第22話

「工口さん……本を頭に乗せて、さっきから何をしてるんです?」



 2m程の長椅子の右端にペドが座っている。

 工口は本を頭に乗せ、左側にいる。



「……」



 そこは、古びた教会だった。

 ステンドグラスは割れており、建物の所々に隙間がある。

 雨が降れば、至る所から水が浸み出すだろう。



(ああそうか……。昨日はここで寝泊まりしたんだったか……)



 今日は快晴である。

 壁の隙間から漏れ出した光を浴びながらぼんやり思い出す。

 今が昼頃の時間のこと。

 自分の隣に古びた本を積んでいることも。



「……!」



 工口の頭から、一滴の血が伝い垂れ出す。

 頭に乗っているのは、積まれた本のうちの一冊。

 寂れた教会にあった魔術書であった。



「私。少し焦ってしまったかもしれません。きっと、麻酔よりも先に痛みがきましたよね」



 工口の右隣には本の中に居たはずの絵の中のゴスロリ少女が座っていた。

 自分の頬を触りながら、一応の心配をしている。

 だが、その表情からは悪びれた感情は感じれらない。



「操心術のブッキングとは……。ナイトくんは意外にモテモテだね」



 そして、左隣には褐色のシャーマンが座っている。

 足を組んで何かを考えているように見えた。



(マインド・コントロールが被るなんて聞いた事ないけど……。この場合、ナイトくんの精神領域の奪い合いになるか。影響力、どれだけ自分を意識させるか……)



