檻で紡ぎ直す涙
綾瀬さんも死んだ。処刑されたのは五人目だ。ピエロは何がしたいんだ。ゲームをして解答権を争わさせて挙句の果てには不正解だったら処刑という横暴。皆死ぬんじゃないか、神条さんの様に外へは出られないのではないか。僕は死ぬのか?紗和恵さん、皇さん、真田君、桜木さん、綾瀬さん達の様に嬲り殺されて悪趣味なピエロや、権力者共の見世物として投影されるのではないか。罪がある参加者。僕の罪は薬物乱用、勿論犯罪だ。バレなきゃ犯罪じゃないけれど、僕は捕まらないか戦々恐々としている。クイズに間違えて晒し首にされた方が楽なんじゃないかとさえ思い始めている。ダメだ、弱さに負けるな。楽な方に逃げるな、神条さんの様に罪と向き合うんだ、僕。逃げちゃダメだ、きっと次もまたゲームをするんだろう。僕たちは罪から逃げちゃダメなんだ。
「さて処刑も終わったし次のゲームだよ。上から降りてくる模造銃を手に取ってね。」
本当に銃みたいな質感だ。僕は銃を触ったことは一度しか無いけど、銃の質感に似ていると思った。持っただけで感じる。胸が潰れそうな得体の知れぬプレッシャーが僕をを憑り殺そうと思案を巡らせている恐怖を。模造銃なんて物を僕たちに渡して何するんだろう。銃の扱いなんて全く知らないし、見当もつかない。
「皆受け取ったね。じゃあ説明するよ。弾は既に三弾装填されてる。君達が使えるのは装填された三弾のみだよ。」
三弾か。屋台の射的と同じだな、屋台の射的なんて絶対落ちないけど。ゲーム機器とか絶対取れないよね。威力が弱すぎて絶対に落ちない。僕たちが今持ってる銃の威力ってどれくらいなんだろうか。何口径かで大体威力はわかるかも。38口径≒9ミリメートルだったはず。僕らのは半分ぐらいだから小さめの銃かな。発砲したら実弾が出てくるのかな。暴発したりしないよね。鉛が詰められていて撃ったら怪我する、いや死んじゃうとか。怖いな、模造銃と言えど扱いには気を付けよう。いつ何時暴発するかしれない。
「君達には射的をしてもらう。10メートル先にある的を撃ちぬくんだ。銃は10メートルなんて距離悠々と飛ぶから心配ないよ。」
銃なんて撃てと言われて撃てるものじゃない。第一、訓練をしてない人間であれば撃った反動で弾の向きが依れるだろうし、10メートルも先の的なんて当てられっこない。今回のゲームも解答権は得られないのか。こんな様子じゃいつまで経っても解答権は得られないし、解放されることも出来ない。
「君たちの前に的を設置したよ。でも今回は解答権あっさり決まっちゃうかも。」
ピエロは僕らの素性を知っている。今の発言は参加者の中に、銃の扱いに慣れている人が居るって確証を得られるものだ。本当に解答権を得られる望みが無いな。毎ゲーム全て、誰かの得意分野だ。僕には他の人より突出して優れた得意分野なんて無い。やっぱり僕は無力な人間だ。
「君達の前にある的を一番に打ち抜けた人が解答権を得られるよ。」
ピエロが話し終わった瞬間に銃声が鳴る。早撃ちのゲームじゃないんだから焦らずに横転されてる三弾の銃弾を大切に使った方が良いんじゃないの。今みたいなペースで撃ってたら直ぐに無くなっちゃうよ。
「早いね。もう解答者が決まったよ。解答権を得たのは東 迅都君。」
何の迷いも無く銃を撃ったのは東さんだったのか。銃の扱いに手慣れてないと10メートル先の的を貫通させるなんてヤクザとか裏社会に関連する人じゃないと不可能だ。初手の問題でドスについて即答していたしさ。
「じゃあ問題出すよ。東 迅都君、身内の命を蔑ろにした行為をしましたか?」
神条さんと似たような問題だ。命を蔑ろって事は見捨てたのか、悪意を持って殺害したのか。間接的か直接的にかは不明瞭だけど、人の命を奪う行為に助長した。考えてみたら皆の罪って殆どが殺人じゃないか。猛省できなかったら処刑されるべき罪って殺人って思っているんだろう。
「はい、俺は母の親戚や父の親戚を殺害しました。」
