謀る者の数刻見た夢

四人死んだ。クイズに間違えた人たちが四人死んだ。あんまりだ。死んだ四人は軽率な行動によって人を殺めた。真田君に至っては不特定多数の人が被害を被っている。少なくとも彼らの無思慮な行為で四人以上の人間が尊い命を失っている。圧死、爆死、暴行死、失血死、悲惨な死体達を何故四回も見なければいけないんだ。でもきっとまだ終わりはしない。あと何回見ればいいんだ。僕は顔を知っている人間たちが生きていた時の見る影もない姿形。理不尽な理由で命を奪われた人に対して思う事は同じ。君に存在意義は無かったのか。生まれてしまった事さえ不憫に思ってしまう。人がした悪事をそっくりそのまま悪事に手を染めた人にやり返していれば、殺人をした者は皆死んでいるだろう。でも刑務所で生きてる人もいる。更生の余地なんてたった一つの問題で分かる訳無いじゃないか。

「また死んじゃったね。いい加減学習しないのかな。しんみりしてても仕方ない。次のゲームに行くよ」

僕は参加したくない。でも参加して解答権を得られなければ、僕はどうしようもない。繰り返す負の連鎖に終止符を打てるのはいつなんだ。僕は勝てもしないゲームに参加を続けて人が死ぬ、凄惨な情景を震えながら目に焼き付けていく事しか出来ないのか。誰の事も救えず、助けず、力を添えられず、人が処刑という名目で冒涜される事を防げない。嫌だ。いっそ死にたい。見たくない。

「お金を稼ぐゲームだよ。モニターを見てね。10万円って表示されてるでしょ。」

本当だ。玄関の背景にがあって右上に10万円って表示されてる。10万円からお金を増やしていくのかな。ゲームして勝ったらお金が増える的な?

「詳しいルールは今からモニターに表示されるよ。」

・定期的にセールスが来ます。必要か不必要か品定めして、

 買うか買わないか選ぶ。。

・買った物は自分のお金稼ぎに使えるよ。使えない商品も

 あるから買う時は慎重に。

・お金を使い切ってしまったらゲームオーバー。

・終了の合図がかかった時に所持金が最高額の人が

 解答権を得る。

「ルール分かったら開始ボタン押してね。皆が押したらゲームスタート。」

何だか難しそうだな。株みたいな感じっぽいけど、自分で使えるか使えないか考えて買う。僕って審美眼とか無いから品定めは時間を要すると思う。制限時間が分かれば時間配分も考えられるんだけどな。やっぱり胡散臭そうな商品を突っぱねていけば大体はうまくいく感じのゲームかな。でも体裁の良い事言って騙されるかも。また僕には難しいゲームじゃん。作戦練らないとな。皆も作戦とか練ってるっぽいし、僕も考え無しじゃ勝てない。始まるまでの間、時間いっぱい使って考えないとな。始まるまでの時間も少ないだろうから、品定めの方法を考えておこう。見せかけの商品を見定める方法。うーん、分からないな。諦めよう、思いつかない。

「ねえ綾瀬 紡ちゃん?いつまで開始ボタン押さないでいるつもりかな。ゲームが始められないよ。」

ゲームが開始されないのは綾瀬さんが開始ボタン押してなかったからか。綾瀬さんはピエロの声掛けにも気付かずに集中した目つきでモニターを見つめている。少し待っていると、綾瀬さんは「ふう」と息をつくと周りを見渡して、おもむろに開始ボタンへと手を伸ばす。

