第4話

互いに呼吸を落ち着け、紅茶2杯にテーブルを囲む二人。



「でも勇者の方々はどうするんだ。大体なんであそこにいるんだあの人たちは」



 慣れない手つきでティーカップを持つ工口。



「魔王城最深部の結界前でキャンプしているんです。もう二ヶ月いるんですよっ」



 紅茶に多量のミルクを入れるペド。



「じゃあ本当に魔王討伐隊なんだな。心構えが違う。窓からは出れないのか?」

「ハァー……」



 大げさにに肩をすくめるペド。チッチッチッと指を振り。



「知らないんですかぁ? 固定式の結界はどこでも出入り自由じゃないんです。だからぁ、内からも外からも通行禁止にして絶対強固な堅壁を……」

「その一番柔いところを責められとるんでしょうが!」



 工口はカップをテーブルに叩きつける。

 が、まずいと思って寸前で止めた。



「くっ……」

「ふぇぇ……で、でも計略はあるんですよ。ほら手をかざして!」

「……」

「かーざーしーてー!」



 ペドは強引に工口の手を取る。



「うわぁ……手汗やばいですね」

「さっき、こぼした紅茶だよッ!……それで?」



 ペドは目を輝かせ。



「ステータスオープンですよっ!」

「すてーたすおーぷん……?」



 工口が慣れない組み合わせの言葉を口にすると、手のひらの前に沢山の文字と数字の書かれた物体が出現した。



「なっ、なんだ。このやたら光源の明るい文字列の石板は」

「くふふ……」

(無知な人間に教え諭すのは気持ちが良いですね……)



 顔全体でニヤつくペド。



「えーおほん。ま、石ではないですが。この左側のスキルポイントってのを見てくださいね」

「0ですが」

「え?」

「ポイントが0なんですが」



 数字を見るペド。



「…………あり?」

「アリじゃねぇ! ナシだよ! どうせ都合のいい魔法を習得させて、うんちゃらら~って感じだったんだろうが……というか0なんて有りうるのか」

「しょ、初期の割り振りスキルポイントはそれなりに余裕があるはずなんですが……あっ乳頭か」



 工口は嫌そうな顔をして。



「……クリクリの?」

「スケベとはいえ、魔王体系の秘術ですからスキルポイント消費量が多かったのかも」

「あんなのがそうなのか……」



 分かりやすく、落胆した。



「む。仮にも王族の技なんですよ。バカにしないでください!」

「そんな場合か!」



 瞬時に、乳頭クリクリを放つ工口。



カスッ

「あれ!?」

「てい」

「あだ!」



 工口の技は不発し、頭部にペドチョップが突き刺さる。



「MPが限界のようです。あなたのレベルではこんなものですねっ! きゃはは!」

「……」



タァーーン



「……ノーモーションでピストルを撃つのはやめてくださいね」



 射撃音が残響し、ペド後方の絵画の脳天に穴が開く。

 工口は密かに短銃を盗み、腰に差していた。



「丁度良い、小型動物用のものが壁にあったもので……それで打開策はあるのか」

「うーん。レベルを上げてポイントを貯めるのが近道でしょうか。その為には敵を倒して経験値を集める――」



タァーーン



「何かにつけて殺そうとしてますよね! ねぇ!!」

「あっ安全装置がないからつい……」



 ペドは工口の胸ぐらを掴み、揺らす。 

 工口はさりげなく空薬莢を捨てる。



「ともかく! 経験値稼ぎは私以外でやって下さいっ! ダメ!」



 体の中心で手をバツにするペド。



「でも敵もいないのにどうレベル上げするんだよ」

「……布団にダニくらいいるんじゃないですか?」

「……」

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