抜け落ちる歯車
僕達は別のスタジオに連れていかれる。連れて来られた先には試着室と綺麗な服が大量に書けられたハンガーラックがあった。僕たちはテレビに映るように服を着替えろと遠回しに言われているのかと思った。皆どうすれば良いかわからずあたふたしているとピエロが声高らかに話し出した。
「今から君達にはお洒落に着替えてもらうよ。僕が一番お洒落だと思った人にはクイズの解答権を与えまーす。皆分かってるよね。」
ピエロの言葉を聞いた瞬間、皆は何かを察したようだ。僕もピエロの言葉を聞いて思った、多く問題に正解していた方が有利なのかもしれない、自分たちに出される問題は各々にとって至極簡単なもの。つまり、解答権を得るだけで有利になれるのは確実だ。僕は解答権を得ようと綺麗な服を上手く着合わせられるように考えた。僕にはお洒落という物の概念がイマイチわかっていない。目立たないような服装を選んできたからだ。柄はジャケットに使うのが良いんかな。とりあえず柄は一種類だけにするべきだよね。試着室が人数分用意されてるのは良かった。服悩んでる間に埋まってて着替えれなくなったら途方に暮れていた。鞄とかの小道具もある。僕は財布にしようかな。開いていた試着室に入ると早々と着替える。ストライプのスーツなんて選んじゃったな。しかも上下ともストライプにしちゃったし、ネクタイは金色にしちゃった。僕にスーツは似合わないでしょ…着替え終わり、おずおずと外に出るとほとんどの人が既に着替え終わり、試着室から出てきていた。僕が出た時まだ着替えていたのは奥田さんだけだった。ピエロは僕たちに、奥田 紗和恵さんが出てきたらお洒落査定するよと告げた。僕たちは5分ほど待っていると、カーテンが開く音がした。皆紗和恵さんの方へ顔を向ける。見た瞬間皆が紗和恵さんの姿に釘付けになる。青いブラウスに気品のある青い花びらが描かれている白いフレアスカートに身を包み、白い花のネックレスを首にかけ、主張控えめで謙虚さのあるバッグを肩にかけていた。美しい、綺麗という言葉のみが溢れてくる姿。清楚で気品があり、紗和恵さんの雰囲気にマッチした服装だった。紗和恵さんの勝ちだろう、皆がそう思いながらピエロに査定された。ピエロは一人ずつに評価と感想を述べてから一番お洒落だと思った人を選ぶと言った。皆微かに期待していた素振りがさっきまであったけれど、紗和恵さんが試着室から出てきた途端に微かながらにもあった期待する素振りは消え、塵の様に散っていった。諦めの雰囲気が僕ら一帯に漂う。僕は服を着替えていた時点で諦めていたけれどね。ストライプのスーツに、金色のネクタイはセンスの欠片も無い。似合う人が来たら凄くお洒落で格好よく見えるんだろうけど、生憎僕はスーツとかは全く似合わない人間だ。まず堅苦しい服自体が似合わない。制服とか礼装を着たときの僕は笑えるほど不格好だ。
「うんうん君たちのファッションセンスはよくわかったよ。じゃあ解答権を得た人を発表する前に皆の服について一人ずつコメントしていくよ。」
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綴 …ストライプのスーツが個性的。君正装とか似合わないタイプかな?
有馬…カジュアルな服がよく似合ってる。ニット帽はいらないかな。
真田…パーカー好きなのか、真っ先に選んだ服がパーカー。黒パーカーに柄タイツはあんまりだよ…
東 …動き易さを重視した服装だね
皇 …変わってないように思うのは気のせいかな?
岸田…無地を好むのか柄物どころか刺繍も嫌みたいだね。
零宮…コスプレかな?君の顔立ちにはあっていると思うよ。
神条…中々に奇抜だね。近くに趣味の合う人とか居ないでしょ…?
