第三章 王家の紋章(真歴一四九〇年一月)
1.王子
何もこんなところに閉じ込めなくたっていいのに。それにもう、怖くなんてないんだから。
王子はゆっくり木箱の裏を覗きこんだ。
王宮の宝物庫は地下二階にあった。宝物庫とは名ばかりで、普段はもっぱら倉庫として利用されており、祭事に使う備品や、修理が必要な鎧や盾が乱雑に置かれていた。
今日はそんなものに混じって一〇歳の誕生日を迎えたばかりの王子もそこに置かれていた。
「ひぃー」王子が悲鳴をあげる。
「な、なんだ、ネズミなんて怖くないぞ。このやろー」
王子は誕生日のプレゼントに貰った銀のナイフをブンブン振り回した。
「もう、僕が何をしたって言うんだよ? 森の獣だって倒せるのにさ」
王子はふくれっ面で近くにあった盾をカンっと切りつけた。
ガシャガシャガッシャーン。
盾が雪崩のように崩れて、王子は下敷きになった。
「もうー、なんでー」
王子は手足をバタつかせて喚き散らした。
疲れるまで暴れまくり、一通り泣きじゃくると、急に眠気に襲われた。
昼間、森で獣を追いかけ回していた疲れがどっと出たようだった。
王子は盾の中で丸くなり、眠気に任せて眠った。
何時間経っただろうか? 夜も深まり、宝物庫は真冬の冷気に包まれた。
「うわ、寒い」
王子はブルブルと震えなら冷たい盾をどかした。
「これじゃ、ほんとに死んじゃうよ」
王子は泣き言を言いながら辺りを見回した。
その時、先ほど盾が崩れた棚の奥に見た事もないランプが置いてあるのが見えた。
「なんだ? あれ? こないだ怒られた時には、あんなのなかったと思うけどな」
王子は四つん這でランプに近づいて行った。
ランプは古いものなのか、光沢もなく、あちこちに錆があった。
「これって、まさか!」
王子はニヤニヤしながら、ランプを手に取った。
「魔人ってどうやるんだっけ? さするんだっけ?」
王子はランプの脇腹を優しくさすってみた。
王子はワクワクしていた。もくもくと煙を上げて、魔人が登場するはず。
――が、しばらく待ってみても何も起こらない。
「あれ? 何にも出てこないぞ」
王子はキョロキョロと辺りを見回した。
その時。
「おいっ、こっちだよ!」
突然王子の背後で声が聞こえた。
「うわぁー」
王子は驚いてランプを落としてしまった。
ランプが床に落ちると、その衝撃でランプの注ぎ口が折れてしまった。
「あー、折れちゃったぁ」
王子は急いでランプを拾い、くっつくわけでもないのに、一生懸命くっつけようとしていた。
強く握ってしまったのか、今度はランプが少しへこんでしまった。
「どうしよう……」
「どうしようじゃねーよ。こっち向けよ」後ろからまた声が聞こえた。
「ひぃ」王子は恐る恐る振り返った。
そこには、王宮では見た事のない服を着た男が立っていた。
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