保身で食べてく美味しいごはん

黒く焦げた人間が映った映像なんてもの、見続けていられるはずもない。僕らは全員モニターから目を離した。僕らの様子を見たピエロはモニターの映像を切った。僕らは黙りこくってしまう。いっそのこと死んでしまっても構わないとさえ思い始めてきた。人が残酷に殺されるシーンなんて視界に入れたくない。圧死・爆死・暴行死・失血死・窒息死・毒死・焼死、次に誰か死ぬ時の死因は今あげた七つ以外だろうな。死ぬ可能性あるとしたら空羽ちゃんぐらいかな。問題を出された時あっさり死んじゃいそう。言うて僕も危ういんだけどね。自分の罪を然程理解していない。僕が死んだとして、誰か悲しむのかな。別に僕は悲しんで貰え無くてもね。次のゲームで生死が決まる人がいる。自分かもしれないけれど、ゲームの内容によるかな。

「次のゲームをするよ。」

次は何だろう。僕が勝てるゲームだったら良いけど、今回も誰かの得意分野がゲームになってる可能性は無きにしも非ず。僕にチャンスが訪れるゲームっていずれ来るのかな。僕はいつになったら脱出出来るんだろうか。

「次のゲームはワンナイト人狼」

人狼ゲーム、絵馬さんの得意分野だ。今回は絵馬さんが勝つのかな。人狼ゲームなんて動画で見た事あるぐらいだしね。自分でしたことは無い。人狼ゲームの心得とかも知らないし、人狼ゲームで知ってるのは役職概要ぐらいだな。

「人狼が勝ったら人狼が解答権を得る。市民が勝ったらMVPを市民で相談して決める。選ばれた人が解答権を得るよ。」

僕らは今いるスタジオに用意された円卓の周りに急設された椅子に座る。椅子の前には他の人から見えない様に設置されたモニターがある。ピエロってモニター好きだな。大体のゲームでモニター使うぞ。モニターって一台何万だろ、画質いいし結構高価っぽい。

「皆座ったね。モニターに役職が表示されるよ。」

僕は『市民』か。市民三人狼一の配役なんだね、人狼は怪しまれたら終わりだな。でも市民が怪しまれる行動した時点で人狼は勝てるのか。僕も気を引き締めなければ。僕のせいで負けたら非難轟々だ。絶対に戦犯になってはダメ。

「昼です。人狼を探して村から追い出してください。」

ピエロの丁寧な時報。まずは何から話せばいいんだろう。適当なこと言ったら怪しまれる。でも口を開かないのも怪しまれる要因になる。話す事無いな、占い師とかいれば占い結果から議論を発展させられるのに。

「この中に人狼は一人。25%の確率で当たるね。でも俺が100%当てるから俺を信じてくれるかな?」

わお、絵馬さんのファンサ炸裂してる。本当にイケメンだよね。絵馬さんが人狼なら一番最初に口を開きはしないかな。理由は絵馬さんの動画で見たから。

「信じる。」

相変わらずの無愛想を振りまいて絵馬さんを信じると公言した空羽ちゃん。僕も信じるから過半数の票は絵馬さんが得たのか。絵馬さんの人狼スキルなら100%当てるのも不可能じゃない。動画で霊能者になって進行していた時も狼を絶対撃ち抜いてたしね。

「今のところ怪しいも何も無いからね。まあ喋らない人は狼になって困ってると取れるかな。絺晃くん?」

有馬君に目を付けたか。有馬君は嘘つかないと思うけど、人狼っぽいなら追放対象に選んでもいいかな。人狼は解答権を争奪するためのゲームだから追放されても大丈夫だし。

「俺は市民だから。絵馬さんこそ皆を扇動してて怪しいんじゃないですか。」

言われてみれば絵馬さんは僕らを扇動しようと画策して発言しているかもしれない。でも絵馬さんは市民な感じがするんだよな。狼が裏で市民を操ろうとして発言している雰囲気では無いし。

「有馬でいいでしょ。」

無愛想に言い放つ空羽ちゃん。有馬君を追放したいのか、僕は怪しい人なら誰でもいいからな。でも追放対象にするほど怪しい人なんていないよな。ここは絵馬さんや空羽ちゃん、有馬君の意見を聞いて判断するか。

「夕方です。追放する人を指名してください。」

もう投票時間なのか。どうしよう、思っていたより時間が無かった。誰か追放対象の指示をしてくれ。僕だけでは判断出来ない問題だから。

「俺は有馬君に入れるね」

なら僕も有馬君に投票しようかな。流石に空羽ちゃんが狼は無いだろう。空羽ちゃんが狼だったなら、絵馬さんは確実に市民だと分かっている。絵馬さんに乗っかっるのはリスクが伴う。だから空羽ちゃんは違う。有馬君か絵馬さんは判別できない。

「私も有馬君に入れる。」

モニターで選んで投票できる。有馬君を選んだ。

「追放される人が決まりました。有馬 絺晃を追放します。」

有馬君はモニターを凝視している。僕のには何も表示されていないから有馬君だけかな。有馬君が狼なら市民の勝ちだ。有馬君が市民なら負け。夜が来るか否かだ。何も起きない夜が来て朝になれば市民は勝ったと言える。

「夜になりました。人狼は襲撃をして下さい。」

スタジオの電気が落とされた。モニターを操作している人間が分からない様にするためかな。狼が残ってるって事は市民側の敗北。狼が解答権を得るのか。

「綴 廬が襲撃されました。人狼と市民が同数になったので人狼の勝ちです。」

人狼は絵馬さんか空羽ちゃんのどっちだ。この二人なら絵馬さんっぽいけどな。

「人狼は岸田 絵馬さんでした。今回解答権を得たのは岸田 絵馬さんです。」

絵馬さんが人狼だったのか。妄信してしまっていたな。有馬君と空羽ちゃんは市民、有馬君には悪い事をしてしまった。解答権は勝った絵馬さん。絵馬さんの罪がピエロの出題する問題で分かる。何をしたんだ、絵馬さん。

「さて問題だよ。貴方は不用意な行動で女性を傷つけた事がありますか?岸田 絵馬君、いや野々市 七海君。」

野々市 七海?絵馬さんの本名か?絵馬さんの個人情報は学歴以外、有り得ないほど判明しなかった。本名があっさりとクイズでバレるんなんて。ピエロは僕たちの事をどこまで詳しく調べつくしているんだ。罪の事と言っても、僕の薬物乱用なんて知っているのは僕と学校で一緒に使ってる友達ぐらいだ。

「俺が女性を傷つける?なんの冗談かな。俺が女性を傷つける事無いよ。」

絵馬さんは何をしたんだろう。女性を傷つけたって二股してたのかな。絵馬さんぐらいの男性ならさぞかしモテるだろうから、二股してても変だとは思わない。

「本当かな。君の悪事は世間に露呈してないだけで相当酷いよ。青春を謳歌したい少女の生活を壊したんだから。君は何度女性を妊娠させたか覚えてる?」

絵馬さんが女性を妊娠させた?でも絵馬さんには彼女や奥さんがいるなんて話聞いた事が無いけれど。少女の生活を壊したって、中高生ぐらいの女の子を妊娠させたって事?でも妊娠させるなんて大層な事世に出回らないはずがないじゃん。本当ならどうして誰も知らないんだ。

「黙っていても無駄だよ。君がしてきた事は知ってる。オフ会と言って女性・少女を呼び出しては行為に及んだ。挙句、避妊もろくにしなかったから相手が妊娠してしまうと中絶してとだけ言って捨てる。」

