第15話

白い少女は人里離れた洞窟に入っていく。



「あの子は知り合いなんですか?」

「うんや? 昨日初めて会っただけだが」



 工口とペドは女の子の後を密かにつけていた。



「それで脅すとか言ってるんですかっ! あんな年端もいかぬ子をっ!」

「お前が町に知り合いが一人もいないって言うから、しょうがないだろ!」



 ペドは基本、魔王城に引きこもっていたため。

 町に顔見知りは誰もいなかった。



「ふぇぇ……」

「おかげで昨日は野宿だったし……。ま、安心しろ。他人に対して不躾に行動するのはRPGあるあるだし」

「なんですかその理屈……」



 女の子に続いて、こっそり洞窟に入る工口とペド。



「それに昨日は一緒にウォーターゲームもした……。これは友達と言っても過言ではない」

「……うーん。一緒にゲームしたら、友人なんでしょうか?」



 一理あるかもしれないと、ムムムと頭を捻るペド。



「だから友情がある以上は、俺を助けなければならないんだ」

(少なくとも、こんな一方的なのは一番最悪な部類ですね)



  話していると、洞窟奥の広い空間に出た工口とペド。

 円形のような丸い広場になっている。



「自然物ではない……ものすごく人工的な空間ですね」



 滑らかに研磨された柱を触りながら、ペドが呟く。



「祭壇のようなものも見えるな……。もしかすると、邪教か何かかもしれないな」



 工口は顎に手を当て、考える。



「どうしてそう思うんです?」



 ペドは祭壇周りに、円状に並んだ八つの棺桶を遠目で確認した。



「それが……現在進行で俺が襲われているんだよ」



 工口の体を小型の黒い化け物たちが嚙みつきまくっていた。



「ここここ!? 工口さんっ!?!?」

「ぎゃぁあああ!! 痛でぇぇええッッ!!!!」



 大きさ、30cmほどの黒い化け物たちは工口の周りを取り囲み。

 既にもみくちゃの状況にしていた。



「離れろ! 離れろこのッ!!」



 工口が振りほどいても、振りほどいても。

 後から、後から湧いてきて工口に嚙みつき続ける。



(こ……この黒い生き物は、邪神の眷属なのでしょうかっ!? 確かにおぞましい姿ではありますがっ……)



 ペドは工口の惨状を観察する。

 すると、化け物の一人が口を開け。



「ジャシーン~! ジャシーン~!」

「!?」



 化け物の鳴き声は邪神そのものだった。



「何でもいいから、助けてくれ~っ!!」



 工口は黒い化け物に取り囲まれすぎて、ばくだん海苔巻きおにぎりのような球体になっている。



(!? 海苔巻き邪神おにぎり……。具材をジョロギアみたいな辛味ベースにして……。いけるかもっ!!)



 ペドは城下町のB級グルメのアイディアを思いついた。

 が、しかしどうだろう。

 昨今のB級グルメの粗製乱造ぶりはいかがなものだろうか。

 地元に根ざしていない安易な創作料理は、その軽薄さを気取られるばかりである。

 と、らーめん○遊記も言っている。



「……」



 そうこうしている間に、工口の声はしなくなった。



「こ、工口さぁぁぁんっ!!」

「あはは」



 気づくと、白いワンピースで白い肌の、白磁のような女の子が立っていた。

 黒い化け物を背にすると、それがよく映える。



「私たちの侵入に気づいていたんですかっ……?」



 問いかけるペド。



「だって、ショッピングカートの滑車がカシャカシャうるさいんだもん。気づいちゃうよ」



 当たり前のように答える白磁の子。



(無意識で押していたから、買い物のカゴの事を完全に失念していたな……)



 工口は化け物溜まりの中で納得した。



「……」



 勇者はカゴの上で相変わらず、ぐったりしている。



「それで……あなたはあれで何をするつもりなんですっ!?」



 ペドが指差した先には、八つの棺桶があり。

 よく目をこらすと、中に七人の人間が入っていた。



「あはは」



 白磁の少女は笑いながら。



「この七人は異界からの転生者なんだよ。転生や転移には莫大なエネルギーがかかるの。その残り香を……このアーティファクトで吸収しようってこと。そして――」



 白磁の少女はふわりと宙に浮き、八つの棺桶の中心。

 祭壇へと降り立つ。



「そのエネルギーを祭壇……この邪神像に集めようって計画なの。わかった? お姉ちゃん?」



 白磁の少女は、邪神像を抱きしめながら話す。



「……お姉ちゃん?」



 ペドは辺りをキョロキョロ見渡す。

 周りには、カゴに入った気絶した勇者と、化け物によって爆弾おにぎりになった工口だけである。



「お姉ちゃん……っ!!!!」



 お姉ちゃんと言われた対象が自分しかいないことに驚愕するペド。

 目上の人に対する敬いを受けたのは生まれて初めてだった。



「さぁ! 邪神子たち! その児童虐待者を連れてきてっ!」

「ジャシーン~!!」



 ペドの動揺の隙をつき、工口に取り付いた黒い化け物・邪神子たちは。

 協力して、工口を胴上げで担ぎ。

 その状態のまま全員同時にジャンプ。

 空いた棺桶まで一直線に跳んだ。



「うわぁぁぁぁぁぁッ!!」

「こ、工口さぁーーーーーーーん!?」

「ぐえッ!」



 胴上げの状態から、手を後ろに、投げつける体勢をとり。

 工口を棺桶へダンクでぶち込む。

 上からは蓋のように邪神子たち総出で、抑えつける。



「出せ! ヤメローーー!!」



 呻く、工口。



「あはは。わたしの頭蓋にチョップするからだよ」



 工口の様子を笑い上げる、白磁の少女。



(このまま、異空の神々の復活を――!?)



 白磁の少女は気づく。



「足りない!! 二人、足りなぁいっ!!」



 白磁の少女の目線の先には。

 棺に納められた転生者の喉笛を、ナイフで掻っ切る人間の姿があった。



「私は……転生者。転生者殺し……」



 今まさに、棺の二人目を殺しきった連続殺人犯が。

 自ら名乗りを上げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る