直接的に命を奪ったのか。彼は殺人を認めたけれど、処刑されるか否かはまだ判断できない。開き直ったり、正当化したりしたら処刑は免れられない。東さんは次どんな行動に出るんだろうか。
「俺のせめてもの罪滅ぼしです。聞いて貰えませんか。」
東さん、僕は聞きますよ。処刑された人たちと違って省みるつもりがあるならいくらでも聞きます。周りの人達も、いいよという顔をしてるし、ピエロも大人しくしている。
「大丈夫そうですね、ありがとうございます。俺は殺し屋です。依頼を受けたんです。その方たちを殺す依頼が。
幼い頃から俺を大切にしてくれた親戚の人。でも断れば俺の命が危うかった。結局は保身のために殺しました。」
殺し屋なら刃物をドスという事を知っていてもおかしくは思わない。何故彼は殺し屋になってしまったのだろうか。優しそうな雰囲気を持った彼が殺し屋だなんて信じたくない。保育士でもしてそうな彼が殺人に手を染めている。正しく生きる方法を見失ってしまった。でも正しい生き方ってなんだろう。
「俺は依頼だからと、自己弁護をして逃げました。身内の命を奪い、顔も知らぬ他人の命を屠り去りました。死ねば悲しむ人が居る人の命を掠めた。何度も何度もです。」
きっと東さんは過去に大きな悔いを残してきた。僕らに寄り添われても同情としか思えないほど棘だらけの道を、進んできたのだと思う。知らない人間の命を奪う事は酷く胸が痛むはず。そんな重石を彼は幾つも背負っているんだ。
「俺は三人以上を殺している。今の状況はテレビで放送されてるなら俺の罪は公になりました。外に出ても捕まり、死刑になります。しかし、俺は逃げない。殺人の罪は決して消えない、俺は死んで償うという軽率な発言もしない。ただ、二度と痛ましい事件が起きない事を願うだけだ。」
日本の法律では三人以上殺せば死刑の可能性が高いそうだ。殺し屋なら依頼で多くの人を殺めてしまっただろう。彼が死ぬのはどちらにせよ確定に近い。僕は多くの人を殺した彼を助けたいと思ってしまっている。何故かは僕にも分からない。彼に死んで欲しくないんだ。
「俺が許される日は永い月日が経っても訪れやしない。俺が犯した犯罪を風化しないで伝えてくれる事が唯一の望みだから。罪から逃れず向き合い続ける。遺族に苛まれ続ける事が俺の償いだ。」
格好いい人とは品行方正であるだけじゃないんだ。彼を見ると本当の格好いい人の在り方が分かるかもしれない。確かに彼は世間から睨まれる行為を何度も繰り返した。でも悔いて懺悔して悔恨の念を抱いている。神条さんや東さんの様な強さが僕にもあれば薬物乱用なんてしていなかったのだろうか。
「到底許される行為ではない。でも貴方は自分の非に苛まれ、償おうとしている。東 迅都の解放を開始。」
スタッフがやってきて東さんを優しく連れて行く。東さんは安らかな顔をしていた。泣いていたかもしれない。僕にはもう分からなかった。東さんが遠く、奥へと消えていく。残った全員東さんの方を見つめていた。外を出たら捕まるだろうけれど、逃げずに罪を受けとめる。僕たちはピエロに言われて中央のモニターに視線を注ぐ。解放された東さんが映っている。儚げな笑みを浮かべた彼、周りを見渡している。先が不安で仕方ないだろう。捕まり、死刑になる事が確定した未来がある。東さんは警察に見つけられ手を引かれていった。赤子の様に駄々をこねたりせず大人しく捕まった。死刑になって死ぬ事で罪を償う事になるのかは分からない。生きて社会に貢献する活動を行わせた方が死刑より罪滅ぼしになるのではないか。自らの罪を悔いて認めた神条さんと東さん。罪から逃げ出し正当化した紗和恵さんに皇さん、真田君に桜木さん。後者たちは何を望んでいたのか。どんな思いを抱いて自らの罪を正当化したのか。僕には分からない。同じ状況に置かれた時、僕が自分の正当化することになれば分かるだろう。分かりたくはない感情だけれどね。僕は強い人間になりたい。彼らの見せた姿を忘れない。
【東 迅都 更生 解放完了】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます