黒を纏って白くなる

零宮さんで六人目。まだ残っている人間と同じ数になった。僕達は六人もの人間が死ぬところをモニター越しにとはいえ見た。それでも続けることを強いられるのか。もう何も見たくなどない。何故落涙を堪えてまでゲームを大人しく続けるのか、自分の行動さえも意味不明だと感じる。大人しくゲームを繰り返すのは、逆らえば更生の余地なしとみなされ処刑されるだろうという考えが僕を支配しているからか。僕は解答権を得られない、僕にとって意味をなさないゲームを繰り返す意味はどこにある。僕は人が死ぬのを見届けるためにゲームを続けるのか?結局は僕が意味を持った世界なんて存在しないのか?駄目だ、あまり深く考えて心を病んでいっても余計に思いつめてしまうだけ。

「処刑も滞りなく終わったし次のゲーム行こうか。」

僕らは山のあるスタジオから出る。また最初のスタジオに戻るのかと思いきや案内されたのは不穏な薄暗い雰囲気の漂う病院紛いの併設された建物。僕らは状況が読み込めない中、次に行うゲームの説明を受ける。イマイチ理解が追い付かないながらも説明を聞く。僕達の前にそびえ立つ病院紛いの見た目をした建物はお化け屋敷みたいだ。病院を舞台にしているから病院紛いの見た目なんだと。お化け屋敷にいい思い出は無いな。小学校の卒業遠足でお化け屋敷に入った時、恐怖のあまり動けなくなって引率の先生が助けに来てくれた。おかげで帰りのバスに乗った時には皆に広まって中学に入っても笑い話にされ続けた。今となってはいい思い出かもしれないけれど、当時は恥ずかしすぎて学校に行くのにも躊躇ってしまった。情けない姿を皆に見られてしまうのだろうか。

「普通に歩いていけば10分ぐらいでゴールできる道のりだよ。でも注意点がある。叫び声をあげた時点で振り出しに戻るからね。一番最初にゴールした人が解答権を得られるよ。」

叫び声をあげた時点で振り出しに戻るって、僕一生クリアできない奴じゃないの?歩いて10分の道のりて単純計算で約670メートルあるんだよ。670メートルも在るなら仕掛けも相当ありそうなんだけど。僕は地上波で痴態を晒すの?お化け屋敷好きな奴なんてドM以外に居ないだろ。

「六人同時に出発するけど、遅い人は置いていってもいいよ。可哀想だと思うなら助けてあげればいいけど。」

ピエロは一通り説明を終えると入り口を開き、僕らを次々に入場させる。有馬君、柳さん、僕、魁街ちゃん、空羽ちゃん、絵馬さんの順番で入場すると鍵が閉まる音が聞こえる。一つ目の部屋には電気がついていて、モニターから怪談話が流れてくる。病院が舞台のお化け屋敷にありがちな話だった。院長が患者を使って人体実験をしており、患者の怨霊が院長を憑り殺し、廃病院となった今でも怨霊が彷徨っている。怨霊系の話ってありがちだけど一番効果あるよね。僕は聞いてるだけで卒倒しそうなほど恐怖を感じる。

「貴方たちが訪れたこの廃病院が話の舞台です。ごゆっくりどうぞ。」

奥にある扉が開き、お化け屋敷の中が垣間見える。手の込んだ#現実味__リアリティ__#のあるセット。怨霊役の人もプロに頼んだりしてるかも。僕、精神的に生きて脱出できるかな。おずおずと皆についていく。なるべく下を向いて進んだ。下を向いて進んでいくといつの間にか人数が半分くらいになって腰を抜かしてしまった。

「綴君だったよね。絵馬さんと柳さんと魁街ちゃんは皆先に行っちゃったよ。」

度胸のある肝の据わった女の人が多いみたいだね。僕はこの場から動けそうにも無いのに。西塔さんが居ない理由は叫び声を出して振り出しに戻ったからとのこと。頭真っ白で何も考える事も見る事も聞くことも出来ない間に起きてることが非常に多い。

「君はお化け屋敷とか苦手なタイプか?俺は大丈夫だから出口まで一緒に行こう。」

金髪で怖そうだと思ってたけれど優しい人で良かった。誰かと一緒なら安心できる。有馬君に迷惑をかけないよう、しっかり着いて行かないと。もう5分は経ってるから後5分耐えれば出口が見えてくるはず。怖いな、目を閉じてるから視覚は機能してないけど、視覚が機能してないせいか聴覚過敏になっている。有馬君がいなければ今頃倒れて、担ぎ出されるところだった。担ぎ出されていたら本当に痴態を晒してしまうことになっていた。僕は辛抱強く、有馬君に着いて行く事だけを考えよう。あとどれくらいと考えれば考えるだけ出口が遠そうと思い込んでしまう。何も考えるな僕。

