっちりとしたボディの形を見せていく。
高身長、巨乳、スレンダー。
布団圧縮機に人を入れたような、ギチギチの人体。
明らかに人が、ヘッドロックを決めている。
「!……」
殆ど、タイルカーペット状の人型になったそれは。
カーペットの下に潜り込んだ猫のように、波を打って動き。
「やめ……っ」
転生者殺しをガッチリ掴んだまま、ドアとは反対の方向にある窓へと突き進んだ。
「はっ! 乳頭クリクリッ!!」
工口は、床から浮き上がった人型にスケベ秘術を放つが。
「……ああああ!!!!」
動きを止めるには至らなかった。
床からの人型は、断末魔のような喘ぎ声を上げた。
(ダメだ! 開発していない乳首では、遠隔的に刺激しても効果が薄い……!)
工口が、次の行動を思考しているうちに――
「ぐぁあっ!!?」
転生者殺しと床からの人型は窓を叩き割った。
会議室の外に出る。
二人の周りをガラス片が舞う。
「!?」
この大型ショッピングセンターYEYANの中心は吹き抜けとなっており。
会議室の窓はショッピングセンター全体を見渡せるように、吹き抜け側に造られていた。
「離せーーーーーーっっ!!」
つまり、6階から1階まで一気に落ちることとなる。
既に転生者殺しの叫び声は遠くなり始めていた。
「……行くよ! ゴスロリ挿絵!」
「わかりましたわ!」
この時に、人知れず。
褐色シャーマンとゴスロリ挿絵は姿を煙のように消した。
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