「やっと押してくれたね。じゃあ開始だよ。」

ピエロの宣言と共にゲームが始まる。テトリスの時と同様、楽し気な音楽が聴こえてくる。何をしようか困っているとセールスがやってきた。セールスが出してきた商品は『化粧水製造機』。要らないだろ。流石に騙されはしない。『化粧水製造機』って一体全体なんだよ。面白いから買っておけばよかったかな。でも8万取られるのは痛いしな。もっと経済的な商品でお金稼ぎしていくのが効率いいと思うし。次のセールスが来るまで何してよかな。入手アイテムは無しか。あ、次のセールス来た。次は『ファイルセット』か。中々良いんじゃないかな、よし買おう。入手アイテムの欄から『ファイルセット』を選択して、使用のボタンを押せばお金儲けの仕方を決められる。あれ?『ファイルセット』、使用のボタンが無い。見誤った、使えない商品を買ってしまった。でも残金は9万円ある。次のセールスが来た時の見定めによって起死回生できる。早く来い。頼むから、負けてしまう。うわ、さっきと違って中々来ない。時間がかかりすぎだ、セールスが来た時の商品が使えないものだとマイナスで終わりだ。来た、セールス来た。商品なんだろう。『大企業の株』か、しかも株価上がってる所じゃないか。7万の出資は大きいけれど、それ相応、いや、それ以上の実入りが期待できるぞ。購入して早速、入手アイテムの欄から見てみよう。使用ボタン押したら見れるのかな。株価チャートの見方って分からないけど、恐らく純利益80万ぐらいになる。勝てるかも、確率低いアイテム入手できたんじゃないか?勝てるぞ、81万だ。僕は勝利を確然たるものと思って、株価が高騰しきった瞬間に売り払った。高騰していた株を売ったからか、所持金は100万近くまで膨れていた。

「そろそろ終わりで良いかな。はい終了!」

ピエロが終わりを明言するとスコアが背景暗くなったモニターに表示され、僕は100万近くのスコアが出ていた。満足だ、僕の勝利は確固たるものになったはず。100万近く稼いだやつなんて早々いない。資金の10倍もの額だからな。

「じゃあ最終所持額の順位を中央のモニターに映し出すよ!」

1位 綾瀬 紡  最終所持額 2508万

2位 花園 魁街 最終所持額 1502万

3位 零宮 清都 最終所持額  840万

4位 岸田 絵馬 最終所持額  730万

5位 綴 廬   最終所持額   98万

6位 有馬 絺晃 最終所持額   81万

7位 東 迅都  最終所持額   56万

ゲームオーバー 西塔 空羽  柳 真入

「今回のゲームで解答権を得たのは綾瀬 紡ちゃん。お金稼いだ方法説明してくれるかな。」

ボロ負けじゃないか。2508万なんて到達するには何のアイテム入手すればいいんだ。株以上のレアアイテムが当たったとかしか思いつかない。売り捌く物を作るアイテム買ったとか、一気にお金を集められる方法じゃなければ、20分ほどの短時間で2500万以上の利益はもたらされる訳ない。綾瀬さんの説明に期待してみよう。

「最初に『化粧水製造機』ってのをセールスが持ってきたから買ったんだよ。後はねずみ講の要領で、作った化粧水を勧誘セミナー開いて捌いたの。」

ねずみ講…何らかの法律に触れて犯罪になるはずだけど、よく思いついたね。綾瀬さんって詐欺関係の人なのかな。ねずみ講って素人がやっても売り上げは望め無さそうだし、『化粧水製造機』は8万。8万の出資で2508万の利潤だから2500万のプラスか。いや、軍資金が10万だから、利益は2498万か。ねずみ講って凄まじいな。

「説明ありがとう。じゃあ問題、命とも言うべき金銭を騙し取る行為を考え世に広めましたか?」

騙し取るって事は詐欺行為か。綾瀬さんは『化粧水製造機』を見てねずみ講を思いつくぐらいだし、詐欺師でもおかしくないよね。綾瀬さんは何歳なんだろうか、詐欺をしているなら高校生以下って事は無いよね。流石に大学生以上だと思う。詐欺の被害に遭って無一文になった人が首を括るひとも#少数派__マイノリティ__#ではない。綾瀬さんも詐欺を考案する事で間接的に人を殺していたという解釈ができる。結局綾瀬さんがした事は殺戮に手を汚したのに相違ない。

