焦げようと焼けようと踊り狂う

三人目の解放者が出た。残りは僕と有馬君に絵馬さん、空羽ちゃんに魁街ちゃんだ。もう誰も死んで欲しくないけれど、一人は確実に死ぬといっても過言じゃなさそうだな。特に空羽ちゃんとか辺りは罪を突きつけられても認めなさそうだし。魁街ちゃんも不確定な要素を多く感じる。次のゲームでは誰が選ばれるんだろう。ゲームは遠回しに生死の有無が問われる。解答権を得られて生き残れそうなのは絵馬さんと有馬君かな。有馬君辺りは自分の罪を噛み砕いて向き合っていそうだけど、参加者として集められているのなら更生しているとはみなされていないのか。僕も自分の罪を深くわかっていないとまずい。薬物乱用ってだけなのかな、薬物乱用に関係した罪が他にあったはず。何故罪が理解できないんだ。薬物乱用に関わるものだってのは覚えている。まだ思い出せない。僕は罪から逃げてきたから思い出せない程、記憶に鍵が掛かっているのだろうか。早く解除しないとだめだな。逃げずに立ち向かって受け止めなければ僕は変われない。逃げるなよ僕。思う事は簡単なんだ、行動に移せるのが大事なんだ。次のゲームにいくら望みが無くても僕は諦めない。

「次のゲームは視聴者投票。投票してもらう内容は、退場しても構わない人だよ。」

退場しても構わない人、僕に解答権を得る機会が巡ってきた。でも、僕が必死に努力したってどうにも出来ないゲームだな。手を打たないと何時までも解答権は巡ってこない。僕の頭で思いつけるのだろうか、要するに次に問題を出す人は民意で選ばれる。退場しても構わないと思われればいいってこと。何もしなくても僕は選ばれそうなんだよね。絵馬さんが選ばれるなんて天変地異だし、空羽ちゃんは容姿が綺麗だから皆投票は避けそう。残るは魁街ちゃんと有馬君、僕の三人。魁街ちゃんはまだ若いし目を引く存在ではある。有馬君も行動が男らしいしな。パッとしなくて冴えない僕が選ばれる予感。

「今から30分の投票時間を設けるよ。一番得票数が多かった人に解答権が与えられる。投票と集計完了まで今から30分。僕が呼ぶまではスタジオで自由にしてていいよ。」

突如与えられた空白の30分。急に設けられた自由な時間。さっきまでお化け屋敷を進んだり、障害物登山してたのが嘘みたいに思える。誰かに話しかけてみようかな。女の子に話し掛けるのは怖気づいてしまうな。じゃあ有馬君に話し掛けるべきかな。絵馬さんに話し掛ける勇気も皆無だし、難しいから。有馬君にさっきのお礼も兼ねて話しかけてみよう。

「綴君、苦手なお化け屋敷がゲームになって災難だったな。」

有馬君は優しい言葉で僕に応答してくれた。砂漠に咲いた一輪の花の様に見える。殺伐とした場所に少しでも優しい人がいると極度に安心感を感じてしまう。僕は自由時間の間有馬君と話していようかな。迷惑そうな顔されなかったし話を続けてても問題ないんだよね。

「そういや、絵馬さん凄いよな。俺も動画見てて知ってたけどさ、魁街ちゃんと空羽ちゃん、二人共絵馬さんと話してる。」

空羽ちゃん程容姿の整った女子にでも好かれてしまう絵馬さんは羨ましいな。絵馬さんも端正な顔立ちだし、天は二物も三物もって言うか、不公平だよね。僕も絵馬さんみたいには到底なれないな。与えられた才能の違いかな。僕ら庶民とは全然違う生まれ持った才能があるんだろうな。

「俺らも絵馬さんに話し掛けてみない?絵馬さんなら快く応じてくれると思うしさ。」

絵馬さん程心の広い人なら僕みたいな何の変哲もない一般人が声を掛けても笑顔で対応してくれそうだな。有馬君に着いて行って絵馬さんに話し掛けてみようでも僕、絵馬さんと話がかみ合う様なネタ無いぞ。口から魂抜けていきそう。絵馬さんと話せるなんて喜んでいた僕がバカだった。

「君達は廬君と絺晃君だったよね。よろしくね、絵馬だよ。」

僕らの名前を覚えていてくれたんだ。僕らの名前を知れる機会なんてピエロが紹介した時だけだったのに覚えてくれてた。嬉しいな。やっぱり絵馬さんは特別な人だ、凄い人なのに偉そうに振舞ったりしないし、皆に優しいし。絵馬さんと会ったなんて自慢になるな。握手とかして貰えないかな。

「大変だとね。こんな事に巻き込まれちゃって。残ってる男子で話していようよ。」

歓天喜地だ。あと20分ぐらいの間絵馬さんと喋れるなんて。しかも向こうから誘って貰えた。絵馬さんみたいな有名人と話してるんだ僕。絵馬さんと噛み合う話なくて不安だったけど、絵馬さん僕らの話も分かってくれる。オフ会みたいだな。楽しすぎる。こんな形じゃ無ければもっと素直に喜んで入れたのにな。

「絵馬さんって悪い噂聞かないですよね。」

有馬君がさりげなく絵馬さんをフォローする発言をする。確かに、絵馬さんに関する炎上や騒ぎは一度も聞いた事が無い。ネットで経歴について調べてみたけど何一つとして悪い噂に関する記事は見当たらなかった。絵馬さんの学歴がバレていることには驚きを隠せなかったけれど。

「悪い噂…?あ、そうだね、俺は行動には気を付けているからかも。」

最初、口ごもった様に聞こえたのは思い違いかな。絵馬さんにもやましいことは有るのかもね。まあクイズの参加者に選定されてる時点で罪があるから当然だけど、今の口ごもったのが焦りと感じたのは考え過ぎなのか?

