不都合な世間体

「これで後10人。生きて帰れるのは何人かな?」

陽気に甲高い声で僕たちに言うピエロ。真田君の酷い末路を見た僕たちは次のゲームなんて考えたくもない。だって遺文のした行為を省みれない人たちが死んでゆく。残った僕たちの中から神条さんの様に罪を受けとめていける人は何人だろうか。死んだ三人を見ても自分の罪から逃げだす人は少なからずいるだろう。僕は逃げずに受け止められるかな。不安でしかない。覚醒剤と決別しなければ…

「ブルーな雰囲気になっちゃってるけど、次のゲーム行くよ?皆、上から降ろされてきたケーブルに繋がってるリストバンドを手首につけてね。」

ピエロの言っていた物はいつの間にか僕のモニター近くに降りてきていた。恐る恐る手を伸ばしてリストバンドを手に取る。良かった、触っても何ともない。安心して手首にリストバンドをつけると鍵をかける様な音がしてリストバンドが外れなくなった。驚愕していると、周りからも外れなくなった事に驚く声が上がる。皆付けてしまっていたので後には戻れない。ピエロが解除してくれるまでゲームに付き合わなくてはいけない。

「そのリストバンドは嘘発見器だよ。今から君達に質問をする。一人ずつ答えてね。絶対に嘘をつく事が解答の条件。嘘発見器を誤魔化せたら1ポイント。一番ポイントが多い人が解答権を得るよ。」

絶対嘘をつく?何でわざわざそんなことを。訳わからない。解答権を得たかったら本当のことを言えばいいし、破綻してないか。

「本当の解答をした時は分かるからね。君達の情報は深い所まで把握してるよ。」

本当の解答でポイントを稼ぐ事は不可能という事か。難しいぞ、嘘発見器なんてものをかいくぐれる自信はない。僕には嘘を平然と言えるほどの演技力は備わっていない。今回のゲームでも解答権を得られなさそうだな。やっぱ演技って言ったら零宮さんとか桜木さん辺りが強いのかな。

「それじゃあ一問目ね。貴方のすきな食べ物は?質問は全部左から順番に答えてね。」

僕からか。好きな食べ物はすき焼きだから別の物を答えればいいのかな。『中華そば』でいいか。中華そばって答えてみると嘘発見器は鳴った。やっぱり無理だよね。嘘発見器って精度が非常に高い物って聞いた事あるし、大した演技力もない僕には騙すなんて到底不可能。僕が答えると隣の有馬君に解答者が移る。有馬君も嘘発見器が鳴った。解答者は次々移っていく。10人答えて音が鳴らなかったのは3人だった。絵馬さん、零宮さん、桜木さんだった。絵馬さんは意外だったな。絵馬さんも演技得意なのかな。ストーリー系のゲーム実況してた時もアフレコ上手かったし、別に変なことでもないかも。

「一問目で鳴らなかったのは三人だったね。よし次行くよ~貴方の住んでる都道府県は?」

僕が住んでるのは長野県だから長野県以外を答えたらいいんだよね。『三重県』でいいか。パッとしない所だったら嘘発見器も誤魔化せるはず。僕は『三重県』と答えたが呆気なく見破られてしまった。何だか恥ずかしすぎる。結局鳴らなかったのはさっきの質問と同じ三人。

「わあ君達嘘つくの上手だね。次行こうか~」

3.貴方の趣味は?        クリア 零宮 桜木

4.最近の印象に残った出来事は? クリア 桜木

5.好きな動物は?        クリア 零宮 桜木 岸田

6.好きな飲み物は?       クリア 桜木 零宮

7.初めて買った漫画は?     クリア 桜木

「さて最後の質問。貴方は後ろめたい事がありますか?」

後ろめたい事。薬物乱用か。でも嘘をつかなきゃいけないから『いいえ』だな。また鳴った。僕は全問鳴っちゃったな。結局桜木さんが全問鳴らなかったし、解答権を得るんか。

「今回のゲームで解答権を得たのは桜木 萌百子ちゃん。問題ね、貴方は醜聞を恐れて自らを応援するファンを殺害した?」

醜聞、スキャンダルか。桜木さんはスキャンダルを隠蔽するためにファンを殺した…人殺しのアイドルなんて、隠蔽しようとしたスキャンダル以上にスキャンダルになるよ。しかも自らを推すファンを殺した、相当だぞ。アイドルとして生きていくのにはファンの存在が必要不可欠だだからな。

「ファンを殺害?そんな愚行する訳無いでしょ。馬鹿ピエロが、何聞いてんの?」

相変わらず口が悪い子だな。ここまで口が悪い子がアイドルしてるとか世も末すぎる。意味の分からない世の中だ。

「へえ~否定するんだ。」

ピエロは桜木さんの目の前に写真を突きつける。金髪のピアスをあけた派手な男と萌百子さんが写った写真だった。二人は血に塗れており、殺されたファンの男性が映っている。紛れもない殺人の証拠だった。