 足を組み直す、シャーマン。



「えいっ」

「!」



 工口の右腕に抱きつく、ゴスロリ少女。



「あ……っ」



 相手の精神を支配するには、恐怖と誘惑がある。

 ゴスロリ少女の先の行動は、工口の精神陣取りゲームのルールを先手で制定された形になる。

 つまり、シャーマンは半歩出遅れたのだ。



「な……ナイトくんっ!」



 シャーマンも左腕に抱きつく。

 誘惑対決になった以上は、恫喝はノイズでしかない。

 人の頭は一度にたくさんの事を考えられるように出来ていない。



「ああぇ……! あああ……!」



 ましてや、工口には道理だった。



「こっ、工口さん……」



 ちなみに、褐色とゴスロリが工口の見せられている幻覚である以上。

 ペドにはその状況が見えていない。

 謎の悶絶をする、謎の人がそこにいるだけである。



「おぉ、う……。おおぅ……むう」

「ヒェェ……」



 ペドは恐怖し、距離をとった。



「私。工口さんが好きなものは全て把握してるんですのよ……」



 ゴスロリ少女の胸は平坦なAカップであった。



「……っ///」



 もちろん、僅かな胸を押し当てる健気さの感動はあった。

 しかし、工口は学生なのである。

 学生が喰いつくのは、わかりやすさとボリュームである。



「これがBカップ……Cカップ。工口さん知らないでしょう?」

「!?」



 工口の右腕に当たっていた、暖かで柔らかな物体は。

 健気さを通り越し、次第に傲慢になっていった。



「あ……アンタっ! 恥ずかしげもなく……」



 シャーマンが驚愕した。

 幻覚物質である以上、好きに肉体は弄れるのである。

 ゴスロリ少女はおっぱいサイズを可変して、工口の好みを探っているのである。



「Dカップ、Eカップ……。どうですか? 工口さんが体を明け渡さないと、お胸はどんどん大きくなっていくんですのよ」

「はぁぁ! やっやめろぉ……!」



 おっぱいで包まれていく、工口の右腕。



「Fカップ、Gカップ。脳みそに卵を植え付けていいですか? 工口さん」

「いい……? いいのか……? いい……?」



 揺らぎつつある工口。



「!? あ……っ、アタシも……っ! D……Cカップ」



 褐色シャーマンも負けじと応戦する。



「……!」



 しかし、工口には胸の膨らみもだが。

 シャーマンの大きな心音が印象的だった。

 大人びた印象を与える彼女の佇まいだったが、男女の接触には少女の恥じらいを見せるのである。



「しゃ、シャーマンさん……」

「やめろ! こっちを見るな……」



 ぐいぐいと来る、ゴスロリ少女とのギャップで。

 シャーマンの朧げさは浮きだった。

 儚さ、切なさ。

 学生でも侘び寂びはわかる。



「……む。えーい!」

「おふっ」



 更に胸を大きくする、ゴスロリ少女。

 胸が大きいと、それはそれで素直に反応する工口。



「うぅ……/// Hカップ、Iカップ……」



 張り合って大きくする、シャーマン。



「おっほ! おっほ!」



 精神的な闘いを繰り広げる工口。



「工口さん……。もしかして、心の病気なんですか……」



 ゴスロリ少女と褐色シャーマンが見えず、気狂いにしか見えない行動に。

 ペドは工口の心配を始めた。

 近頃の連戦は意外に心を痛めていたのかもしれない。



「シャーマンさん。このまま張り合ってもしょうがないでしょう。諦めたらどうですの……!」



 更に、更に胸を大きくするゴスロリ少女。



「あッ……! アンタこそ……ッ! ナイトくんは渡さないから……っ!」



 更に、更に、更に大きくする褐色シャーマン。



「諦めて下さい……」



 更に、更に、更に、更に大きくするゴスロリ少女。



「うぅ……/// 諦めてよぉ……」



 更に、更に、更に、更に、更に大きくする褐色シャーマン。



「おも……おもご……ごもご、きもち……」



 殆ど四つの肉塊に押しつぶされる、工口。



「逆に気持ち悪いわーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

「きゃ!!」

「あっ!!」



 ブヨブヨとした肉の海と化していた乳房たちは

 エロスというより、おぞましさとなっていた。

 心の芯からの拒絶は。

 洗脳からの脱却へと繋がった。



「……!」



 工口の絶叫とともに、どこか遠くの精神世界に弾き飛ばされるシャーマン。

 乳房をぶるるんと揺らしながら、彼方へ消えていく。



「!!」



 工口の頭に噛り付いていた歯の拘束が緩み。

 地面に落ちるゴスロリ少女の本。

 そして、どちらの幻影も掻き消えた。



「はぁ……はぁ……」



 正気に戻り、息を荒らす工口。



「工口さん」



 工口の隣に座り、背中をさするペド。



「……付き添いますから。一緒に病院に行きましょう。心の病気は風邪と同じで、おかしな事じゃないんですよ」



 ペドが言葉を選んで、工口を諭す。



「いや……ゴスロリ少女と褐色シャーマンと戦っていて。喫茶店で本が噛み付いて。ふたりのおっぱいが巨大化して、圧死するかもで……」



 ペドは電話で病院への予約を済ませた。



(あの時、突然の肉塊のおぞましさに反射的な拒絶をしたが……。あれは本心だったのだろうか? 少し良いかもとは思っていなかっただろうか)



 ペドは工口の手を引き、古びた教会を出て行く。

 無言でついていく工口。



(超乳……奇乳……。自分の中の信じられない自分が……こんな感情、どうすればいいんだ)

「どうすればいいんだぁぁーーーーーーー!!」



 工口は苦悩した。

 



        第四部   VSゴスロリ少女・褐色シャーマン戦 おわり。




*************************************

主人公・工口 現在習得済みの技



『乳頭クリクリ』

遠距離技。遠くから乳首を弄れる。イク寸前で止め、一気に放出で失神可能。


『ステータス・フラッシュ』

近距離技。突然ステータスを表示し、相手を驚かせる。暗所だと威力アップ。


『フィンガー・デード・W・ディギトゥス』

近距離技。クリクリと同時に直接乳首を弄る。16倍のエネルギーがあるという。


『HHハプニング』

移動技。エロ引力で近くの性的対象者に突っ込む。別名ラッキースケベ。


『女体八艘飛び』

移動技。HHハプニングを繰り返し使用し、性的対象者を跳び歩き高速移動する。


『童貞特有の発作』

持病。ムチムチボインから反射で退避する。一定時間、思考・コントロール不可。

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