「詐欺の考案ね。したけど頼まれたから仕方ないじゃない?詐欺一つ考えるだけで詐欺で得た利益の四割も貰えるんだよ。簡単な商売、私はお金が欲しかっただけ。」

人間の三大欲求は睡眠欲、食欲、物欲だ。綾瀬さんは物欲の中にある金欲のために詐欺を考えた。しかも詐欺を発案した事に悪意を感じていない。詐欺って言うのは間接的に他人を殺める能力があるんだ。脅されて考えたのなら同乗の余地もある。でも頼まれたからと言った。詐欺なんて考える意味なんて無いじゃないか。お金が欲しかったからって断じてしていい事ではない。

「最近なら伝染病に関する便乗詐欺とか考えたよ。伝染病だけで三つも考えれた。利益は250万。良い商いでしょ?」

商売じゃないただの犯罪だ。詐欺なんて強盗と大差ない物だろ。詐欺だって不安を煽ってお金を持ってくるよう要求するんだ。奪い取っているのと異ならない。

「まず、詐欺なんて騙される方が悪いんだよ。自分は大丈夫なんて思って逃げてるから騙される。私は逃げるだけの哀れな人間から搾取する術を創意工夫しただけ。」

騙される側が悪いって言う意見はごもっともだという人間もいる。でも、オレオレ詐欺とかは?自らの子供を愛でる親の心に忍び込んで金を搾取する。子供を愛する親を翻弄して良心に漬け込む外道の行い。僕は一概に騙される方が悪いだなんて言えないと思う。

「私自身は詐欺した事無いけどね。編み出した方法で金を搾取してきた奴らから利益を頂戴するだけ。」

汚い人間だな。自らの手は絶対に汚さずに多額の金を懐に集める。詐欺行為に加担しているけれど直接的には関与していないから捕まっても軽い刑で済む。外道、卑劣極まりない。

「自分の行いを悔いる事もしない。綾瀬 紡を更生の余地なしとみなして処刑。」

いつものようにスタッフが現れて綾瀬さんを連れて行く。何故か大人しく連れられてゆく綾瀬さん。不思議に思って眺めていると奥の方へと消える。今回も悪趣味なピエロの殺人ショーを見せられるのか。嫌気がさしていた。しばらくすると中央のモニターに綾瀬さんの姿が映し出される。携帯電話片手を片手に持ち、首には縄が掛けられている。

「綾瀬 紡の詐欺の腕前は!一回成功ごとに床が五センチあがり、一回失敗ごとに床が五センチ下がるよ。」

綾瀬さんは片手に持った携帯電話で電話をかける。必死に通話相手に話しかけており、詐欺行為自体には慣れていなさそうな雰囲気が漂う。挙句の果てには電話が切られて彼女は焦りの表情を見せる。電話が切れてしまったのと同時に、床が下がる。まだかかとが少し浮いているぐらいだ。二回目の電話、一回目より落ち着いて話しているが、相手からの癇癪に近い態度を取られてしまい電話が切れる。床だまた下がる。十センチ下がったが余裕気な表情を取り繕って再度電話を掛けるが、冷静な相手に説教されて電話は切れる。かかとが大きく浮く綾瀬さん。大分焦った表情を晒して電話を掛けるがお金の話になった途端に切られてしまう。何とか足が着くぐらいまで床は下がってしまった。苦しそうに顔を歪めた綾瀬さんは電話を掛ける。しかし、同じ人に掛けてしまい、しつこいと着信拒否される。とうとつ浮いてしまった。綾瀬さんの足は床に着いておらず、首にかかった縄が彼女の息を絶やそうと首を絞める。必死に携帯電話を操作する。掛かった相手は大学の友人で、お金を騙し取ろうと話していると紡だと気付かれる。最後は軽蔑のヤジを投げられてしまい、手から電話は落ちて床は下がり息絶えた。モニターにいは宙づりでゆらゆらと朧気に揺れる綾瀬さんの亡骸が寸刻の間投影されていた。今回は窒息死だった。

【綾瀬 紡  脱落  処刑完了】

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