「そんなチンケな写真、偽装じゃないの?今時それ程度の写真、いくらでも作れるよ。」

写真を突き出されても認めないのは図々しいね。なんでかな。嘘を重ねてでも世間体を保ちたいの?スキャンダルを恐れるあまり殺人を犯した桜木さんだからおかしい行動では無いけれどね。証拠を偽装と一蹴する桜木さんに新たに証拠を突きつけるピエロ。桜木さんはしぶとく、絶対に認めなかった。しかし、男性が捕まった事に関する証拠を突きつけられた途端に諦めたように語りだした。

「くっそ、世間体を保ちたかったのによ。そうだ、私とあの男が殺したんだよ。」

やっと認めた桜木さん。本当にファンの男性を殺したんだ。不都合な事実を隠蔽しようとして殺したのかな。不都合と聞いたらスキャンダルとして取り上げられるような事だろう。

「私はな、あの日ファンのキモイ奴にホスト行く所見られてたんだ。後をつけるなんて気持ち悪い事しやがって。本当に鬱陶しい。あの野郎、写真まで撮ってやがった。」

不都合なことってホストに入れ込んでる事だったのか。確かに世間に出ればアイドルとしての未来を絶たれる様な情報だ。しかも桜木さんは今17歳だ。ホストクラブに行っていい歳じゃ無い。

「私はキモイファンに次のライブがあった時ゆすられたんだよ。ホストクラブに行ってる事をネタにね。最初はシラを切ったさ。だけどしつこかった。ネットにアップすると言われた瞬間に怒りが限界に達した。近くにあった鉄パイプで殴り殺しちまったんだよ。」

あまりにも身勝手な殺人をした桜木さん。自分に非があったのにも関わらず、追及された事に腹を立てて殺害する。桜木さんは世間体が何よりも大切なのか?

「まあ私は気が動転してホストに連絡した。ホストは直ぐに来てくれた。私の状況を見た彼は車を出してくれた。見つからないように身体をバラバラにして全部違う海に捨てた。」

バラバラにした…人を切り刻むなんて人間の所業じゃない。何で人の命を軽々しく扱ったうえに、死んでも尚蹂躙できるのか。どうしてだ?何で皆人の命を奪うんだ。

「私とホストの男は重要参考人として警察に事情聴取を受けた。あの時は万事休すかと思った。」

疑われない方がおかしいよな。ファンの死体が見つかっていたのなら勿論だし、見つかっていないのなら行方不明扱いだから何か絡んでいると思われても仕方がない。

「私は咄嗟に嘘をついた。嘘発見器を上手くだまくらかせた。全てホストのせいにしたよ。結局捕まったのはホストの男だけ。」

ホストの男に自分の悪事の後処理をさせた挙句、警察に売るなんて。本当に救いようの無いアイドルだ。枕営業や、薬物に手を出しているアイドルの比じゃない。普通の悪事ではない。

「私は何事も無かったようにアイドルを続けた。一々気にするほど暇でもなかったしね。」

気にするほど暇じゃないって、人を殺しておいて言えることじゃないよ。ファンの男の人も、ホストの男の人も裏切った彼女。そこまでした挙句、一々気にしてられないって言えるものか?

「君も反省の色なしか。桜木 萌百子、処刑を開始する。」

紗和恵さん、皇さん、真田君の時の様にスタッフが数人現れ手荒に桜木さんを連れて行く。抵抗する桜木さんを抑え込んで連れて行くスタッフたち。いつも通り、程なくして中央のモニターに桜木さんが映る。大きなトラバサミが設置されたステージに立っている桜木さん。服は煌びやかな舞台衣装に着替えられていて、手にはマイクが握られている。

「桜木 萌百子は完璧なステージを出来るのか?採点スタート!」

桜木さんのソロ曲と表示されている曲が流れてきて、桜木さんは歌い踊る。口の悪さ、あれ程の悪事をした人間とは思えぬほど魅了されるステージだ。透き通るような美しい声に鶴が舞うような華麗な踊りに皆が魅了されていた。僕もモニターに映された彼女のステージから目が離せない。何故だろうか、彼女の本性を知っていても魅入ってしまうステージ。一曲分歌い終わった桜木さん。僕たちは何故か拍手をしていた。3人の審査員がそれぞれ点数を出す。合計13点以上なら合格だとピエロに説明された。審査員は4点4点と続き最後の一人が審査の結果を出すことに。5点なら合格だ。僕の心臓が早鐘を打つ。下されたのは4点。一点足らずで彼女は不合格になった。不合格が決まった瞬間にステージのトラバサミが閉じて桜木さんは両側から刃に狭まれて潰れた。ステージから滴り落ちる血。身体の至る所から血が流れだす。目を背けたくなる様な光景が広がる。いつもだ、モニターに映される処刑の様子はいつも僕らに吐き気を催す。逃げ出したい。醜くなった動きを止めた固形物。首から取れかかった頭がモニターにアップで映される。何でだよ。毎回毎回、惨く殺すのは。どうして蹂躙する様に命を奪う。その人がしたからと言って、同じ事をやり返していいわけでは無い。僕はまだ続けなければいけないのか?

【桜木 萌百子  脱落  処刑完了】

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