5.
「ナイスシュート!」
心がじわりと熱を上げた心地がした。
「罪悪感?」
「……うん、ちょっと」
瀬川君は徐にポケットからスマホを取り出して、私に画面を見せる。
「朝焼け」
濃い藍色とオレンジに似た赤。グラデーションの空。
私が知らない朝だった。
「本物は、もっと綺麗なんだよ。嫌なこととか全部忘れられるくらいに」
瀬川君は、私が罪悪感に苛まれたのだと勘違いしたみたいだ。けれど私の心は、そんなによく出来てはいない。
返事に困って「そうなんだ」と返す。その間、彼は自分の方へ画面を戻して、ぼうっとそれを見ていた。瀬川君はいま、何を忘れたがっているんだろう。
本当に何もかもを忘れられるならいいね、そうやって心の中で呟くと、ふいに視線を上げた彼と目が合った。
「どうして朝が苦手なの?」
言葉にしようとしたことのないその答えを、喉の中で組み立てる。
とっくに終わったプリントの端を不必要にぺらぺらと触りながら、瀬川君を見もしないで答えた。
「……何かが始まるのって、好きじゃないから」
その時、チャイムが鳴って私ははっとした。
いつの間にか自分のことを話しすぎているんじゃないかと気がついて、私は焦った。
「あ、私、そろそろ帰ろうかな」
片づけを始めたけれど、瀬川君が「相沢さん」と言うので手を止める。
「今度、相沢さんも見てみてよ、朝焼け」
嫌だ。
喉元まで出かかった言葉を誤魔化して、私は鞄を肩にかけながら「うん」と返した。
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