「綴君。出口見えたよ。でもまだ気を抜かないでね。」

最後の最後で特大仕掛けがあって叫び声をあげたりしたら水泡に帰すからね。有馬君ありがとう、君のお陰でクリアできそうだ。扉が開く音が聞こえて眩しい光が閉じた眼に差し込む。顔を上げるとスタジオだった。よかった、助かった。僕は有馬君に丁寧にお礼をする。後は空羽ちゃんか。絵馬さん、柳さん、魁街ちゃんは先に到着していて、僕たちが脱出した頃には出てきて大分時間が経っていた様子。空羽ちゃんは脱出できるのかな。叫び声あげちゃって振り出しに戻った子が一人でクリアできるほど温いお化け屋敷じゃ無かったっぽいし。

「はい、西塔 空羽ちゃんも脱出。これで皆出てきたね。」

空羽ちゃんは意気消沈といったところだろうか。完全に憔悴してしまっている。大丈夫かな、人が憔悴してる時の接し方なんて僕には見当もつかない。

「さっさと脱出した三人は知ってると思うけど、今回解答権を得たのは柳 真入ちゃん。じゃあ早速問題を出すね。貴方は口裂け女を模倣して人殺しを繰り返しましたか?」

柳さんも殺人か。でも大人しそうで自己主張が苦手そうな人が殺人を繰り返すなんて可能か?普通に話すのも苦手そうな柳さんに都市伝説を模倣して殺人を繰り返すなんて狂気じみた行為できなさそうなんだけどな。

「は…い‥私は人殺しを…しました。模倣した#理由__ワケ__#は、マスク…取れば分かると思う‥」

柳さんは自らの耳へとおもむろに手を伸ばしマスクを外す。マスクの壁で遮られていた口は、都市伝説の口裂け女の様に耳の近くまで裂けていた。確かに、口の傷が非常に似ているから模倣することも可能かもしれない。

「柳 真入ちゃん、模倣による殺人を始めた理由は?」

丁度よかったからとかいう回答が出てきそうなんだよな。皆何をしたか聞かれた時、頭が狂ったような回答が返ってくる。柳さんは例外であってほしいけれど。

「私‥虐待にあっていて。包丁で口を裂かれた…怪我が原因でいじめられた。辛かった…そしたら丁度口裂けの事知った。だから、私を虐めた人を狙って…模倣したの。」

虐待が原因だったって、親が娘の口を包丁で耳まで切り裂いた。他人の口を裂くのも相当の吐き気を催すのに、娘の口を裂くなんて人間に出来る行為じゃない。柳さん程大きく裂けたら痛みも尋常じゃ無いはずだ。病院には連れて行かなかったんだろうか。

「君は人を殺した事についてどう思っているかな。」

ピエロが真剣な面持ちと声色で柳さんに問う。柳さんは反省して良そうなんだよな。一方的に危害を加えられる人間の苦しさが分かるだろうし。

「私…後悔してる。殺したりはダメだった。お墓参りに行ってずっと謝る。それでも許されちゃダメな事。」

カタコトっぽい話し方が気になるけど話すのが苦手なタイプの人かな。柳さんは自分のした事を分かっている。零宮さんや紗和恵さんの様に開き直らなかった。東さんや神条さんの様に罪と向き合った。更生したとみなしてくれるのかな。分からないけれどきっとピエロは更生したとみなしてくれる。

「柳 真入ちゃん、今感じている気持ちを忘れないで下さい。柳 真入ちゃんを更生したとみなし、解放を開始します。」

スタッフがやってきて柳さんを優しく扱い連れて行く。柳さんはマスクを着け直している。柳さん、容姿の事で苦労する場面は多々あると思いますけれど、頑張って下さい。僕もあなたの様に逆境に負けず、自分に遭った悲劇を言い訳にして逃げたりしません。僕らは外に出た柳さんを投影したモニターに目を向ける。人が多いのは苦手なのか、都会の真ん中でおどおどしているけれど意を決したかの様に歩き出した。柳さんの姿はどんなに美しい女優よりも輝いて見える程活気に満ちていた。

【柳 真入  更生  解放完了】

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