一問目を答える参加者たち

始まった。誰から当てられるんだろう。

「一問目 医薬品を医療目的からはずれて使ったり、医療目的のない薬物を不正に使ったりすることを何という?解答者は綴 廬君!制限時間は十秒だよ。」

え?僕?どうしてまた僕からなんだ。えーと何て言うんだっけ。確か薬物乱用だったよね。覚醒剤とか大麻とか使うことを言うはず。不正に使うから薬物乱用かな?

「答えは薬物乱用。」

合ってるかな。最初の問題で退場なんて恥ずかしい目にはあえんし…不正解でも死ぬわけないよね。全国区で地上波放送なんだから処刑なんて横暴は認められない。不正解でも恥をかくだけだから。

「正解。簡単だったかな?よし次の問題行くよ!互いに心を許し合って、対等に交わっている人を何という?解答者は神条 緋音ちゃん。」

指名された神条さんは迷うような素振りを少し見せたかと思えば直ぐに答えを出した。友達、と答えとなる単語のみ放った。

「正解だよ!次の問題。少年法が適用されるのは何歳まで?解答者は有馬 絺晃君だよ。」

チャラそうな男の人が解答者。こんな問題出すってことはもしかして有馬君は法律関係の人?なら半端なく頭いいってことだよね。でも法律関係者って金髪大丈夫なのかな?

「20歳未満まで適用されるはずだ。」

18歳未満だと思ってた。未成年は少年って解釈になるのかな?僕にはいまいち理解できないな。刑法39条の心身喪失が存在するのが理解できない人間だから仕方ないか。

「おー正解。んじゃあ次だね。食材の切り方を七つ答えてね。解答者は奥田 紗和恵さんだよ~。」

食べ物の切り方の名称は家庭科で習ったぞ。みじん切りと半月切り、いちょう切りと輪切り、こんだけしかわからんな。半分ぐらいしか分からない。指名された人は家庭科教師の人だっけ。てかそうじゃないと分からないよね。

「ささがき、千切り、乱切り、柏木切り、輪切り、みじん切り、いちょう切り。これで七つですよね。」

柏木切りって何、聞いたこと無い。まず柏木切りなんて使わないでしょ。そんな切り方かは見当もつかないけれど。

「流石は家庭科教師、余裕だったかな?じゃあ次!他人を謗ること、あるいは徹底的な悪口などを言うことを何という?解答者は真田 曉壱君。」

真田君は答えに対して何か後ろめたい事があるのか目線を逸らした。どこか焦っている雰囲気が感じられる彼を見て疑問、疑惑の念を抱いた人は少数派では無いだろう。何故反応が不自然になるんだ。彼には本当に罪がある…罪に関する問題だったから彼は焦った様子でいるのか?皆の目線が真田君に集まる。真田君は答えを出した。

「誹謗中傷って言うはず…」

尻すぼみな言葉。真田君は蛹から孵ろうとする成虫より恐怖を感じているかもしれない。多くの人に白い眼を向けられ、世界で自分だけが責められている様な思いを抱く。心に余裕が無くなった人間は主観的な考えしか出来なくなると聞いた事がある。同じものかと聞かれれば分からないけれど。

「正解だよ。でも答えはもっと元気よくいてくれなきゃ。6問目行くよ。親族を装って電話をかけ、お金を騙し取る詐欺とは?解答者は綾瀬 紡ちゃん」

綾瀬さんはハッとしたような表情をする。何か考え事でもしていたのか、ピエロに指名された事を驚いている様子を見せる。問題を聞いてなかったのか周りをきょろきょろと見回す。座席の前にあるモニターに問題が表示されていたのだろうか。探し物を見つけたようにモニターを凝視する。僕のモニターには何も映って無いんだけど‥‥

「答えはオレオレ詐欺だね!」

元気そうに答える綾瀬さん。さっきから行動が場に全くそぐわない。綾瀬さん、学生か社会人か分からないけど、空気を読むのが苦手なのかな。人と関わるのが上手くなさそうだな。僕も偉そうに人のこと言える様な人間では無いけれど、空気読んで周りに合わせる事は出来る。

「元気な子だね。体力持つかな?じゃあ次の問題行こうか。ヤクザの使うドスという言葉の意味は?解答者は東 迅都君。」

何の迷いも無さそうに東さんは答える。

「刃物…ですよね。」

東さんより先に答えたのは六人。皆それぞれ事情?があって解答者に対しては至極簡単な問題に答えるのが遅れた。詐欺に関する問題やドスについての問題は解答者二人の素性に関わるから簡単なのかな。なら二人はヤクザと詐欺師に関わりがあるって事?ひえー怖い人たちと会っちゃったもんだよ。ドスって言葉、僕は一瞬何を指すのか迷ったのに、すぐ答えるあたり本当にヤクザ関連の人っぽいよな。

「正解だよ。即答だったね!手際よく進めるよ。次の問題発表するね。影響力のあるオタクを何と呼ぶか?解答者は桜木 萌百子ちゃん。」

澄ました顔で解答者との指示を聞いている。やっぱ地下アイドルとはいえ、アイドルしてるから可愛いな。テレビに出てくるアイドルみたいに歌って踊ったりしてステージで踊りまわるのかな。一度見てみたいかも‥

「答えはTO、トップオタって意味。つまらない問題出さないでくれる。緊張した私がバカだったわ」

あんまり口が良く無い奴だな。彼女のファンには被虐趣味のある人間が多そう。凄く勝手な偏見でしかないけど被虐趣味が無いと口の悪いアイドルは応援できなさそう。それとも普段は猫を被っているとか?アイドルって煌びやかで皆が憧れる様な存在だと思っていたけれど、光が多い分影も多いんかな。

