晒された不遜な者
紗和恵さんが目の前、いや正確には画面越しにだけれど、僕たちが見てるところで惨く死んだ。あんまりだ。確かに紗和恵さんは自分の犯した殺人の罪を正当化した。でも殺す必要はない。人殺しを処刑して義賊になったつもりか?犯罪を私刑で裁くのも犯罪に該当する行為になるかもしれない。人の命を奪った時点で同じ犯罪者。
「皆何暗い顔してんの?どうせ今の映像は偽物でしょ。」
綾瀬さんが言う。偽物…そうだよね、本物の訳ないよ。だって殺すなら地上波でするのに、許可なんておりない。紗和恵さんはきっと助かったんだ。今頃解放されてるはず。簡単に人が死ぬ事はありえない。
「何言ってるのかな。本当に死んだよ。証拠見せてあげよっか。」
証拠を見せてあげると言ったピエロは近くの箱から何かを取り出す。ピエロは取り出した何かを僕らの足元に投げ捨てる。僕らはそれを見て絶句する。中には耳をつんざく様な叫び声をあげる者もいた。僕らの足元に投げ捨てられた物は、原形も分からぬ程潰れた人の生首。しかし僕らには生首の持ち主が紗和恵さんだとわかった。両側から潰されたように崩れていたのもあるけど、特徴的な髪色をしていた紗和恵さんと同じ髪色だったから。
「奥田 紗和恵さんの首から上だよ。これ見れば誰でも死んでるって分かるよね。」
言葉が出てくるはずも無い。出るとしたら嘔吐をしている様な唸り声に似た嗚咽。実際に嘔吐する者もいた。あるべき形を失った他人の生首を目の当たりにする事はショックでは形容しがたい物だった。
「落ち込んでる時間も勿体ないよ。早く次のゲームをしよう。」
場に相応しくない鈴を転がすようなピエロの甲高い笑い声。しかし分かった。僕らはピエロに逆らうことがあれば殺される可能性は大いにある。次のゲームに移れるような気分じゃなくても従うしかなく、着いていくと、さっきクイズをスタジオに戻ってきた。僕らはまた箱の様な物の中にある座席に座るよう言われた。皆が座ったのを確認するとクイズを出題する。
「さて今からクイズを出題するよ!今回は難しい問題を出すから、それを一番目に正解した人が本来出されるクイズの解答権を得られる。難しい方は不正解でも処刑はなし!問題は出題後モニターから確認できるからね。」
難しい問題か。ラーメンの丼に刻まれている模様の名前ぐらいしか認知度低い事は知らない。
(※ラーメンの丼に刻まれているのはメアンドロス模様)
別に解答権を得たとしても間違えて処刑されるかもしれないし、僕は考えたくないな。
「問題を出すよ、表示される画像を見てね。この中で自分の帽子の色がわかるのは誰でしょう?」
表示された画像には四人の人間が居た。四人の人間は帽子をかぶっており、色は赤色二人、黒色二人だった。三段分の階段に立つ三人。上から赤、黒、赤。もう一人は壁で仕切られた向こうにいる。
「この問題の条件を言うね。」
・4人(ABCD)は、赤or黒のどちらかの帽子をかぶらされており、赤の帽子をかぶっているのはAとC。白の帽子をかぶっているのはBとD
・帽子の数は赤2つ、黒2つ。4人とも、このことを知っている。また、誰がどの位置にいるのかも全員知っている
・4人は後ろを振り向いてはならず、少しでも動いたら射殺される
・Bは目の前にいるAの帽子の色を見ることができ、CはAとBの帽子の色を見ることができる。AとDは誰の帽子の色も見ることができない
・自分がかぶっている帽子の色を言い当てることができたら、全員釈放される
・しゃべっていいのは、自分の帽子の色が分かった時だけ。もし自分が言った答えが間違いだったら全員射殺される
「この条件に反しないように自分の被る帽子の色が分かったらモニターで文字を打って答えてね~」
これってBとCが同じ色の帽子を被っていないと誰も答えられないんじゃないの。Aは前二人が違う色だから分からない。BはCの色しか分からないから答えられない。CとDは誰のも見れないから帽子の色は判別できない。うん、誰もわからない。問題になってないんじゃないかな。
「お、正解者が出たね。」
え、早い。答えは何だろう、僕はもう50%に賭けて答えるという思考しか出来ないや。
「正解者は皇 咲さん。結論から言うと答えはBだよ。理由は皇さんに説明してもらおうかな」
Bなの?四人の配置され方から考えてBは確実に分かるなんて不可能でしょ。何でだろ、Cしか分からないんでしょ。判断材料にならないよ。