絵馬さんが本当にピエロが今言ったことしてるならマジのカスじゃん。中絶ってどれほど負担がかかると思ってるんだよ。精神的にも身体的にも多大な負担が女性にのしかかる。中高生なら成人女性以上の負担がかかる。意味わからない。僕が憧れてきた人の本性は余りにも非道な人間だった。

「中絶費用っていくらか知ってるの?15万800円だよ。君は今まで一回も払ってこなかったよね。僕が調べただけで君が妊娠させた女性、二桁はいるよ。」

中絶費用って15万も掛かるのか。10人以上妊娠させて一回も払っていない…捨てたって事だね。今まで処刑された人たちは人を殺していた。でも絵馬さんには無責任な行動で出来た子供がいる。10人以上もの命が産まれる事も出来ず消えた。

「だから何だよ。向こうが承諾したんだから俺だけ責められても困るんだけど。」

優しい絵馬さんの姿はなかった。普段とギャップの大きすぎる姿。ギャップ萌えとかあるけど、絵馬さんのこの姿はさしずめ『萌えないゴミ』と言ったところだろうか。

「七海君が妊娠させたせいで高校や大学受験が受けられずに未来が壊れた子もいるんだよ。彼女たちは一生君を恨んで後悔して生きていくんだ。自分のした罪を省みるんだな。」

ピエロの𠮟責。絵馬さんは罰悪そうな顔をしている。彼ほど人気なら世間体って物があるんだろうけど、認めずに開き直る姿には幻滅した。絵馬さんのせいで急遽受験が不可能になった少女は今もこれからも辛いだろう。なのに認めないうえに責任転嫁なんて…

「何様のつもりだよ。お前も散々人殺してる癖に偉そうなことたれてんなよ。」

ピエロに悪態を吐く絵馬さんは狂犬のような目をしていた。絵馬さんも処刑されるのか。結局は嘘に塗れた汚い人間だったな。保身のために妊娠した女性に中絶させて、15万もの費用を一円も払わない。

「何年刑務所に入れても更生しなさそうだね。野々市 七海を処刑する。」

スタッフが絵馬さんを連れていく。絵馬さんは嫌がって振りほどく。力が非常に強く、数人では抑えられないと判断したのかスタッフが追加でやってくる。絵馬さんは一体どれほど苦しんで殺されるのだろうか。僕らは渋々とモニターへ目を向ける。記者会見の主役の場に座る絵馬さん。謝罪会見でも強要されているのだろうか。絵馬さんの体には点滴のようなものが繋げられていた。

「今まで迷惑をかけてきた女性のTwitter名を全部言えるのか?制限時間は五分。」

ピエロが宣言すると絵馬さんの頭上に設置されたタイマーが秒読みで減っていく。絵馬さんは淡々と女性の名前を述べる。どんだけ迷惑かけてるのかと思うほど女性の名前が出てくる。姫が付く名前が多いのは気のせいかな。いちご姫って名前をTwitter名にする女性なんて地雷でしょ。絵馬さんが迷惑かけたのって地雷感漂う名前の人ばっかりだな。絵馬さんは10人近く名前を挙げたところで黙った。表情が段々と焦りへと変わっていく。もしかしてまだ残っているけれど思い出せない?絵馬さんの頭上にあるタイマーは残り30秒を示す。刻一刻と迫る終わりの瞬間。絵馬さんは頭をひねって必死に思い出そうとしているが、無情に終わりを告げるタイマー。タイマーが鳴った瞬間に、絵馬さんは顔を歪めた。倒れ込んで必死に手を伸ばす、悶える表情が鮮烈な絵となって僕らに訴えてくる。苦悶に歪む絵馬さんの肖像画。誰にも助けられるはずもなく10分ほど悶えて動作を止めた。顔は丸めた紙の様になり、どれほど苦しんだのか目に見える。外傷は全くと言っていい程無い。しかし苦痛に苛まれて死んでいった。

【岸田 絵馬 (野々市 七海)  脱落  処刑完了】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る