未来への贖罪

また殺された。皇さんのあちこちに散らばった痛々しい亡骸がモニターに映される。酷い有様だ、こんな人の命を侮辱する様な行為は許されていいのか?どうしてだ、義賊になったつもりか。紗和恵さんも皇さんも保身に徹して自らの罪を省みなかった。だからと言って簡単に命を蹂躙する事を容認されるわけでは無い。更生させたいなら罪を暴いて刑務所に入れれば良いじゃないか。どうして惨い事を平然とする。皆殺されるのか?誰も生きて帰られないのか?

「さあ、次のクイズを始めるよ。今回は友情ゲーム。今からモニターに君たちにとって一番大切な友達が表示されるよ。その友達についての問題を出題するからモニターに答えを打って送信してね。」

僕はモニターに目を向ける。表示されていたのは親友の写真と名前。良かった、僕にとっての一番大切な友達はやっぱりこいつだった。他の人だったら辛かったな。

「皆確認したかな。じゃあ問題!友達のすきな食べ物は?」

好きな食べ物か。色々あるけど鶏の照り焼きが一番好きだったよね。『とりのてりやき』っと。送信押したら完了。僕がこいつの知らない事って何だろうか。黒子の数とかかな。

「不正解者は無し!確かに簡単だもんね。次は友達の好きな歌。」

好きな歌か。僕に紹介してくれた奴かな。僕は『Hello vain』と打って送信した。他の人達を見てみるとまだ考えている人、既に答えを送信して他を待っている人の二つだった。いやまあ当たり前か。さっきの問題と違って皆長い。好きな歌って時期によって変わるから分からないとかもあり得るよね。

「答えが揃ったね。不正解者は3人。三問目は大切にしている物。」

大切にしている物?何だろう、ポスターとかかな。僕は長考したが全く見当つかない。好きな物が大切な物に繋がるかも。好きな物は猫だったから飼い猫が大切な物になるのかな。猫飼ってるって言ってたし。早く打とう。モニターに『猫』と入力して送信。

「不正解者は1人。次の問題は…」

4・生年月日は? 5・住んでいる市区町村は?

6・一緒に見た映画やドラマは?(一つ答える) 7・通っていた中学校は?

8・座右の銘は? 9・何年一緒にいる友達?

「これが最終問題!その友達は自分にとってなに?」

僕にとってあいつは親友だ。親友以外の何者でもない、僕にとって居なくてはならない親友なんだ。『親友』と打って送信する。周りを見てみたら神条さんが何やら必死に考え込んでいる。友達や親友だけでは形容しがたい特別な関係があるのかな。皆が送信し終わっても神条さんだけはずっと考え込んでいる。僕はたった一言『親友』と答えを出したが本当に正しかったのか。神条さんの悩んでいる姿は僕の中に疑問の芽を吹かせる。しばらくして神条さんは何かを決断したかのようにモニターを操作する。力強くモニターを押すとピエロが話し始める。

「不正解者は12人だね。よし結果発表!」

中央モニターに皆の正解数と不正解数、正解率と順位が表示される。

1.綴 廬    正7問 不3問 正解率 7割

2.有馬 絺晃  正8問 不2問 正解率 8割

3.真田 曉壱  正2問 不8問 正解率 2割

4.東 迅都   正3問 不7問 正解率 3割

6.岸田 絵馬  正5問 不5問 正解率 5割

7.零宮 清都  正9問 不1問 正解率 9割


1.神条 緋音  正10問 不0問 正解率 10割

3.綾瀬 紡   正6 問 不4問 正解率 6割

4.桜木 萌百子 正5問 不5問 正解率 5割

5.柳 真入   正0問 不10問 正解率 0割

6.西塔 空羽  正3問  不7問 正解率 3割

7.花園 魁街  正6問  不4問 正解率 6割


1位  神条 緋音 2位  零宮 清都

3位  有馬 絺晃 4位  綴 廬

5位  綾瀬 紡     花園 魁街

7位  岸田 絵馬    桜木 萌百子

9位  東 迅都     西塔 空羽

11位  真田 曉壱 12位 柳 真入

「解答権を得た全問正解1位は神条 緋音ちゃん!」

全問正解…仲いい友達どころでは無さそうだな。特別な思い入れがある人。特別な思い入れが何かは分からないけれど、人間は暗い感情の方が残りやすいから一番大切な友達に対して後ろめたさを感じているのかも。友達との楽しい記憶なんて儚いものであっさり消えていく。僕は小学校の時の仲が良かった級友の名前なんて忘れてしまっている。