奥田…素晴らしいの一言に尽きる。
綾瀬…違法薬物でも売りに行くのかな?闇に紛れられそうだね。
桜木…ステージに立つような衣装だね。自分に似合う服が分かっているみたい。
柳 …ノーコメントです。
西塔…地雷コーデ、趣味かな。病んでる感じは無さそうだし。
花園…端正な紅染めの着物。髪飾りも豪華。
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「ざっとまあこんな感じかな。解答権を得たのは…まあ皆予想付いてるよね。奥田 紗和恵さん。」
だろうねって顔をしている人ばかり。僕も勿論例外なくその一人だ。紗和恵さんはラッキーだな。問題に他の人より一問でも多く正解していれば有利になるかもしれない。
「それでは奥田 紗和恵さんは今から出題されるクイズに答えることが出来ます。問題、貴方は自分を正当化した殺人をしましたか?」
自分を正当化した殺人って、人を殺した事を正しいと主張するって事だよな。人殺しを正当化は正気じゃない。どんな理由があっても他人に与えられた命を自らの勝手な行動で奪い取る訳にはいかない。合法的な殺人は死刑のみだ。死刑ですら執行が滞っている。人間は人の命を奪いたがらないように思うためのストッパーが脳にかかっているんだ。でも故意か偶然かは分からなくても、ストッパーが外れてしまう事がある。掛け直せる能力があれば人の命を奪うという結果には繋がらないけれど、掛け直せない人間も少なからずいる。紗和恵さんは掛け直せなかった人間なのか?
「いいえ、私は自らを正当化する犯罪などしてはいない。」
だよね。見ず知らずの僕に優しくしてくれた人が人殺しなんてありえない。僕は紗和恵さんを信じたい。
「不正解だよ!残念だったね、君は脱落。処刑だ。」
ただの横暴だ、紗和恵さんが殺人を犯した根拠なんて無いはずだ。なのに不正解だから処刑なんて横暴は許されない。紗和恵さんが人を殺した証拠も無いのに。
「何が不正解よ。正当化していない。だって私の行動は正しかった。何が正当化よ。私は被害者よ、殺さなければいけに状況まで私を追い詰めたのはあの男。私は正しい。正当化なんてしてないわ。」
空気が怪しくなってきた。紗和恵さんの今の発言は人殺しを認めたって事だ。紗和恵さんは人を殺された挙句、自分の殺人を正当化して、自分の方が被害者だと主張する。悲劇のヒロイン気取って正気ではない人間だった…
「私はあのゴミカスに虐げられてきたのよ。毎月毎週毎日、私は心が限界だった。死のうかと思った時に私には幸運が転がり込んできた。あのゴミカスが担任のクラスの調理実習がある事にね。私は毒を混ぜたわ。あの時の私には毒を混ぜるしか道が無かった。今でもそう思っている。私は被害者なのよ!」
声を張り上げて自らを正当化する紗和恵さんに周りの参加者も引いた様な顔をしている。
「正当化した挙句悲劇のヒロイン気取りですか。貴方の人間性は狂ってしまったようですね。更生の余地なしとみなして今すぐに処刑です。」
ピエロが紗和恵さんに処刑を伝えるとスタッフの様な人が数人現れ紗和恵さんを奥の方に連れてゆく。僕たちはピエロに促され中央に設置された巨大なモニターに目を向ける。モニターには程なくして、紗和恵さんの姿が映る。椅子に体を固定させられ、彼女の前には大きなダイニングテーブルが一つある。
「では始めましょう!奥田 紗和恵の処刑タイム!」
ピエロが処刑を宣言するとモニターに映るダイニングテーブルに食事が運ばれてくる。同じ見た目の同じ料理。
「家庭科教師の奥田 紗和恵は味覚も肥えているのか?!格付けチェックスタートー!」
一回目の査定、紗和恵さんは即答で答えを出す。正解。二回目も早かった。この調子なら間違える事なく続けていけるかもしれない。三回目、四回目、五回目、次々と正解する紗和恵さん。しかし八回目で異変が現れる。食す量と考える時間が長くなってきた。九回目、十回目と回数を重ねるごとに異変は強くなっていく。紗和恵さんは必死に査定を続けるがもう限界に近い。十五品目の査定、紗和恵さんは今まで以上に時間をかけて査定した。下した結果の答えは不正解モニターに不正解の文字が大きく表示された瞬間、紗和恵さんの左右から壁が迫ってくる。丸めた紙の様になる紗和恵さん。椅子から離れられないため最終的には圧し潰された。カメラにまで血が飛んできてモニターの広範囲に血が映る。
「残念でしたね~」
朗らかに、声高らかに紗和恵さんの死を煽るピエロ。誰もが嫌悪感を感じていた。
【奥田 紗和恵 脱落 処刑完了】
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