「分かった説明しよう。まず、BとCが同じ色だった場合Aは必ず答える。しかしBとCの色は違うためAは答えられない。B目線、Aが答えないという事は自分とCの帽子の色が違って判断できないから。そう考えるとB目線Cと違う色であると判断できる。よって答えはB。」
Aが中々答えない事はBにとっては自分とCが違う色って断定できる。本当だ、B目線で考えたらそうなる。BはCの色が分かるから、Cと違う色を答えたらいい。確かにそうだ。やっぱ医者の人って頭いい…医者って国家資格だし、医学部に入るのも異次元的。遠い世界の人だなぁ。
「解説ありがとう。それじゃあ皇さんに問題!貴方は省みる心を持たず、手術の失敗の責任から逃げたか?」
紗和恵さんに出された問題と同じような問題。でも違うよね、皇さんは神の手を持つ失敗の無い医者なんだから責任から逃げるどころか、失敗するなんてありえない。皇さんの失敗なんて世間にとっては青天の霹靂でしかないよ。何で挑発的な質問をするんだろうか。世間に悪いイメージを与えたいのかな。
「私の手術に失敗はありえない。その問題の答えはいいえだ。」
失敗はありえない。失敗したなら誰かが世間に言うよね。詐欺だ、とか内部告発って言うんだっけ。内部告発があってもおかしくない。今まで無かったんだから本当に失敗してないんだと思う。揉み消したって可能性も0って訳じゃ無いけど、失敗したなら煙は立つはず。
「君も不正解だね。何で君たちは自分の悪しき行動に反省が出来ないかな。」
呆れる様にため息交じりで話すピエロ。不正解という事は皇さんは手術に失敗した事があって、失敗の責任から逃げたって事になる。皇さんが失敗なんて報道されたりは無かったから揉み消したのか。公にせず揉み消す事は皇さんの地位と権力があればできる。
「何を言っている。俺が失敗したことなど一度も無い。」
皇さんの本で唯一覚えているのは彼の手術の極意だった。様々な可能性を考慮して常に心に余裕を持って手術に臨むのが成功の鍵だと。そんな言葉を本に記した人が焦っている。冷静さに欠けた皇さんの姿は僕が思い描いていた冷静で頭の切れる人物とは全く違う。
「皇さんも更生の余地なしか。失敗を押し付けられた医師はバッシング受けてるってのにまだ逃げるんだ。」
バッシングを受けている医師…?ニュースで報道されていた気がする。湯澤という医師だったかな。ピエロが言いたいのは皇さんが湯澤さんという医師に失敗の責任を押し付けた。湯澤さんは酷いバッシングを受けているし、本当に失敗の責任を押し付けたのならかなりの悪事だ。
「反省の色も見えないし皇 咲さんの処刑を始めるよ~」
ピエロが声を張り上げて皇さんの処刑を宣言すると紗和恵さんの時と同様、スタッフが何人か来て、皇さんを連れて行く。また死ぬんだ…僕らはまた人が死ぬところを見るんだ。僕たちは紗和恵さんの時の様に中央に設置されたモニターへ視線を注ぐ。モニターには手術室の様な場所が映し出されている。皇さんは胸のあたりに注射をされていた。手術室には麻酔で眠っている人もいた。
「では始めよう!皇 咲の処刑タイム!」
皇さんは何か書類を読んだ後、顔を顰めてメスを手に取る。驚くほど丁寧な手術を始めた。
「皇さんは失敗した手術を今度は成功させられるのか?!手術開始!」
メスで心臓の辺りを切り開く。心臓病の患者なのだろうか、心臓の辺りを慎重にメスで切る。すると彼は患者に何か装置を付ける。疑問に思って見ていると、心臓を切開しだした。あれは一時的に心臓の代わりをする装置なのかも。静かに手術を見ていると何か小さな弁みたいなものを患者の胸につけている。もう少し切り開こうとした瞬間、不注意によるものか、ただの失敗かは分からないけれど心臓近くの太い血管をメスで切り離してしまった。皇さんは焦って患者の手当てをするけれど切り離した血管は元に戻るはずも無い。患者は治療も虚しく命を落としていった。患者の命が落ちた瞬間、皇さんは爆発に巻き込まれる。体内から爆発したように見えた。皇さんは木っ端微塵になってしまった。紗和恵さん以上に原形をとどめていない姿になった。痛々しい体の破片がモニターに映る。
【皇 咲 脱落 処刑完了】
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