「全問正解‥私の贖罪か。」

贖罪、何か友達に対して罪を犯したのかな。友達に対して犯した罪の償いが全問正解になるって事…

「神条 緋音ちゃんに問題。貴方は、自分が助かるために友達の命をおざなりにした?」

ピエロの言う事が本当なら神条さんは保身のために友達を見捨てた。神条さんは認めるのか、死んでいった二人の様に罪から逃げるのか。彼女は贖罪と言っていた。僕は認めると思うな。償おうとしている人が罪から逃げる訳が無いと思うから。

「はい。私は誰よりも大切にしていた友達が事故に遭った時見捨てました。」

やっとの思いで言葉を発したのだろう神条さん。苦悶に歪む表情で涙が零れそうな声で自分の罪を述べた。処刑された二人と同様に、罪があるから処刑されてしまうのだろうか。紗和恵さん達と違って猛省しているのにも関わらず罪があるだけで処刑されるのか。ピエロがしたい事は分からない。人の心を慮る事が出来なかった者は殺してしまっていいとでも思っているのだろうか。殺してしまっていいと思っているなら罪を認めた神条さんも処刑されてしまうだろう。思案を巡らせているとピエロの声が聞こえてくる。

「神条 緋音ちゃん。君のした事を説明してくれるかな。」

ピエロに言われ、俯きながら神条さんは語りだす。心情を悟られぬよう淡々と話そうとする。

「2年前の事故を覚えていますか。テレビでも放映された事故なので覚えていると思います。スポーツカーが街を暴走した事故です。飲酒運転でした。その事故で五人の人が亡くなりました。五人の内の一人が私の友達です。」

飲酒運転のスポーツカーが暴走。記憶に新しい事故だ。僕もネットやテレビで見た。高校生の女の子が被害者に居た覚えがある。僕が覚えている高校生の被害者が神条さんの友達だったのか。

「友達の名前は唯月 灯。私はあの日いつも通り灯と一緒に登校していました。楽しく会話していた矢先の出来事です。暴走するスポーツカーを見つけました。スポーツカーは私たちの方へ突進してきた。灯は私が轢かれない様に私を突き飛ばして、轢かれてしまいました。私は灯を助けるという思考には至らなかった。轢かれたくなかった。だから逃げ出してしまった。灯を見捨てて学校に走った。」

唯月 灯、その名前だ。テレビで見た名前。意識不明になった後命を落とした高校生の女の子。しばらく生きていた事が不思議なぐらい身体は激しく損傷していたそうだ。加害者の男性に下された判決は有期懲役15年だったはず。遺族から抗議の声が上がったんだよな。殺人罪を適用して死刑にすればいいんじゃないかって。

「私はずっと悩んでいました。死んで償うべきか、と。でも私は思ったんです。二度と灯たちの様に命を落とす人が生まれない様に、声を上げていくのが私の贖罪だと。」

神条さんの揺れる心。死ぬ事は償いではなく、逃げだと思ったんだろうか。僕には同じ境遇に置かれた事は無いから偉そうなことは言えないけれど、神条さんの選択は正しかったんだと思う。死ぬ事は単なる逃げで何の償いにもなりはしない。友達に助けられた命を使って二度と同じことを起こさない活動をする事はきっと正解だった。

「神条 緋音は更生した。生きて声を上げ続けてくれ。神条 緋音の解放を開始する。」

スタッフが数人現れ神条さんを連れて行く。処刑された二人が連れていかれたときとは違い、優しく丁重に連れていかれた。7分ほど過ぎた頃、中央のモニターが点いた。外の世界に居る神条さんの姿が映し出されていた。神条さんは外に出れた。皆実感しただろう、罪を隠さず償おうと尽力している者は助かるのだと。犯した罪から逃げ出さずに向き合って自らの悪事を受け止める。逃げてはいけないんだ。僕らは抱えた罪から目を背け続けていてはダメなんだ。モニターに映った神条さんの顔は晴れ晴れとしている。自分のした事に苦しみ、それでも生き続ける事が未来への贖罪になる。僕にも罪はあるのだろうか。自覚していない罪、相当僕は狂っているのだろうか。

「神条 緋音ちゃん、許される日は来ないかもしれない。でも貴方は罪を認め懺悔した。今はそれで十分です。」

歩き出す神条さんの姿は輝かしかった。立ち向かった強さが、交通事故の被害者を減らす活動にも如実に表れるのだろうか。懺悔しても悔いても許されはしない罪。僕の中にある許されない罪に、僕は真正面から立ち向かい、逃げずに受け止められるのか分からない。でも受け止められる人でありたい。

【神条 緋音  更生  解放完了】

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