「萌百子ちゃんは手厳しいな~辛いからさっさと次の問題出しちゃうよ。はい皇 咲さん寛解について説明して。」

桜木さんに酷い物言いをされて落ち込んでいるのかよ。何だか可哀想に思えてくる。僕も桜木さんの口の悪さを目の当たりにして大分ショックを受けてしまった。僕の中にあったアイドル像が音を立てて崩れ落ちていったもの。アイドルって本性とテレビとかで見る姿と違うんだなって…

「寛解とは病気の症状がほぼ消失した状態だ。完治の劣化版がわかりやすい例えかな。」

完璧な答え、なのかな。僕には寛解という言葉さえ初めて聞いた。完治と寛解は違うんだな。勉強になる…僕は医者になんてなれっこない人間だけれどね。

「いやぁ流石は皇先生だ、完璧な答えですね。よしよし次の問題行こっか!口裂け女発祥の地とされる都道府県はどこかな?柳ちゃんが答える番だよ。」

柳さんが答える番になった柳さんは困ったような顔をして俯いている。答えがわからないとかでは無いよな。だってピエロは言った。解答者にとって確実に正解が分かる問題しか出題しないと。柳さんがわからないならピエロの言っていることは破綻する。どっちになんだ?

「ぎ…ぎふ‥岐阜県です!」

最初にポツリと話した言葉は全く耳に届かなかったが、大きな声を張り上げた言った答えはしっかりと、うるさすぎるぐらい聞こえた。唐突に発した大声、参加者の大半は顔に、驚きが全面に出ていた。勿論僕も驚いた。

「大きい声で答えなくても聞こえるよ。まあ正解ね。早く次行こっか…次の問題はネットで出会った者たちが現実世界で会い親睦を深める会を何という?絵馬君が答える番だね。」

ラッキー問題じゃん。絵馬さんなら答えられないはずがないよね。だって絵馬さんはネットの事なんでも知ってるんだから。

「答えはオフ会!俺はした事ないけどな。」

分からない訳無いよね。流石絵馬さんだ。やっぱ尊敬するな。絵馬さんみたいな良い人に罪なんてあるのかな。あってもピッキングとかのちっぽけなものでしょ。絶対に世間から酷く咎められる事なんてしていない。

「正解だよ。まあ分かるよね君は。はい次行こ。ミスコンとは何の略?西塔 空羽ちゃんが答える番だよ。」

何、西塔 空羽ちゃんってファッションモデルに居てもおかしくないほどの美人じゃん。うわぁ、地下アイドルしてる桜木さんより可愛い。桜木さんが卑しい目で西塔ちゃんを見てるのがまた何とも言えないな。アイドルって嫉妬深くて足引っ張り合うって本当なのか?

「ミス・コンテストだけど。」

あまりにも素っ気無い、愛想のない答え方に僕は幻滅する。愛嬌無いタイプの子か。何か顔がよくても愛嬌皆無な感じは冷めるんだよね。顔だけでチヤホヤされる事は多いだろうけど結局皆幻滅して離れていくんだろうな。

「素っ気無くされると悲しいな。心が痛む。うー先に進もうか。次の問題は作画が出来てない状態でする声の収録は何と言うか。声優の零宮 清都君答えてね。」

零宮さんに声色が似てた男の人って本物だったんだ。やっぱ凄い人が多いな。僕が居ていい場所なのだろうか。でも僕は強制的にだけれど参加する資格を与えられたんだし、ってこのクイズは罪の抱えている人だけが選ばれるんだろ。なら僕は罪持ってるって扱い受けてるって事か。なんか悲しいな。

「赤線って言うんだよ。」

クイズに答えるというよりは勉強を教える様に零宮さんは答える。やっぱ抑揚の付け方とか、声の高さとか丁度良くて聞いてるだけで快くなる声だ。彼が声をあてているアニメは熱狂的なファンの間では神のお告げと言われるほどのものだそうだ。確かに心が浄化されていくような感じがする。

「正解!簡単だよね。業界用語なんだしさ。最後の問題、身請けとは?花園 魁街ちゃんの番がやっと来たよ。」

身請けって確か遊女だったけ。あやふやだけど今でいう娼婦みたいな人を引き取ることだったはず。まだ年端も行かぬだろう少女に分かりそうな問題では無いけど…

「身請けは約束の年季が明ける前に稼業をやめさせる事だよ。」

何か滅茶丁寧に説明された。年季という言葉が僕には理解できない。年季って何だろ。

『※年季とは奉公人を雇うときに約束した年限の事です。』

知らない言葉もまだまだ多いんだな。寛解とか年季とか…どうせすぐこの言葉も忘れるんだろう。僕は覚えるのに時間がかかるし、一回聞いたことを平気で忘れてしまう。嫌な性質だな。

「花園 魁街ちゃん正解だよ。これで一人一回は答えたよね。」

クイズにまだ答えていない人は居なかったため、ピエロは話を続けた。

「このまま問題出していってもマンネリ化して視聴者はつまらないでしょ?僕も面白くないし嫌だからなぁ。そうだ面白い事思いついたや。今から皆にやってもらうよ~」

悪趣味なピエロはまた何か思いついたようだ。僕たちは一体いつまでピエロの悪趣味に付き合わせられるのだろう。

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