第12話

「ヒェェ……」



 勇者を倒した工口に怯えるペド。



ジュルジュル……



「ヒョェェ……」



 城壁を現在進行で迫り来る、タコ型星人にもビビる。

 タコと工口に挟まれて、四面楚歌なペド。



「……」

(思わずカッコつけてしまったが、俺はもうここを離れていいのでは?)



 勇者との戦いに勝利し、何となくスッキリした工口は割と怒りが冷め始めていた。



(あーでも、右肩痛てー)



 肩をさすり、右肩に目を落とす工口。

 すると、工口の視界外……魔王城上、葉巻型UFOから拍手する音が聞こえる。



「おーほっほっほっ! ど底辺文明人の殺し合いは、いつ見ても愉快なのね!」



 葉巻型UFOから、笑いながら現れた人物は。

 赤いワンピースに、ピンク色の髪。

 ゆでダコのぬいぐるみを持った小さな女の子だった。



「あー! よくも魔王城を穴ぼこにしてっ! 許しませんからねっ!!」



 ぷんすかと怒るペド。



「ほほほ! 生意気な口は聞かない方がいいなのよ。タコさんたちの触手いじめちゃうのよ!」



 命令を聞いて、バルコニーに降り立つタコ型星人たち。

 どうも、赤ワンピースの子はタコたちの首領であるらしい。



「ヒィィ」

「ほーほっほっほっ! 魔王城は火星国の第一植民地だって言いなさいのよ! 隷属して頭を垂れなさいのよ! おほほ!」

「こ、工口さん! 変な奴が……変な奴が、変な口調の凄い勢いでっ!」



 バルコニーの手すりに身を乗り出し、工口に助けを求めるペド。



(やっぱり、火星人なのか……。いや、確かに地球人だけ転生・転移するのもおかしな話ではあるのか……?)



 しばらく、緊急性のないことを考え。



「……いやでも俺は関係ねーし。達者で暮らせよ、ペドよ……」



 工口は、魔王城を後にする。



「ぎゃぁぁ!! 工口さぁーーん!」



 背中にペドの絶叫が響いた。



「……」



 ペドに対しては、もはや怒りよりも憐れみを感じ始めていた。

 右肩の痛みもあるが、魔王城を離れる足取りは一歩、一歩が重かった。



「……」



 しかし、理由もなく全てを水に流せるほど。

 工口は人間が出来ていなかった。



「……」



ブチュッ

「!」



 足元に柔らかい何かが潰れた感触を感じる。

 靴の裏を見ると、大きめの芋虫を踏んづけていた。



「うわー……」



 近くの小石で張り付いた芋虫を刮ぎ撮ろうと。

 片足を上げたまま、周りを見渡す工口。

 その時――



テンテロリン

「!」



 頭の中に軽快なリズムが流れた。



「ペド」



 距離的に届かない声で呟く。



「お前を助ける理由が出来たぞ」



 魔王城に向き直し、早足で歩き出す工口。



「ペドォォ! 結界を開けろぉ!」



 今度はペドに聞こえる声で叫ぶ。



「えっ!? はっはい!」



 ペドは結界を一部解除し。

 工口は走り出す。



(右肩は勇者さんの打撃……。乳頭クリクリ強行使用のダメージが残ってる……! 左でやるしかないか……!)



 結界をくぐり抜け、バルコニー下にたどり着く工口。



「ほほほ! 隷属しないのなら、その両脚をちょん切って土下座させるまでなのよ! タコさんの触手は鞭のようにもしなるんだからっ!!」

「いっ……嫌っ!!」



 高笑いするタコ首領。

 ペドはすでにタコ型生物の触手の届く範囲に入っている。



(老朽化したバルコニーならば……ッ!!)



 鞭のようにに繰り出される触手。

 しかし、常日頃から無意識に腰の銃火器に触れている、工口の方が確実に速かった。



「デザートイーグルで……」



 ぼそりと呟き、左手で銃を放つ工口。

 ガウンという音よりも早く、バルコニーの手すりのポールを破壊する。



「!?」

「ジュッ!?」



 ペドは触手をギリギリのスウェーで回避し。

 手すりが壊れ、体勢が崩れた状態そのままに地面へ落下する。



「あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!」



 ここで、銃声が皆の耳に響き。

 ペドはそれを聞きながら悲鳴を上げる。



(右手が使えない以上、片手でやるしかねぇ!)



 地面に直撃するペドに左手を伸ばす工口。



「か゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!」



 ペドを受け止めた衝撃で見事に粉砕される左腕。

 その圧で持っていた銃の引き金を引いてしまう。



「な゛の゛よ゛お゛ッ!!!!」



 暴発した銃弾はタコ首領の頬をかすめた。



「痛い、痛い、痛い、痛い……」



 地面にぶつかる寸前のペドをキャッチした勢いのまま。

 ペドを抱き込んで、転がり逃げる工口。

 回るたびに、右肩と左腕を強打する。



「!? しまっ……! あいつらを……っ!」



 タコ首領は部下に命令を出そうとする。

 だが、頬の銃創に気を取られたのが、運の尽きであった。



「ペド!」

「けっ……結界封鎖っ!!」



 ペドは工口の意図を感じ取り。

 一部解除していた結界を再び封鎖した。

 二人は魔王城から、転がって脱出し。

 火星人たちは結界内に閉じ込められた。

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