「はーい!皆さんお待ちかね、集計結果が出たよ~」

決まったのか。僕が当たりそうな感じだけれどね。絵馬さんは無いと考えて良さそう。零宮さんとかも残っていたら皆は除外して投票していたのかもね。

「中央モニターに一斉発表!」

1位.花園 魁街 約60万票

2位.綴 廬   約36万票

3位.有馬 絺晃 約34万票

4位.西塔 空羽 約30万票

5位.岸田 絵馬 約10万票

「今回解答権を得たのは花園 魁街ちゃん。」

意外にも魁街ちゃんの圧勝だったな。僕と有馬君が2万票差か。形式的には僅差に見えるけど2万票も差があるんだよな。僕は約36万人の人達に退場してもいいって思われてたんだ。絵馬さんが退場すれば良いって思ってる人も約10万人いるんだな。ゲームは僕ら何もしなかった。解答権を得たのは魁街ちゃんだから、今回は魁街ちゃんの罪が、クイズで開示されるのか。

「問題!騙した挙句、病気になれば捨てるという身勝手な行動をした事はある?」

今回は罪がよく分かりにくい問題だな。魁街ちゃん目線は罪が分かっているだろうし彼女には通じるんだろうけど。結婚詐欺とか?でも病気の説明がつかないしな。

「うーんあるよ?お店の事でしょ。でもさ、大した事無いと思うんだよね。治らない病気じゃないし?」

魁街ちゃんの話を聞いても分からないな。彼女の罪は分からないけれど、彼女が全く反省してない事は理解できた。治らない病気じゃないから罹ってもいい訳じゃ無いと思う。後遺症残ったりする可能性も否めない、何の病気かは推測できないけれどね。肺炎とかは年を取ってから罹った時炎症を起こした部分が完全に治りきらずに再発しやすくなることも多い。

「君は何のお店を経営してたのかな?」

尋ねるピエロに魁街ちゃんは答える。

「まあ俗に言う性風俗店ってやつ?結構売れてたんだよ。何故なら美人を働かせているから。」

美人がわざわざ性風俗店で働いたりするかな。騙したって、性風俗店だと伝えずに働かせてたのかな。病気になれば捨てるって事は性病か?

「後から文句言う従業員もいたけど契約書に印鑑押しちゃってるから同意の上って扱いなの。病気になった従業員をケアして働かせ続けるより、解雇したほうが早かったんだよ。折角波に乗ってきたのにバレちゃったや。」

反省の色がまるでない。性病って後遺症とかあるのかな。詳しくは知らないけれどHIVとかなら治らないよね。でも彼女が治るって言及してたし、HIVでは無いのかな。

「反省の色が伺えませんね。花園 魁街を処刑するよ。」

現れたスタッフが手荒に花園さんを連れて行く。花園さんは何も言うまいと思っているのか抵抗も反論もせずに連れられて行く。僕らはまた処刑の中継が投影されるだろうと思って、モニターに視線を注ぐ。しばらくするとモニターに江戸時代の花街に似た風景が映る。

「花園 魁街は花魁になれるのか?挑戦スタート!」

座敷に佇む魁街ちゃん。女将さんらしき人にあれこれ指示を受けている。不服そうな顔を堪えながら指示を聞く彼女。面倒臭いと思っているんだろうなと、魁街ちゃんの思う事が表情だけで手に取るように分かる。花魁の身の回りの世話を手伝って必死に働いているが、不服そうだ。女将さんに幾つもの支持をされてこんがらがっている。花魁は優しく、魁街ちゃんを可愛がっているけれど何やら不満気だ。魁街ちゃんは花魁の世話や、おかみさんの手伝いに明け暮れていた。今すぐにでも逃げ出したいと思っている感じが画面越しに伝わる。とうとう嫌気がさしたのか、不平不満を綴った書き物を置いて逃げ出した。逃げ出した彼女を捕まえないはずも無く、彼女はあっさり捕まってしまう。店の人達は諦めたような顔で話し合っている。店の人達が魁街ちゃんに近付いていく。魁街ちゃんは身体に蓑を纏わされた。縄で身体に縛り付けた蓑へ松明の火が段々と近づけられる。魁街ちゃんがひゅっと息をのんだ瞬間に蓑は燃え上がった。途端に彼女の体は炎に包まれた。魁街ちゃんはのたうち回り、暴れまわっている。10分ほど火は燃え続け、落ち着いてきた頃に彼女の体が垣間見える。誰か判別も付けられぬ程に皮膚が爛れていた。それでもまだ息があった魁街ちゃん。曉壱君の時と同じように患苦に悶えて死んでゆく。火炙りは中々死ねないと聞いた事がある。魁街ちゃんに放たれた火が沈静化したのは着火してから20分後。皮膚が爛れているどころか、真っ黒に焦げていた。曉壱君の時の様に眼球が飛び出したりと、身体の形が変わってはいない。しかし、コンロで焼き過ぎた魚と同じ醜形を見せる魁街ちゃん。蓑踊りなんていう処刑法が、昔の日本では日常の様に行われていた。魁街ちゃんが受けたのも蓑踊りだ。人が黒く焦げる姿など見て楽しいのだろうか。僕には何も考えられない。

【花園 魁街  脱落  処刑完了】

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